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第3話 いきなりの話

 その日は私の15の誕生日だった。いつもように家族で食卓を囲む。誕生日なのでスペシャルディナーだ。豪華な食事が用意してある。そして今日は珍しく父もいた。


「お誕生日、おめでとう」


 みんなが乾杯をして祝ってくれた。


「アミも15になった。大人の仲間入りだ。生まれた頃は・・・」


 父は感慨深く話した。いつになく饒舌だ。少々、退屈だが付き合わねばならない。マーガレットや兄たちも神妙な顔をして聞いている。


「それでお前に素晴らしい話がある」


 父が最後にぶっこんできた。うれしそうな顔をして・・・。こんな時は私にいいことがあるわけがない。


「何でございますか? お父様」

「宮殿に上がれることになった。いよいよあの話が本格的になって来た」


 それが何のことか、私にはピンと来ない。だがマーガレットは大いに喜んでいた。


「まあ、そうですの。それはおめでたい」

「そうだろう。我が家の誇りだ」


 とんでもないことになっているような気がしたので聞いてみた。


「私が宮殿に上がるのですか? あの話ってどんなお話なんですか?」


 すると父は説明してくれた。


「そうだ! 宮殿だ。そこでの生活に慣れるんだ。宮中の礼儀作法や必要な知識を身に着けて恥ずかしくないように」

「何のためでございますか?」

「それは決まっているじゃないか。王子様と結婚するためだ」


 父に言われて、一瞬、茫然とした。まさか本当に王子様と結婚するとは思っていなかったのだ。ただマーガレットの野望だとしか・・・。言葉を出せない私に父が言った。


「驚いただろう。これが大人になったアミに捧げる最高のプレゼントだ。これからお前は幸せな人生を送れるのだ」


 父は上機嫌だった。宮中・・・それは私にとって堅苦しいイメージしかなかった。そこで今以上に束縛される。自由などないだろう・・。だが嫌だというわけにはいかない。多分、父がいろんなところに根回ししてやっと決まったことなのだろう。やめることなど到底できない・・・。

 だが反対してくれる人はいた。


「父上。大人の仲間入りとはいえアミはまだ15です」

「そうです。婚儀の件はまだ早いかと・・・」


 それはブルーメとレーヴだった。(そうだ! そうだ!)と私は心の中で2人を応援した。


「アミはこの屋敷にしばらくいさせる方がよいかと・・・」

「私もそう思います。一人前の淑女になってからでも・・・」


 2人はがんばってくれている。シスコンをこじらせているがこんな時は大いに役に立つ。ここはもっと油を注いでみるか・・・。


「私もお兄様たちと一緒にいたいのです。お別れするなんて・・・」


 少し寂しそうに言ってみる。すると兄たちはさらに勢いづいた。


「父上。アミもそう言っています」

「家族と離れるとはかわいそうです」


 だが父は動じない。


「おまえたちがアミを思ってくれるのはうれしい。だがこれは王家のため、ひいては国のためなのだ。スピラ王子はゆくゆくは王様になられる。その王様を我が家は支えねばならない。そのためにアミが王妃様となり、中からと外からとでお助けするのだ・・・」


 父はこんこんと説いた。さすがは王宮で権力を握る父だ。シスコンの兄などおとなしくさせてしまった。

 まだ納得していない私にマーガレットは止めの言葉を述べた。


「よかったわ。アミさん。あなたが王妃になるなんて・・・。私の努力も無駄ではなかったわ。亡くなったあなたを産んだお母様もきっと喜んでいることでしょう」


 母のことを言われたらさすがの私も弱い。


「ええ、そうですわね・・・」


 と言うしかなかった。それで父は私が承諾したと思ったようだ。


「さあ、アミの前途を祝して乾杯しよう! 乾杯!」

「乾杯!」


 これで私は宮殿に上がることになった。やはり貴族の令嬢には自由というのはないのか・・・。


 ◇


 宮殿に上がるにあたり、準備が大変だった。ドレスに靴に装飾品・・・。デザート公爵家にとって恥ずかしくないほどのものを持たさねばならない。マーガレットは大いに張り切って、出入りの商人を呼び寄せていろいろと注文した。


「ドレスは豪華なものを。靴は装飾の派手なもの。外国製もいいわね。首飾りやイヤリングに指輪・・・」


 まるで自分が宮殿に上がるかのような勢いだった。もっともマーガレットも多くの品を自分のために注文した。あいさつに上がる時、恥ずかしくないようにということだったようだ。


 2人の兄たちはあと少しで別れになると思ったせいか、いつも以上に私に接してくる。ウザイを通り越してきているが・・・。


「アミ。嫌になったらすぐに帰ってきていいんだ」

「そうだ。宮殿で我慢することはない。ここにアミの居場所はあるんだ」


 やさしくそう言ってくれているが、つまりやはり私は一度は宮殿に行かねばならないようだ。もう逃れられない。腹をくくるしかないようだ。

 宮殿に連れて行く人員も限られている。お付きの者が2名だけ・・・。だからリュバンとララに来てもらうことにした。だが2人とも渋い顔をした。


「こんな年で宮殿など・・・礼儀も知れませんし・・」

「私も田舎の出ですから・・・。そんな華やかなところで勤まるかどうか・・・」


 知り合いもいない宮殿に上がるにはやはり2人が必要だ。私は何とか頼み込んで2人に宮殿について来てもらうことにした。


 これでやっと準備ができた。果たして宮殿で私はどうなることか・・・。


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