第29話 おにぎり
私はありったけのコメを荷馬車に積み込んだ。そして必要な道具類も用意してくれている。さらに多くの村の人たちが協力してくれるという。小麦を出さなくてもよくなったことに感謝してくれて、この計画に加わってくれたのだ。
村長自ら先頭の馬車に乗り、多くの荷馬車を率いて王都に目指した。私も最後尾の馬車に乗り、辺りを警戒する。盗賊が襲ってくるかもしれないからだ。
幸い、何事もなく王都についた。大手門で事情を話してハルタ村の馬車群が大通りを行進する。
「食料だ! 食べ物が来た!」
王都の人たちは私たちの到着に大喜びして、通りに飛び出してきて歓迎してくれる。小麦であれば配るだけでいいのだが、コメの場合はそうはいかない。ちゃんと調理して配らねばならない。
私たちは王都の役人により大広場に案内された。ここでテントを立てて準備する。
「さあ、始めて! 打ち合わせ通りに!」
私が声をかけるとまず即席のかまどに大なべをかけ、コメと水を入れて炊いていく。それがいくつも・・・。
王都の人たちはそれを見て失望の声を上げた。
「チェっ! 小麦を配るんじゃなかったのかよ・・・」
彼らは小麦を待っていたのだ。それが得体のしれない穀物を炊き始めたので、ちゃんとした食べ物はもらえないと思ったようだ。ため息をついて家に帰る者もいたが、コメを炊く香りに引き付けられる者もいた。
「なんだ? おいしそうなにおいがする・・・」
ようやくコメが炊きあがった。だがこれで完成ではない。多くの人に食べてもらうために「おにぎり」にする。これなら食器はいらない。
私たちや村の人たちが塩をつけてご飯をどんどん握っていく。形や大きさは不揃いだが、それは御愛嬌。握っていくうちにうまくなっていく。しばらくやっているとまとまった数のおにぎりができた。
「さあ、配ります。これはおにぎりという食べ物です! みなさん! 並んでください!」
私が見ている人たちに声をかける。ずっとにおいをかがされ、お預けを食っていた人たちはテントの前に殺到した。
「押さないで! たくさんありますから!」
私はおにぎりを渡していく。お腹を空かせていた人たちはすぐにかぶりついた。
「うまい!」
辺りにその声が充満した。食えればいい・・・と思っていた人たちの予想をはるかに超えて多くの人たちを感動させていたのだ。
私はそんな光景を見てほっとしていた。これでしばらくはコメで王都の貧しい人たちの腹を満たせると・・・。
その中に身なりのいい、背の高い青年が紛れていた。その後ろには護衛らしい屈強な剣士が2人控えている。その感じから貴族の子弟なのかもしれない。その青年がじっと私の方を見ていた。
(何の用かしら?)
私はそばに寄って尋ねた。
「何か御用ですか?」
「いや、変わった食べ物を配っていると思って・・・」
その青年はそう答えた。彼は私ではなく、おにぎりに興味があったのだ。端正な顔立ちのイケメン・・・どこかで見たような・・・だが思い出せない。
「お召し上がりになりますか?」
「ああ、頼む」
青年はそう答えたが、後ろの護衛の剣士が無言で首を横に振って止めている。
「よいのだ! ひとつもらおう!」
私はおにぎりを渡した。彼は恐る恐る口をつけようとする。
「大きな口でかぶりついてください。その方がおいしいですよ」
「わかった!」
彼は大きな口を開けて食べた。
「うまい!」
「そうでしょう。おにぎりというのです。コメという穀物を炊いて塩で握ったもののです」
「そうか。このような食べ物があるのか」
「はい。ハルタ村で栽培しています。これなら小麦が病気でも作れます」
「それなら食糧事情は改善するわけだな」
その青年は大きくうなずいた。そして言葉を続けた。
「小麦の病気は我々が至らないからだ。天が怒っているのだろう。そのために王都の民は飢えている。何とか助けてやりたいものだ・・・」
それを聞いて私はこう思った。
(貴族の子弟なのに思いやりが深い人だな)
私もそうだったが、貴族となれば下々のことなど目に入らない。だがこの青年はこんなところまで来て民の窮乏を知ろうとしていた。それならこんなことも知ってもらいたい・・・私はそう思って彼に訴えた。
「小麦が不足なのは病気のせいもあるでしょう。しかしそればかりではないのです」
「何があるというのだ?」
「村々から王都に備蓄していた小麦を送っています。しかしそれが盗賊に襲われて奪われたり、また送ったはずの小麦が消えていたりします。何者かがこの状況に便乗しているようです。小麦の値を吊り上げているのでしょう」
確かに小麦の値は庶民の手が届きにくいほど上がっている。小麦商人は売り控えをしているといううわさもある。さらに小麦が不足すれば値がまた跳ね上がる。
「そんなことが・・・」
その青年はそれを聞いて絶句していた。
「ですからあとは王様にお願いするしかありません。小麦がみんなの手に渡るようにと。私たちができるのはおにぎりを配るだけなのです」
「そうか・・・。わかった・・・」
その青年は嘆息して行ってしまった。その背中はかなり落ち込んでいるようにも見えた。
(まるでこの国を背負っているような感じね。まあ、何も考えていない貴族よりはマシだけど・・・。名前を聞かなかったけど、どこの誰かしら?)
その青年のことが気にかかったが、そんなことを考えていられない。とにかく今はもってきたコメをおにぎりにして皆に配らなければならない。




