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第20話 準備

 ソワレの提案・・・それは牧場近くに食堂を出すことだった。それで彼は料理の腕を振るえるのだが・・・。


「この牧場近くより町とかの方がよくない?」

「いえ、ここがいいのです。新鮮な食材が手に入ります。お嬢様が持ってきてくださった卵はすばらしいです。どんな料理を作ろうかと想像がかき立てられます」


 ソワレがそう言ってくれた。確かに牧場から卵やミルク、新鮮な野菜などが手に入りやすい。しかし・・・


「村の人相手だからそんなに人が来ないかもよ」

「それで十分です。あまりに多いと私一人では手が回らないので・・・」


 それで牧場の近くに食堂を立てることにした。こじゃれた建物・・・と思うのだが、如何せん、こちらは素人だ。やはり丸太小屋がせいぜいだ。その代わり窓を大きく取って店内を明るくする。

 やがて食堂用の大きな丸太小屋はできて、中のテーブルやイスも用意できた。そしてかまどを作って厨房の設備が整った。

 あとは食器類だ。皿やカップ、フォークにナイフにスプーン・・・これらはさすがに買いに行くしかない。町まで出かけてそろえた。


 これで食堂が開けると思ったら、ソワレはまだだと言う。


「できればパンやバター、チーズがあればありがたいのですが・・・」


 牧場ではリュバンがパンを焼いていた。牧場には元々、大きなかまどがあり、村人から小麦を分けてもらって挑戦したようだ。すると最初からおいしいパンができた。あまりにも見事だったので、(魔法を使った?)という目で彼女を見た。


「とんでもない。私がまっとうに作ったのです。私だってこれくらいできます」


 リュバンはそれを否定した。

 それからはリュバンがパンの当番だ。ソワレもリュバンのパンに感心していた。食堂で使うくらいは多めにパンが作れるだろう。

 バターはララが作った。牛乳はあるからそれを攪拌して塩を加えればできる。ただし溶けやすいいから魔法で冷たくした容器に入れて保存しなければならない。


 問題はチーズだった。これはいろんな種類があり、また熟成期間もいるから簡単にはできない。牧場で作れるようになるまでどこかで調達しなければならない。

 村は牧畜が盛んで、チーズを作っている牧場もあった。そこは肉牛や豚の飼育もおこなっている。そこから肉も調達できる。コロ牧場でもそれらの飼育を検討したが、さすがに断念した。私が動物と話せるようになったから、かわいそうになって出荷できなくなるからだ。


「これですべてそろったわね」

「はい。おかげさまで。あとはこいつら次第です」


 ソワレは厨房の床に積んでいる小さな樽を指さした。


「これが俺の料理の肝なんです」



 屋敷からここに移ってくるとき、ソワレはいくつかの小さな樽を持ってきていた。その時、私は聞いてみたことがある。


「何が入っているの?」

「命より大事なものでさあ」


 ソワレはにっこりと笑った。だから余計に気になった。


「教えてよ」

「じゃあ、秘密にしてくださいよ。調味料を作っているんです」

「調味料?」

「ソースの大事な部分です」


 塩やコショウなどはあるが、それは明らかに別物だ。


「実はね。ある国には大豆から作る調味料があるそうで、それを作っている人が王都にいました。教えてもらって作ってみたのです。茶色いのがミソ、黒いのがショウユ、それに玉ねぎから果物まで入れて熟成したソース・・・」


 ソワレはそんな調味料を作って自分の料理に入れていた。だからおいしかったのか・・・。


「これさえあればどこに行ってもおいしい料理ができますよ」


 ソワレはそう言っていた。



 食堂を開くにあたって特製の調味料が多量にいる。そうなるとまた仕込まねばならないだろう。


「お嬢様。お願いがあるのですが。畑でこれらの作物を作っていただけないでしょうか?」


 ソワレがメモを私に渡した。


「大豆、えんどう豆、ナスにキュウリ・・・。まあララに相談してみる。村の人に種を分けてもらえるかも。でもこのコメって何?」

「小麦のような穀物です。炊いて食べます。ふっくらして少し甘みがあって何とも言えないほどおいしいです。とくに私の料理に合います」


 ソワレはそう言った。私はコメを食べたことがなかった。だがうわさには聞いたことがある。主食として食べている国もあるようだ。


「私もよく栽培法を知らないのですが、普通は土地に水をためて作るようです」


 そう言われてもよくわからなかった。水浸しの畑なんて・・・


「例の調味料を教えてくれた人から聞きました」

「でも種があるのかしら? 作っている人はいないんでしょ」


 見たこともない穀物を栽培している人が王都にいるのか・・・。


「それがその人ならなんとかなりそうなんです。ただし栽培法はよくわからないから牧場で試行錯誤でやっていただくしかないと思いますが・・・」


 おいしいものを食べるためには仕方がない。


「じゃあ、そのコメという穀物の種を手に入れて。とにかく畑を広げておくわ。ララにまた負担かけるけど・・・」


 まだまだやることは多い。とにかく食堂は開けそうだ。


「名前は何にするの?」

「それは考えてあります。オペラ食堂です!」

「オペラ?」


 丸太小屋の店にはそぐわないが・・・。


「ええ、そうです。何となくいい響きでしょう。高級そうで・・・」


 ソワレはオペラが何なのか、知らないようだ。ただ上流階級の人間が鑑賞する素晴らしいものとしか認識がない。それはそれでいいのかもしれない。特に反対する理由もないので、


「まあ、いいんじゃない」


 そう言っておいた。まあ店の名だから本人が気に入ればいいのだから・・・



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