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第1話 牧場の1日

 窓からまぶしい朝日が差してくる。1日の始まりだ。


「ああっー」


 はしたないが、私は大きなあくびをして寝ぼけまなこでベッドから下りる。キッチンにはいつも朝食が用意してある。パンにミルク、卵にチーズ、野菜サラダだ。


「お嬢様。おはようございます」


 リュバンがコーヒーも出してくれる。


 それを飲むと眠気が取れる。


「今日もがんばらなくちゃ!」


 さっと食事を済まし、作業着に着替えて外に出る。するともう牛が集まっている。


「集まってくれてありがとう。じゃあ、順番でね」


 私はそう声をかけて小屋に入る。すると牛も1頭だけ入ってくる。


「じゃあ、少しじっとしていてね」


 そこで乳しぼりをする。なかなか乳の出はいい。1頭が終わると次の牛が入れ替わりに入ってくる。私は順番に乳を搾っていく。牛が協力してくれるから作業がスムーズだ。

 家で使う分は別にして、集めた乳はミルクタンクに入れ、荷車に載せる。するとそこで待ち受けていたチャオが運んでいく。チャオは元々屋敷にいた番犬だ。なかなか賢く出荷先に運んで料金を受け取ってくる。


 それが終われば畑だ。そこはララたちの担当だ。彼女たちががんばってくれるので1年中、素晴らしい作物がとれる。小麦など穀物はよく実っているし、トマトなどの野菜もいい具合だ。


「おいしいものが作れそうね」


 そこからトマトとキャベツを取り、かごに入れる。そばにはリンゴやオレンジなど果樹の木がある。ここからよく熟した実を摘んでいく。

 次は鶏小屋だ。巣をのぞくと卵が産んである。


「今日もありがとう。いただいていくね」


 私がそう言うと鶏が首を縦に振る。私は卵をいくつか、かごに入れた。それらをソワレのコロ食堂に持ち込めば1日の仕事はほぼ終わりだ。


「さあ、今日も腕によりをかけて作りましたぜ」

「今日は何?」

「肉じゃがにほうれん草の和え物、みそスープ。照り焼きもつけておきましたぜ」

「ありがとう。おいしそうね」


 ソワレの店で私はランチを食べる。夕食もこの店から運んでくれる。腕のいいコックだからいつも満足している。それにここでしか食べられないものも多い。

 だからソワレの店は繁盛している。と言っても村の人たちが食べに来るくらいだからひどく混んでいるわけでもない。


「ごちそう様!」


 私は食べ終わるとまた牧場に戻る。向かうは馬房だ。草を食べに行っている馬が多いが、私の愛馬はそこで待っていてくれる。


「さあ、ファンタ。行くわよ!」


 鞍をつけて栗毛の馬にまたがる。今日は丘の方にでも行こうか・・・そう考えながら走らせて行く。さわやかな風が心地いい。午後からの馬での遠出は日課にしている。道を走っていると、たまに村人とすれ違うこともある。


「ごきげんよう」


 と馬上から声をかける。すると向こうも頭を下げて、


「ご機嫌よろしゅう」


 と笑顔で返してくれる。ここでは貴族の令嬢ということで一目置かれている。こんな《《はしたない》》姿ではあるが・・・。

 丘には草の絨毯が広がり、美しく花が咲き誇っている。そしてそこからは村全体と遠くの山々まで見える。


「絶景だな!」


 この光景はいつ見ても飽きない。そこに腰を下ろす。それに清々しい風が吹き、ぽかぽかとした日が照らしている。何だか眠くなってくる。ここは誰もいないから遠慮はいらない。

 私は草の絨毯に体を横たえて目を閉じた。すぐに眠りに落ち、雲の間を飛び回る夢を見て幸福感に浸る。


「ちゅん。ちゅん」


 耳音で鳥の鳴き声がする。【起きてください】と言っている。それで目が覚める。横には小鳥のスピリットがいた。いつも私を空から見守ってくれている。いつまでも寝ているものだから、心配して起こしに来てくれたようだ。起き上がるともう日が落ちそうになっている。


「寝過ごした! もう帰ろう!」


 あわててファンタのまたがり、家に戻る。するともう夕食時分だ。今日は少し遅くなった。


「ただいま!」

「おかえりなさいまし」


 リュバンが夕食を並べている。スピリットが飛んできて彼女の肩にとまり、耳に何かささやいている。


「今日は丘でよくお休みになったのですね」

「あまりにポカポカしていたから」

「まあ、お昼寝も結構ですけど。夜は早くお休みください」

「わかっているわ。でもつい・・・」


 牧場の夜はすばらしい。星がキラキラ輝いている。私は窓を開けて長い間眺める。それに・・・ここには素晴らしい作家がいるし、音楽家もいる。

 ララが詩を朗読したり、物語を話したり、時には笛を吹いてくれることがある。それで夜を過ごす。遅くまで・・・・。

 そして知らずうちに眠りに落ちて、また朝を迎える。これが私の日常だ。毎日が充実して楽しい。以前の生活では考えられなかった。


 ただ王都にいる人たちはどう思っているのだろうか? 多分、落ちぶれてあわれな生活を送っていると思われているのだろう。彼らにとって王都の社交界がすべてなのだから・・・。それにデビューすることもなく、田舎暮らしを強いられている私はもう忘れられた存在なのかもしれない。でも・・・。


「ここが私の場所よ!」


 私は胸を張って言える。ここでの生活が最高に幸せなのだ。それに比べて以前はひどかった・・・。思い出すだけでもぞっとする。


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