第9回 狂った宴
ダロスの荒野の北端。ここにはかつて砦が築かれていた。ガイスト王国の王都を防衛することが主な目的である。
その昔、他国からの軍事侵攻を受けた際、この砦が主戦場となったことがあった。何とか敵の侵攻を防ぐことには成功したものの、多大な損害を受けたために放棄される運びとなった。
ボロボロとなってしまった姿を晒している砦。今、この建造物の前に武装した男達が集結していた。それはダロス荒野北端の調査のため、出撃したガイスト王国騎士団の精鋭部隊である。
「ここか……」
崩壊した砦を眺めつつ、言葉を漏らしている騎士団長のゼノン。ここに何かが潜んでいると彼は判断していた。
「モートン、何か分からないか?」
「あの崩れた建物から声が聞こえます。しかも、とても下品な声です」
デュルケムからの問いに対し、聞き耳を立てて答えるモートン。彼は鋭敏な感覚で砦から聞こえる声を感じとっていた。
「よし、建物の中に入るぞ。全員、警戒を怠るな」
騎士団長として砦の中への突入を指示するゼノン。廃墟となった建物に何者かがいる以上、正体を暴く必要があった。
砦の中に侵入したガイスト王国騎士団の精鋭部隊。幸いにも外には警備など配置されておらず、迅速かつ無駄のない身のこなしで奥へと進んでいく。
そして、到着した砦の最深部。この場所で精鋭部隊は信じられない光景を目にする。男達と女達が享楽の宴に耽っているのだ。
男達の方であるが、女達の奉仕を受け、酒を飲み、肉を貪っている。しかも、彼等はただの人間ではなかった。身体の各部が異形化しており、半ばモンスターに近い姿をしていた。
反対に女達であるが、全身が裸の状態で男達に酒を注いだりしている。男達から尻や胸、さらには股を触られることもあるが、彼女達は嫌がるどころか、逆に恍惚の笑みを浮かべている。これでは性の奴隷だ。
「あれはスカーレット隊」
男達に奉仕を行っている女達の正体に感づくデュルケム。スカーレット隊の面々はどういう訳か怪物達の奴隷に成り下がっていたのだ。
「……この状況を捨ててはおけん。全員、一斉に攻撃開始、奴等に騎士としての礼は不要だ」
眼前に広がる異常な状況を目の当たりにして、迷わず部下達に攻撃開始の指示を出すゼノン。モンスターでも人間でもない不気味な相手、余計な手心は不要だと判断していた。
次の瞬間、剛竜の鎧を装備したデュルケムを筆頭として、精鋭部隊の騎士達は宴の場へと殺到する。
思いもしなかったガイスト王国騎士団による襲撃。男達は慌てながらも何とか応戦しようとする。
そして、全身に被う物のないスカーレット隊の面々。中には困惑したり、逃げようとしたりする者もいるが、彼女達の多くは男達と同様、本来は味方であるはずの精鋭部隊に立ち向かっていく。
「一体どういうことなんだ!?」
スカーレット隊の行動に困惑しているモートン。何故、敵に手を貸し、こちら側に牙を剥く行為に及んでいるのか。
「ひとまず、スカーレット隊は行動不能にしろ。多少の怪我は仕方がない。そして、男達は容赦なく始末しろ」
信じられない事態で混乱する部下達を落ち着かせるため、騎士団長としての次なる指示を出すゼノン。各人思うところはあるかもしれないが、まずは事態の鎮静化と邪魔者の始末が最優先である。そしてまた、醜態を晒したばかりか、任務の妨害を行うスカーレット隊については、何かしらの処罰が下ることは間違いないだろう。
スカーレット隊の女性に当て身を行って気絶させるモートン、愛用の剣で異形の男の首を刎ねるゼノン。彼等の動きはとても鮮烈である。
「これで!」
轟のハルバードで異形の男を両断するデュルケム。確かに姿こそ不気味であるが、実力はそれほどでもない。
「デュルケム、先に進め。恐らく連中の親玉がいるはずだ」
「ここは任せてください」
異形の男達の始末とスカーレット隊の無力化を行いつつ、ゼノンとモートンはデュルケムを先に行かせようとする。騎士団でも指折りの実力者の彼ならば、きっと成し遂げることができると考えていた。
「了解!」
邪魔な異形の男を切り捨てながら返事をするデュルケム。幸い行く手を阻む者がいなくなったため、これ幸いと彼は奥へと進むことにする。果たして、鬼が出るか、蛇が出るか、進んでみないと分からないことだ。
尋常ならざる享楽の宴の場から血だまりの場へと変貌してしまった砦の内部。しかし、最も奥深くにはさらに恐ろしいものが待ち構えようとしていた。
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