第8回 魔の領域へ
ガイスト王国の王宮内に設置された騎士団長用の執務室。ここに腰をかけているゼノン、彼の目の前に立っているデュルケムの姿があった。しかも、2人共に難しげな表情をしている。
偵察としてダロスの荒野の北端へと向かわせたスカーレット隊。ところが、こちらに戻ってくるどころか、一向に何らかの連絡さえもないのだ。
「一体どうしたものか……」
「そろそろ、我々が動いても」
人差指で机の上をトントンと叩いているゼノン。一方、彼の傍らに立つデュルケムは出撃を進言する。何の音沙汰もない以上、スカーレット隊に何かあったことは間違いないだろう。
「失礼します!」
すると突然、執務室の扉が開いたかと思えば、騎士団の制服に身を包んだ男が入室してくる。彼の名前はモートン、体格こそ小柄ではあるものの、鋭敏な感覚と身軽な運動神経の持ち主であり、主に斥候任務等を請け負っている。
「どうした?何かあったのか?」
「はっ、実は王都の周辺でスカーレット隊に所属する馬を保護しました」
ゼノンからの問いに対し、事実を報告するモートン。しかし、何かあったのだろうか、彼の口ぶりは動揺しているようにも見える。
「単に保護しただけではあるまい。何か問題があったのだろう?」
「はい。酷く興奮している状態でして……まるでじゃじゃ馬そのものです。我々が落ち着かせるだけでも手一杯です」
困った口ぶりで質問に答えているモートン。彼の報告を聞いて神妙な表情で何かを思案しているゼノン。
「よし、我々も出撃する。行き先はダロスの荒野北端、目的はスカーレット隊の捜索だ。私とデュルケム、他数名で行く。残りの者は王宮で待機、周辺の警戒を怠るな」
「了解!」
「はっ!」
騎士団長として出撃を決断するゼノン。さらに彼は詳細な事項までを伝える。上官からの指示にデュルケムとモートンは歯切れよく返事をする。
その後、速やかに出撃準備が始まる。ゼノンは愛用の甲冑、デュルケムは剛竜の鎧を装備する。そして、準備が整った後、編成された精鋭部隊はダロスの荒野北端に向けて出立するのであった。
暗雲渦巻くダロスの荒野の北端。スカーレット隊を追う形でこの地へと足を踏み入れた精鋭部隊。早速、彼等は状況の把握に努めることにする。
「あれはっ!?」
騎士団の誰よりも目が良いこともあり、何かを発見してみせるモートン。彼が指差した先に転がっている物、それは金属製の鎧のパーツであった。
「この装備……スカーレット隊のものだな」
転がっていた鎧の一部を拾い上げ、冷静に品定めをしているデュルケム。鎧が小型で軽量なことから女性用の物を判断していた。そうなれば、必然的にスカーレット隊の代物であることは察しがつく。
「しかし、何だってまたこんな場所で鎧を外したんだ」
地面に転がっている鎧を見て訝しんでいるゼノン。野外で鎧を脱ぐなど自殺行為にも等しい。ただ、ここで何かが起こったことは間違いない。
「何か胸騒ぎがする……先を急ぐぞ」
部下達に先へ進むことを指示するゼノン。この時、彼は何か嫌な予感を抱いていた。そして、デュルケムを始めとする精鋭部隊の面々も同様であった。
迅速な動きでダロスの荒野北端の奥深くへと歩みを進める精鋭部隊。今、彼等は魔の領域へと足を踏み入れようとしていた。
ここまで読んでいただきましてありがとうございました。
引き続き精進していきたいと思います。




