第6回 残忍な女騎士達
ガイスト王国の王宮内に設置された執務室。ここでは国王として執務に勤しむガイスト王、傍らで主君を補佐するリーの姿があった。
「しかし、よろしかったのでしょうか?」
「何のことだ?」
「スカーレット隊のことです。本当に戦力になるのでしょうか?」
ガイスト王の問いに答えた後、疑念の言葉を口にするリー。今でこそ大臣として政務に携わる立場である彼だが、若い頃は騎士団に所属しており、特に剣の技術については右に出る者はいないとも言われていた。
政治は勿論のこと軍事についても精通するリーであるからこそ、今回設立されたスカーレット隊は女子達の戯れのようにも見えたのだ。
「構わん。使いものになれば、それで良し……仮に役に立たないのであれば、それまでであっただけのこと」
涼しげな様子でリーの疑念に答えるガイスト王。彼自身、どちらに転んでも問題ないと考えていた。
その後も執務を続けるガイスト王とリー。国を預かる者として、彼等の仕事はまさしく山積みと言えた。
ダロスの荒野。ガイスト王国のデモスの森と隣接しているエリアであり、土地の半分以上を荒れた土地と岩石で締めている。このため、植物は育ちにくい環境にある。
このダロスの荒野と駆け抜ける一団がいた。露出度の高い軽装の鎧を着用し、疾駆する馬に跨った女性達。ガイスト王国のスカーレット隊である。
「止まれ!」
隊長であるサラの指示により、急に馬を止めるスカーレット隊。今、彼女達の視界には、猿を彷彿とさせるモンスターの集団が映り込んでいた。
モドキモンキー。猿の意匠と特質を宿したモンスターであり、本物と同様、軽快な挙措動作と集団での行動に長けている。
何故、モドキモンキーの集団がここにいるのかは分からない。もしかすると、食料を求めて移動している途中なのかもしれない。
「汚いな」
モドキモンキーの集団を見た途端、吐き捨てるように言うサラ。この時、彼女にはモンスター達に対する嫌悪の表情が見てとれた。
「醜いモンスターなどこの世界には必要ない!この世界は強く美しい若者達が導くべきなのだ!」
さらに言葉を続けるサラ。強さ、美しさ、若さこそが彼女の美意識の基点となっていた。このため、老人、醜い者、弱者等も毛嫌いしており、ましてや、モンスターの存在は到底許せるものではなかった。
「醜いモンスターに制裁を!」
スカーレット隊にモドキモンキーへの攻撃の号令を送るサラ。それと同時に彼女の配下である女騎士達が行動を開始する。
怒濤の勢いでモンスターの群れに突撃を開始するスカーレット隊。対するモドキモンキーは先程まで休憩していたので初動が遅れてしまう。
「ふんっ!」
ある女騎士は跨った馬でモドキモンキーを踏みつける。相手は苦しみ悶えるが、そんなことは一切お構いなしである。
「やぁっ!」
別の女騎士は長身のランスでモドキモンキーを突き立てる。鋭利な穂先は敵モンスターの頭部を容赦なく貫通する。
「!」
さらに別の女騎士は馬に跨ったまま、弓矢でモドキモンキーを射かける。射出された矢は逃げる相手の背中に命中する。
最早、これはモンスター討伐ではなかった。強者による弱者の一方的な虐殺に他ならなかった。同じ騎士達がこの光景を見れば何を思うのだろうか。
やがて、モドキモンキーの群れは全滅し、あちこちに亡骸が転がっている。その様子を冷ややかに眺めているスカーレット隊の面々。
「火焔玉で始末しろ」
「はっ!」
最後の後始末として指示を出すサラ、対する部下の女騎士は手短に返事をした後、懐から赤色の玉を取り出す。
火焔玉とは発火性に富む鉱物を粉末にした後、植物性の油脂を混ぜ合わせて成形した武器である。元々は遥か東方で発明されたとも言われるが、ガイスト王国の技術で独自の武器として完成させていた。
モドキモンキーの亡骸に向かって火焔玉を投げつける女騎士。玉がモンスターの身体に触れた瞬間、その場から激しい勢いの爆炎が巻き起こる。
瞬く間にモドキモンキーの亡骸を飲み込む火焔玉の爆炎。その様子をじっと眺めているスカーレット隊。この場にいるのは折り目正しい騎士ではなく、残忍な蛮族の集団と言っても過言ではなかった。
ガイスト王国の何処か。荒廃した土地の中、ボロボロの構造物が建っている。ここは昔、国土を守る砦ともされてきたが、戦闘の破壊で半壊し、後は時間と共に朽ちていくだけである。
かつての姿は見る影もなく無残な砦の内部。ここには現在、醜悪な顔立ちをした男達が集まっていた。以前、彼等は暴力を振るったり、金品を盗んだり、女を弄んだり、人を殺したり、何らかの悪事を働いた者達である。
おぞましいことに男達は身体の一部が異形化していた。頭部に角が生えたり、獣のように爪が伸びたり、口から牙が生えたり、半ばモンスターじみた姿をしている。
そして、集った男達の視線は1人の男に集まっていた。全身から生えた毛、頭部から伸びた2本の角、鋭く尖った牙爪、背中から生えた蝙蝠の翼、まさしく悪魔そのものであった。
しかし、この悪魔もかつては人間であった。人間であった頃の名前はウォズ、ガイスト王国で悪事を働いていた男であった。
偶然にも人ならざる力を手に入れ、眷属とも呼べる者達を従えたウォズ。これから先、彼は己を追い出したガイスト王国に牙を剥こうとしているのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
これからも頑張っていこうと思います。




