第5回 スカーレット隊
デュルケムの目の前に現れた女騎士、彼女は気性が荒っぽそうな馬に跨り、手には黒い血の滴る剣を握り締めている。その後方には、配下と思しき馬に跨った女騎士達が大勢いる。
さらに女騎士が装備する鎧であるが、全身を覆う騎士の鎧とは異なり、重要な部位のみを覆う構造になっている。このため、露出度がとても高く、扇情的であるとも言える。また、鎧の両肩が真紅に塗装されているのも特徴的だ。
「私はガイスト王国騎士団所属、デュルケム・プロムナード」
女騎士に自身の名前と所属を名乗るデュルケム。これは王国に仕える騎士としての社交辞令であった。
「貴殿がデュルケム=プロムナードか、こちらはサラ=スカーレット」
「スカーレット……」
女騎士からの返答を聞いて、驚きを隠せないデュルケム。スカーレットと言えば、ガイスト王国でも指折りの貴族の姓である。そうなると、彼女は有力貴族の関係者ということになる。
「この度、新しくガイスト王国で設立されたスカーレット隊の隊長をしている」
続けざまに衝撃的な事実を告げるサラ。対するデュルケムは今しがた聞いた部隊のことは初耳であった。恐らくは後方にいる騎馬隊こそがスカーレット隊なのだろう。
「訓練中にモンスターを見つけたのでな。始末させてもらったぞ」
「それは申し訳なかった」
サラから事の顛末を聞いて謝罪の言葉を述べるデュルケム。どうやら、こちらの遅れで彼女の手を煩わせてしまったようだ。
「プロムナード殿は騎士団の中でも腕利きと聞く。他の騎士達から失望されないよう、お願い申しあげますぞ」
「……注意します」
サラの容赦のない言葉に反省の言葉を口にするデュルケム。この時、スカーレット隊の女騎士達の中には彼を冷笑する者もいた。
そしてまた、スカーレット隊の言動に対し、デュルケム自身、内心は穏やかではなかった。しかし、騎士としての立場上、波風の立たない振る舞いで凌ぐしかなかった。
「我々も忙しい身分なので、これにて失礼する」
それだけ告げた後、荒々しい馬を鮮やかに操り、どこかへと去っていくサラ。同時にスカーレット隊の女騎士達も彼女に続く。
何と高慢な騎士達なのであろうか。スカーレット隊の去っていく様子を見届けるデュルケム。その後、彼もこの場から撤収するのであった。
ガイスト王国の王宮内に設置された騎士団長の執務室。華美な内装は一切排除されており、実務性を重視した構造になっている。
騎士団長の執務室で腰をかけているゼノン。彼の目の前にはデュルケムが立っている。今、デモスの森における実戦訓練の報告を聞いていた。
「剛竜の鎧については戦闘面では問題なし。2体のモンスターを撃破することにも成功……ただ、最後の1体はスカーレット隊に横取りされてしまったと?」
「はい。間違いありません。私がもう少し迅速に動いていれば……」
ゼノンからの聞き取りに対して、正直に答えてみせるデュルケム。最後のモンスターを討ち取れなかったことは非常に残念であった。
「まあ、スカーレット隊のことについては仕方がない。こちらも聞かされていなかったしな」
悔しさを滲ませるデュルケムを宥めるゼノン。騎士団長である彼でさえ、スカーレット隊のことはつい先程まで知らされていなかったのだ。
「それにしても、スカーレット隊とは……」
「何でも女性だけで編成された騎馬隊だそうだ。今後は国王陛下の直属として動くらしい」
デュルケムからの疑問に対し、騎士団に降りてきた内容を伝えるゼノン。さらに彼はスカーレット隊に関する詳しいことも教える。
スカーレット隊には、ガイスト王国の貴族の令嬢、もしくは騎士団の関係者の女性が所属していると言う。これまで女性が戦いの場に赴くことはなかったが、王国の富国強兵政策の一環で採用された経緯がある。
「しかし、本当によろしいのでしょうか」
スカーレット隊のあり方について、率直に疑問の言葉を呈するデュルケム。女性は守るべき者という古典的な価値観を抱く彼にしてみれば、逆に彼女達が武器を手に率先して戦いに赴くことに一種の抵抗を感いていた。
「まあ、言うな。時代は変わりつつあるということだ……ただ、スカーレット隊については思うところはあるがな」
スカーレット隊に不信感を抱くデュルケムの諭すゼノン。但し、彼自身もまた、血生臭い女性騎士隊に疑念を抱いていることは確かであった。
軍備増強を掲げるガイスト王国の政策により、誕生することになったスカーレット隊。女性だけで編成された騎士隊がこの国にいかなる影響を与えるのか、この時はまだ誰も知る由もなかった。
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