第4回 デモスの森
この世界に跳梁跋扈する不気味な怪物、それがモンスターである。人間でもなければ動植物でもない異形の姿をし、人知の及ばない力を宿すことがあった。
そしてまた、モンスターは時として人間に牙を向くことがあった。人間とモンスターの争い。それはどちらかが滅ぶまでの戦い続ける果てない争いなのかもしれない。
デモスの森。ガイスト王国の王都から西へ離れた場所に位置する森林地帯である。ここにはモンスター達が生息しており、危険区域にしてされていた。
鬱蒼としているデモスの森の中、1人の男が足を踏み入れていた。それは剛竜の鎧を装備したデュルケムであった。
王宮で剛竜の鎧を使用した訓練を終えたデュルケム。今度はモンスター達を相手とした実戦を行おうとしていた。
モンスター退治は騎士の任務の1つであり、通常であれば、複数名のチーム編成で事に当たるのが一般的である。
しかし、デュルケム自身が騎士団の中でも腕利きの騎士であること、同時に剛竜の鎧を試す必要があること等から単身でデモスの森に乗り込んでいた。但し、騎士団長のゼノンからは危険だと判断した場合には、この場所から離脱することが許されている。
ふと、ある1本の樹木に着目するデュルケム。黒い幹と枝、さらに葉まで黒色なので非常に不気味である。また、同時に長い年月を重ねてきたのだろうか、他の樹木よりも一回り以上大きい。
すると突然、樹木の枝が自らの意思を宿したかのように動き始める。それと同時に枝と思われていた者は正体を現す。
樹木の枝は枝ではなかった。無視の姿をしたモンスターであり、先程まで擬態をしていたのだ。
インセクト・ブランチ。昆虫のナナフシの意匠と特質を宿したモンスターであり、本物と同様、樹木等の枝に擬態する能力がある。
擬態を解いたインセクト・ブランチはデュルケムを目がけて襲い掛かる。相手の油断を狙って襲う。このモンスターの十八番である。
「うわっ!?」
インセクト・ブランチに襲われたことにより、仰向けの状態で倒れ込んでしまうデュルケム。この時、彼は轟のハルバードを落としてしまう。
「ぐっ……」
「……!」
圧し掛かられながらも、抗おうとしているデュルケム。対するインセクト・ブランチは己の勝利を確信したようだ。
「……かかったな」
一瞬だけ不敵な笑みを浮かべた後、腰部から断のダガーを引き抜き、素早い動作で一閃を見舞うデュルケム。対するインセクト・ブランチは避け切れず、不意を突かれた斬撃を腹に受けてしまうことになる。
慌ててデュルケムから離脱するインセクト・ブランチ。モンスターの腹からは黒色の血がとめどなく流れる。
「っ!?」
「この程度で俺を本気にさせることはできないぞ!」
驚くインセクト・ブランチに向かって、容赦のない言葉を浴びせかけるデュルケム。彼の表情は至って冷静である。
実はデモスの森に足を踏み入れていた際、デュルケムはインセクト・ブランチの存在を察知していた。しかし、モンスターを確実に倒せるよう、わざと襲われように装っていたのだ。そう、相手の擬態を逆手に取る形で罠を仕掛けたのである。
「これで終わりにしてやる」
断のダガーを収納した後、麗のレイピアを鞘から払うデュルケム。手にスナップを利かせて、細身の剣を軽く振り回してみせる。
「ランバルトラッシュ!」
「!!???」
次の瞬間、麗のレイピアによる刺突をインセクト・ブランチに見舞うデュルケム。彼の刺突は非常に鋭く、目にも留らぬ速さである。もしかすると、落ちる雫さえも捉えることもできるかも知れない。
回避する間もないまま、デュルケムの刺突がインセクト・ブランチに直撃する。先程とは比べものにならない程の勢いで血を噴きだしたかと思えば、モンスターは地面に倒れ伏して絶命してしまう。
インセクト・ブランチが倒れたことを見届けた後、デュルケムは麗のレイピアを鞘に納めると、落とした轟のハルバードを回収する。しかし、彼の表情は依然と緊張を帯びたものである。
気がつけば、デュルケムの眼前には、2体のモンスターが姿を現していた。1体は蝸牛を巨大化したような姿をしており、もう1体は植物の糸瓜に手足が伸びたような姿をしている。
エスカルゴン。軟体生物の蝸牛の意匠と特質を宿したモンスターであり、背中の殻は鋼にも匹敵するとも言われている。
ヘチマン。植物の糸瓜の意匠と特質を宿したモンスターであり、蔦を自由自在に操ることができる。
「!」
口から勢いよく粘液を吐き出すエスカルゴン。対するデュルケムは素早い身のこなしで難なく回避してみせる。彼が回避した後、粘液が地面の草に付着すると、その場が硬化してしまう。敵の攻撃には硬化作用があるらしい。
「!!」
両手から蔦を伸ばして、鞭のように振るうヘチマン。一方、剛のハルバードで蔦そのものを斬り払ってみせる。いかに強靭な蔦であっても、刃物の前には無力であるようだ。
「!!」
攻撃を防がれて怒ったのか、全身を背中の殻に収納し、そのまま突撃を仕掛けてくるエスカルゴン。その勢いはまさしく暴ぶる猛牛のようである。しかし、当のデュルケムは依然として落ち着いている。
「スパーキング!」
凛とした表情のまま叫んだ後、轟のハルバードの柄を今一度強く握るデュルケム。その途端、彼の得物は稲光にも通じる煌めきを発する。
スパーキング。人間の生命力を送り込むことのより、武器の能力を一時的に向上させるスキルである。このスキルを使用できる者はガイスト王国の中でも優秀な武人に限られる。また、使い手の体力と精神力を消費するため、長時間の使用や乱用は禁物であった。
「せえええええい!!」
猛スピードで接近してくるエスカルゴンに向かって、轟のハルバードによる斬撃を見舞うデュルケム。その途端、頑強な殻は粉々に砕け散り、モンスター本体すらも両断する。
全身から黒色の血を噴き出し、真っ二つとなるエスカルゴン。いかに硬い殻を有していようとも、ガイスト王国の最新装備、さらには使い手のデュルケムの敵ではなかった。
エスカルゴンの絶命を見届けた後、今度はヘチマンの方に向き直るデュルケム。しかし、既に敵モンスターの姿はなかった。彼の実力に恐れをなしたのであろう。
「逃げるな!戦いに生きるモンスターとしての矜持はないのか!?」
この場にはいないヘチマンに向かって、糾弾の言葉を浴びせかけるデュルケム。一見、冷めた雰囲気のように見える彼であるが、意外と性根は血気盛んな若者そのもの言っても過言ではなかった。
早速、ヘチマンの追撃に移るデュルケム。どうやら、敵モンスターはデモスの森の外へと逃げたようだ。この森は弱肉強食の世界である。戦いを放棄した者はいずれ強者の糧になるのが常である。
どれほど追いかけたのであろうか、何時しか暗いデモスの森を脱し、デュルケムが開けた平原へと出ていた。
視界の良好な平原で状況の把握に努めるデュルケム。そうした中、彼は思いもしないものを見ることになる。
デュルケムの視界に映り込んできた光景、黒い血だまりと共に倒れ伏したヘチマン、さらに黒い血の滴る剣を握り締めた女騎士とその集団であった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
皆さんに楽しんでもらえるよう、これからも頑張ります。




