第3回 剛竜の鎧
王宮の武器庫。この場所にはガイスト王国騎士団が使用する武器や甲冑等が保管されている。
この武器庫に今、2人の騎士が足を踏み入れていた。騎士団長のゼノン、彼の部下のデュルケムである。
ゼノンとデュルケムの視線は武器庫の奥へと向けられていた。彼らの視界には台座に架けられた鎧が映り込んでいた。
台座に架けられる形で安置された鎧。各部が鋭角的な形状をしており、従来の騎士の甲冑とは一線を画している。しかも、頭部の兜は竜を彷彿とした意匠である。
「これが……王国で開発された新装備……」
「ああ、剛竜の鎧だ」
デュルケムの言葉を引き継ぐ形でゼノンが続ける。この鎧こそが剛竜の鎧、ガイスト王国で開発された新装備である。
「早速、剛竜の鎧を着てみてくれ」
「分かりました」
ゼノンからの指示を素直に受け入れるデュルケム。これから2人は剛竜の鎧の試着、さらには簡単な慣らしを行おうとしていた。
「デュルケム、分かっているな?」
「ええ、“物事はスマートに運べ”ですよね」
上司からの念押しに変わらぬ表情で答えるデュルケム。対するゼノンは満足げな様子である。
物事はスマートに運べ。これはガイスト王国騎士団長を務めるゼノンのモットーである。そしてまた、このモットーは何時しか騎士団全体のモットーにもなっていた。
王宮の野外に整備された訓練場。ここでは騎士団の団員達が日頃から鍛錬等を行っている。
訓練場には今、騎士団長のゼノン、そして剛竜の鎧を装備したデュルケムが立っていた。試着が終わったので本格的な慣らしを行う予定である。
「どうだ?鎧の着心地は?」
「ええ。とても軽いです」
ゼノンからの問いにデュルケムは率直な感想を伝える。これまでになく軽い着心地、それが剛竜の鎧に対する第一印象である。
これまで騎士として様々な鎧を着た経験があるデュルケムであるが、剛竜の鎧はそれまでとは比較にならない程に軽量なのだ。
勿論、剛竜の鎧が軽量なのには理由が存在する。一般の甲冑が鉄を素材としているのに対し、この鎧はルナメタルと呼ばれる金属を使用していや。
「装備はダガー、レイピア、そしてハルバードか……」
今一度、携えている武器をチェックしながらデュルケムが言う。腰部のダガー、左腿部のレイピア、さらに彼の手にはハルバードの柄が握られている。
「それでは武器を試してみます」
「頼む」
デュルケムの申し出を承諾するゼノン。武装としては豊富であるが、実戦で役に立たなければ、それこそ無用の長物になってしまうからだ。
その後、訓練場で武器を使ってみることにするデュルケム。今、彼の手にはダガーが握られている。この武器は断のダガーと呼ばれる代物であり、通常の物より一回り以上も大型である。
「ふんっ!」
目の前の木の棒に向かって、剛のダガーを振るうデュルケム。次の刹那、棒は真っ二つとなる。相当な切れ味である。
剛のダガーを使い終わった後、今度はレイピアを鞘から引き抜くデュルケム。この武器は麗のレイピアと呼ばれており、名前が示すとおりに鮮やかな造りをしている。
片手で柄を握り締めた状態のまま、デュルケムは手のスナップを利かせて、麗のレイピアを自在に操る。その様子はまるで武芸に秀でた貴族のようでもある。
「っ!!」
眼前に配置された目標の巻き藁に向け、麗のレイピアによる刺突を見舞うデュルケム。この時、彼は確かな手応えを感じていた。
麗のレイピアを鞘に収納した後、最後にデュルケムはハルバードを手に取る。この武器は轟のハルバードと名づけられており、実に厳めしい造りをしている。
泰然自若とした様子で轟のハルバードを構えるデュルケム。今、彼の眼前には目標として、老朽化した鎧が置かれている。但し、いくら老朽化しているとはいえ、生半可な破壊力では砕くことはできないだろう。
「せえええい!!」
目標の鎧を目がけて轟のハルバードの斬撃を見舞うデュルケム。次の瞬間、老朽化した鎧はいとも容易く両断される。まさしく必殺の攻撃とはこのことを言うのだろう。
「よし、終了だ」
全ての武装を試し終えたため、訓練の終了を宣言するゼノン。騎士団長の声を聞いて、デュルケムの動きも止まる。
「上出来だ」
「ありがとうございます」
ゼノンからの称賛の言葉に対し、感謝の言葉を述べるデュルケム。まさしく礼節ある騎士同士の会話である。
「それで剛竜の鎧を試してみてどうだったか?」
「はい。これまでの武器にはない力を持っています。しかし、この装備は扱う人を選びます」
剛竜の鎧を使用した者として、率直な感想を述べるデュルケム。対するゼノンもまた、真剣な様子で耳を傾けている。
「例えば、この剛竜の鎧は確かに軽いですが、今までの鎧を使ってみた者にすれば、違和感を覚えます。また、ダガーにレイピアにハルバードと装備も豊富ですが、その分だけ使い手には力量を要求されます」
「分かった。その辺りを報告書にまとめてくれないか」
「はい」
有能な部下からの感想を聞いて、次なる指示を出すゼノン。デュルケムの方も手短に返事を行う。
「きっと剛竜の鎧は我々、ガイスト王国の力となるだろう」
「……」
ゼノンの言葉を黙って聞いているデュルケム。騎士団長のことはもっともであるが、この時、彼は一抹の不安を抱いていた。
現在、ガイスト王国は西域大陸の強国となるべく、国内の経済を発展させて、軍事力も高めている。この姿勢は国として正しいのであろう。ただ、本当にそれで良いのだろうか、デュルケムの中でほんの少しだけ疑問が芽生えていた。
「とりあえず、今回の任務は終了だ。後は休め」
「了解」
今は王国の騎士としてゼノンの命令に従うデュルケム。その後、彼は剛竜の鎧を脱ぐため、訓練場を後にするのであった。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
これからも頑張ります。




