第16回 騎士達の休日
ガイスト王国の首都。他の王国の都と比較した場合、歴史や伝統では劣るが、王の革新的な政策により、商工業が著しく発展している状況である。
多くの人達で賑わう王都の中、1組の男女の姿があった。それは町民に扮したデュルケム、そしてまた、町娘の姿に扮したミントである。今日は非番であるため、騎士団の詰所から外出しているのだ。
「今日も首都は賑やかだな」
「そうね」
活気溢れる首都を眺めながらも、言葉を口にするデュルケムとミント。普段は首都を守る者としての立場でいるが、今日は他の王都の住民と同じ立場である。
しばしの間、王都の中を散策するデュルケムとミント。広場に出た2人は設置されている噴水を見かける。芸術的な意匠が施された噴水台からは水が勢いよく噴き出している。
「壮観だな」
「まさに水の芸術だわ」
美しい噴水の光景に圧倒されているデュルケムとミント。そしてまた、周囲に散る微小の水の粒が首都の乾いた空気を心地良く潤す。
噴水広場を見た後、デュルケムとミントは公園を訪れる。最近、整備された公園には、美しい花や珍しい植物等が植えられている。
「元気な子ども達だな」
「ホント、楽しそう」
公園で遊んでいる子ども達を微笑ましく眺めているデュルケムとミント。かつて、無邪気に遊んでいた頃があった。しかし、今は騎士として多忙な日々を過ごしている。
何時の日か、また子どもの頃のように無邪気に遊んでみたいものだ。デュルケムとミントはふと思うのであった。
時間が昼食時に差し掛かったため、1軒のレストランを訪れるデュルケムとミント。洒落た雰囲気で若者向けと言える。
店内に入った後、適当な席を見つけて座るデュルケムとミント。ほどなくして、男性の給仕が注文を聞きに現れる。
「注文は何になさいますか?」
「ランチのセットを頼む」
「私もそれでお願いするわ」
「かしこまりました」
デュルケムとミントの注文を聞いた後、男性店員は優雅な足取りで厨房の方へと向かう。以前、訪れた食堂とは明らかに雰囲気が異なる。
しばらくした後、先程の男性給仕が他の同僚と共に料理を持って現れる。注文していた料理ができ上がったのである。
「お待たせしました。ランチセットになります」
落ち着いた口調で告げた後、手慣れた様子で料理を配膳する男性給仕。今回のランチセットであるが、パン、パプリカのスープ、サラダ、豚肉のソテーという組み合わせとなっている。オーソドックスであるが、料理人の腕前が試される内容でもある。
手始めにスープからいただくことにするデュルケムとミント。ここで料理の第1印象が決まると言っても過言ではない。
「美味いな……」
「パプリカも美味しいわ」
スープを口に含んだ後、デュルケムとミントはその味を堪能する。出汁はチキンでとったのだろうか、あっさりしていながらも、しっかりとした土台がある。それでいて、刻まれたパプリカがアクセントを加えている。
続いてサラダをいただくことにする。生野菜を盛りつけたものであるが、薄黄色のソースがかけられているのが特徴的だ。
「このソースは何だ?」
「私も見たこともないわ」
「私どもの料理人の特製ソースになります」
初めて見る薄黄色のソースに困惑するデュルケムとミントに対し、先程の男性給仕がにこやかな表情で説明を加える。ただ見ているだけでは先に進まないので、2人はソースと一緒に野菜を口の中に運ぶ。
「むっ?とても濃厚だな」
「それでいて野菜とも合うわ。まるでお互いを引き立て合っている感じね」
ソース入りの野菜を咀嚼した後、驚きと共に賛辞の言葉を口にするデュルケムとミント。初めて堪能する味だ。
「はい。何でも卵黄、巣、植物由来の油を使用し、料理人の特別の製法で作ったソースだとか」
「材料は単純なのにこれだけの味が?」
「料理って奥が深いのね」
男性給仕からの追加の説明を聞いて、デュルケムとミントは素直に感心する。それと同時に単純なサラダの中に新しい世界を垣間見た気がした。
そして、メインの豚肉のソテーとパン。ロース肉をこんがりと焼き上げており、香ばしい匂いが充満している。味つけは都市部で流行している薄味であり、付属しているパンともよく合う。
「美味かったな」
「ええ、美味しかったわ」
提供されたランチセットを食べ終えた後、満足そうな表情で感想を口にするデュルケムとミント。至福の一時とはこのことを言うのだろう。
昼食を十二分に堪能した後、再び、首都の散策を開始するデュルケムとミント。飽きがくることはない。
ふと、デュルケムとミントの視界に1軒の店舗が留まる。どうも、女性用の小物を取り扱っているらしい。
「入ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
ミントからのお願いを快く受け入れるデュルケム。こうして、2人は小物店の中へと足を踏み入れることにした。
小物店の店内。まず、何よりも清潔感が漂っている。これは店の人間が丁寧に掃除を行っている何よりの証だ。さらにアクセサリー等の商品が折り目正しく陳列されている。
「いらっしゃいませ」
店の奥側からは女性店員が現れて、デュルケムとミントのことを出迎える。少し勝気な印象が漂っている。
「あれ?もしかして、ミント?」
「ジェーンなの?」
お互いの顔を見るなり、名前を呼び合っているミントと女性店員。様子を見る限り、親しい間柄であるらしい。
「知り合いか?」
「ええ、彼女はジェーン、同じスカーレット隊に所属していたの」
デュルケムからの問いに嬉々として答えるミント。かつて、同じ隊に所属していたのであれば、親しげな様子で話すのも当然である。
「デュルケム=プロムナードだ」
「ジェーンよ。よろしく」
初対面の挨拶を行うデュルケムとジェーン。お互いに名前を名乗った後、友好の証としてのシェイクハンドを交わす。
「早速だが、おススメの商品を見せてくれないか?」
「私からもお願いするわ」
「かしこまりました」
デュルケムとミントからの依頼を受け、今一度、店内の奥へと足を向けるジェーン。少しした後、彼女は戻ってくる。
「こちらになります」
そう言った後、デュルケムとミントにおススメの商品を見せるジェーン。彼女が持ってきた物、それは玉の埋め込まれたピアスであった。
「これはピアスなのか?」
「はい。お守りとして玉も埋め込んであります。誰かへの贈り物としてお値打ちですよ」
デュルケムに商品のピアスを説明するジェーン。鮮やかなピンク色の光沢の玉には、持ち主を危険から保護する効力があるのだと言う。
「うんうん、良いわね。流石、ジェーン」
ジェーンからの説明を聞いて、満面の笑みを浮かべているミント。自然と心の中がウキウキとなってくる。
「よし、これを買わせてもらおう」
「ありがとうございます。金貨1枚になります」
「分かった」
店員であるジェーンから値段を提示されて、迷うことなく財布を取り出そうとしているデュルケム。
「ちょっと待って、私が小物を欲しいと言ったのよ?勿論、支払うのは私に決まっているじゃない!?」
慌ててジェーンとデュルケムの交渉に介入するミント。己の支払いの分は己で済ませるつもりだ。
「その、何だ……?せっかくだし、任せてもらえないだろうか?」
「そうよ。相手の好意に甘えるのも女性の特権よ」
恥ずかしそうな様子で支払いを申し出るデュルケム、ミントにアドバイスを送るジェーン。何故か、2人の息は絶妙に合っている。
「そうね。支払いをお願いできるかしら?」
「了解した」
改めてデュルケムに支払いをお願いするミント。一方、彼は折り目正しい騎士として、すかさずに返事をしてみせる。
その後、財布から金貨を取り出して、ジェーンに手渡すデュルケム。一方、彼女は引き換えに包装したピアスを手渡す。
「スカーレット隊が解体されて、どうなっていたか気になっていたけど、安心したわ」
ジェーンの姿を目の当たりにして、胸を撫で下ろしているミント。少なくとも、店員としての彼女は活き活きとしている。
「おや?接客は終わったのかい?」
すると突然、店の奥側から1人の男性が現れたかと思えば、ジェーンに声をかける。派手さこそはないものの、しっかりとした雰囲気を漂わせている。
「紹介するわ。私の雇い主のトムよ」
「私はデュルケム=プロムナード、以後お見知りおきを」
「ミント=シュイヴァンよ」
「紹介に預かりましたトムです。この店の主をしています」
ジェーンからの紹介を皮切りとして、デュルケムとミント、トムはお互いに自己紹介を行う。
「騎士団を除名されて困っていたところに手を差し伸べてくれたの」
スカーレット隊が解散して以降の身の上を語るジェーン。騎士団を除名されて以降、途方に暮れたところをトムが声をかけてくれたのだと言う。
その後、女性用の小物店で店員として働き始めたジェーン。最初こそ慣れなかったが、徐々に仕事を覚えていき、今となっては店で欠かせない存在となっている。
「ジェーンは女性としての目線でアドバイスしてくれるから助かるよ」
にこやかな表情で語るトム。ジェーンは相手と同じ目線に立った接客をしてくれるため、客からの評判はすこぶる良好である。おかげでこの店を懇意にしてくれる常連も増えてきている。
「良い出会いだったのね」
活き活きとしているジェーン、傍にいるトムの姿を見て、感慨深けに言葉を漏らしているミント。しかし、思わぬ言葉が彼女に向けられる。
「あら?ミントだって素敵な出会いをしているじゃない?デュルケムさんと随分、仲良さそうにしているけど」
「本当に2人共、お似合いだと思います」
悪戯っぽく言ってのけるジェーン、続けて言葉を添えるトム。2人の思わぬ発言を受けて、ミントは勿論のこと、デュルケムも気恥ずかしくなる。
その後、お互いに笑い合うデュルケムとミント、ジェーンとトム。2組の男女の間を温かいムードが包み込むのであった。
女性用の小物店から出た後、再び首都を散策しているデュルケムとミント。気がつけば、日が傾く頃になっていた。
「そろそろ戻るか?」
「ええ、そうしましょ」
騎士団の詰所に戻ることを提案するデュルケム。対するミントの方も異存はなかった。楽しい休日もいよいよ終わりの時を告げている。
「ねぇ、デュルケム」
「うん?」
「今日はありがと!また遊びましょ!」
そう言った後、悪戯っぽくウィンクしてみせるミント。彼女にとって楽しい外出であったことには間違いない。
「ああ!」
にこやかなミントからの約束の言葉に対し、屈託のない表情で返事をするデュルケム。こんな表情をしたのは何時ぶりのことだろうか。本当に幸せな一時は今のようなことをいうのかもしれない。
再度一緒に遊ぶ約束を交わしたデュルケムとミント。そのまま兵舎へと戻っていく2人の姿であるが、遊びを心から楽しんで家へと帰宅する無邪気な子どものようでもあった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今後も頑張ります。




