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第15回 模擬戦闘

 王宮内に設置された武器庫。ここには文字どおり、剣や甲冑等の武器が折り目正しく保管されている。勿論、これらの装備を使用するのはガイスト王国騎士団に所属する騎士達である。


 現在、この武器庫に足を踏み入れる者達がいた。デュルケムとミントの2人である。彼等は改修が終わった装備を確認するためだ。


「無事に戻ってきてくれたようだな」


「そうね」


 剛竜の鎧を眺めているデュルケム、錬の鎧を注視しているミント、2人はそんな言葉を交わしている。鍛冶師が腕を振るってくれたのだろうか、心なしか装備は以前よりも磨きがかかっている気がする。


「実際にどんな感じになっているのか……試してみるか?」


「そうしましょ」


 デュルケムからの提案を素直に受け入れるミント。見ているだけでは装備の調子は分からない。そこで2人は実際に改修された鎧を装着して、模擬戦闘を行うことにするのであった。


 王宮の敷地内に整備されたグラウンド。この場所はガイスト王国騎士団が野外での訓練を行うために設置された物である。


 広大なグラウンドの中、2人の騎士が向かい合っていた。それは剛竜の鎧を装備したデュルケムと錬の鎧を装備したミントの姿があった。


「よし、良い感じだな」


 剛竜の鎧の各所をチェックしながら呟くデュルケム。以前よりも装備が身体に馴染む感じがする。きっと鍛冶職人達がこちらのために調整をしてくれたのだろう。


「ミント、そちらの方は?」


「こちらも問題ないわ」


 デュルケムからの問いに対し、落ち着いた様子で答えるミント。彼女の装備する錬の鎧であるが、身体の重要な部位のみを保護する構造になっている。

 このため、胸元や脚が剥き出しとなっており、極めて露出度が高く扇情的である。また、履物はヒール状となっており、これまた女性的であると言える。

 そして、ミントの装備であるが、茶色の毛並みが印象的な愛馬のライムに跨り、鋭のランスと言う名の長身の突撃槍を携えている。露出度の高い格好を除けば、馬上騎士のスタイルと言えるだろう。


それぞれ向かい合う中、轟のハルバードを構えるデュルケム、鋭のランスを構えるミント。徐々に緊張感が高まってくる。


「訓練開始!」


 模擬戦闘の立会人となったゼノンが試合開始を宣言する。その途端、デュルケムとミントはそれぞれに行動を開始する。


「やああああっ!」


 得物である鋭のランスを前方に掲げた状態のまま、愛馬のライムを駆りながら突撃を仕掛けてくるミント。

 次の瞬間、鋭く尖った穂先がデュルケムに襲い掛かってくる。この一撃は以前、モドキモンキーを容易く貫いた程の攻撃力がある。


「くっ!?」


 巧みに轟のハルバードを操作することにより、鋭のランスの軌道を逸らせるデュルケム。無論、この行為は容易なことではなく、彼の技量があって成立する芸当であった。


「ちぃっ!」


 今度は反撃と言わんばかりに轟のハルバードを振るうデュルケム。彼の攻撃は前方にいるミントのことを確実に捉えていた。

 余談であるが、この時、デュルケムは数ある装備のうち、麗のレイピアと断のダガーを使用する選択肢は捨てていた。相手は馬上騎士である。轟のハルバードよりもリーチが短いため、相手には攻撃が届かないと判断したためであった。


「当たらないわ!」


 語気を強めながら叫んだ後、ミントは手綱を操ることにより、ライムへと指示を送る。その途端、愛馬は素早く反転したかと思えば、デュルケムの攻撃を見事に開始してみせる。


「やるようだな!」


 今しがたの動きを目の当たりして、相手に賛辞の言葉を送るデュルケム。この時、彼は身体の中に巡る血が熱を帯びていくのを感じる。

 人馬一体とも呼べる挙動で相手を翻弄しつつ、リーチの長い鋭のランスで敵を一気に貫く。それがミントの戦闘スタイルのようだ。こんな技量を持った騎士と手合わせができるとは何と光栄なことだろうか。デュルケムの中で闘志がさらに昂ぶる。


 その後も何度か轟のハルバードと鋭のランスが衝突し、その度に両者の間で火花が生じる。装備の慣らしを兼ねた模擬戦闘とはいえ、デュルケムとミントは互角の戦いを演じていた。


「うんうん、良い感じだな」


 デュルケムとミントの模擬戦闘を腕組みしながら眺めているゼノン。見ている側も刺激を受ける程に鮮烈であった。

 そしてまた、ゼノンはデュルケムとミントの呼吸が合っていることに気づいた。2人には別の可能性もあるかもしれない。彼の中でそんな考えが少しだけ生じていた。


「流石は元スカーレット隊の騎士だ」


「貴方も剛竜の鎧の装着者に恥じないわ」


 得物越しで互いに向かい合う中、相手に称賛の言葉を送るデュルケムとミント。戦闘で疲れの色が見え始めているが、2人の表情は実に活き活きとしている。


「(次はどうするか?)」


 ミントと向かい合う中、次なる一手について思案しているデュルケム。しかし、相手に生半可な手は通じない。どう攻めるのか考えあぐねている時であった。


「(デュルケム、聞えるか?)」


「(団長!)」


 突然、デュルケムの頭の中に模擬戦闘を見守っているはずのゼノンの声が聞こえてくる。慌てて彼も感応する。


「(今回の改修で剛竜の鎧には新しい機能が付与された)」


「(新しい機能?)」


「(そうだ。念動機能を言って、一時的に相手と精神的に会話をしたり、物体を一時的に操ることのできる機能だ)」


 驚いているデュルケムに剛竜の鎧に追加された新機能を説明するゼノン。なお、この会話も念動機能を応用しているとのことだ。


「(上手く使いこなしてくれ)」


「(了解)」


 ゼノンからの指示に返事をするデュルケム。騎士団長との会話が終わり、彼は改めてミントと向かい合う。


「ミント、これから剛竜の鎧に追加された新機能を使う。問題はないな?」


「いいわ。真っ向から迎え撃ってあげる」


 デュルケムからの宣言を受けて、ミントは不敵な笑みと共に言葉を返す。なお、事前に手の内を明かしたのは彼なりの騎士道精神の表れであった。


「“物事はスマートに運べ”」


 ガイスト王国騎士団のモットーを口にした後、腰から断のダガーを引き抜くデュルケム。そのまま彼はダガーをミントに向かって投げつける。


「こんなもの!」


 デュルケムの投擲した断のダガーを鋭のランスで防御するミント。彼女は簡単に防いで見せたが、ダガーの速度は非常に速く、並大抵の者では対処できなかった。


「どうしたの?これで終わり?」


 デュルケムの攻撃を防いだ後、高圧的な言葉を投げ掛けるミント。先程の言動は何だったのであろうか。もしも、単なる口先だけであればとても残念なことだ。

 模擬戦闘の決着をつけるべく、鋭のランスを構えながら、愛馬のライムの手綱を握るミント。全てを一気に終わらせようとした時であった。


「!?」


 突然、後方から鋭い気配を感知するミント。反射的に彼女が向き直ると、断のダガーが襲い掛かってくる様子が映る。まるで自我を宿しているかのような動きである。


「くっ!」


 急速に接近してくる断のダガーを鋭のランスで叩き落とすミント。一方、ダガーはそのまま地面へと叩きつけられる。


「何なの……?」


 地面に転がっている断のダガーを見て、困惑した様子で言葉を漏らすミント。人の手を離れたダガーが勝手に襲い掛かってきたのだ。一体、どうなっているのか。


「残念だが、油断大敵だ」


 すると突然、ミントの耳元にデュルケムの声が聞こえてくる。一気に現実へと引き戻された彼女が向き直ると、眼前には轟のハルバードの穂先が突きつけられていた。この場から少しでも動けば、首を斬り落とされることになるだろう。


「私の負けね」


 左手を上げながら自らの敗北を宣言するミント。しかし、彼女の表情には一切の後悔はなかった。


「これにて模擬戦闘を終了する!!」


 グラウンド全体に響き渡る声量で宣言するゼノン。こうして、装備の性能テストを兼ねたデュルケムとゼノンの模擬戦闘は終了するのであった。


 騎士団長の執務室。今この場所には訓練を終えたデュルケム、ミント、ゼノンの3人が集まっていた。


「今回はご苦労」


 まずは騎士団を束ねる者として、部下の2人に労い言葉をかけるゼノン。一方、デュルケムとミントの2人は軽く頷いて返事をする。


「改修された剛竜の鎧を見事に使いこなしてくれたな」


「いえ。まだまだ訓練が必要なようです」


 満足そうなゼノンからの称賛の言葉に対して、いつものように真面目な態度で返すデュルケム。


「ミントも確かな手並みを見せてもらったぞ」


「ありがとうございます」


 ゼノンからの確かな評価に対し、感謝の言葉で返すミント。今となっては高慢な騎士としての姿はどこにもない。


「まさか、剛竜の鎧にあんな機能が追加されているとは思いもしませんでした」


 模擬戦闘のことを思い出しながら言葉を口にするデュルケム。急にゼノンの声が聞こえてきた時は驚いたものだ。


「今後の戦闘のために技術者と魔道士が合同で開発した機能だ。なるべく実践力を試してみたかったので黙っていた……すまなかった」


 開発の経緯を語った後、ギリギリまで黙っていたことを謝罪するゼノン。一方、当のデュルケム本人は特に気にはしていなかった。実戦ではいつも唐突なことが起こるものだ。


「ミント、騎士として矛を交えることができたことを誇りに思う」


「私もよ。また、手合わせをお願いするわ」


 お互いに顔を見合わせた後、デュルケムとミントはシェイクハンドを交わす。2人の表情は非常に満ち足りたものであった。


「うむ!今日はゆっくり休んでくれ!」


「はっ」


「了解」


 ゼノンからの快活な言葉に対し、歯切れよく返事をするデュルケムとミント。その後、2人は執務室を後にするのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

これからも精進します。

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