第10回 悪魔との対決
砦内の最深部。かつて、この場所は責任者が執務等を行っていた広間であった。本当に小規模な玉座の間と言ったところであろうか。
今は見る影もない程に朽ち果ててしまっている最深部。ここに今、デュルケムが足を踏み入れていた。
注意深く最深部の様子を見渡しているデュルケム。その時、彼は尋常ならざる気配を感知した。
気がついてみると、デュルケムの前には1人の男が立っていた。毛むくじゃらの全身、2本の角が伸びた頭部、鋭く尖った牙と爪、背中から生えた黒い翼、悪魔と呼ぶべき風貌である。
「貴様が親玉か……」
眼前の男に向かって静かに問い掛けるデュルケム。異形化の進行具合から見て、この男が今回の騒動の張本人に違いないだろう。
「オ、オデハ……ウォズ……マ、マオウ……トナルベキ……モノ」
ウォズと名乗った上で自らのことを魔王と称する異形の悪魔。最早、醜悪なケダモノと化してしまっているが、片言の喋り方が人間であった頃の残滓を窺わせる。
「(ウォズ……確か指名手配されている犯罪者にそんな名前がいたな)」
悪魔の口から発せられたウォズと言う名前を聞いて、記憶の糸を手繰り寄せるデュルケム。ガイスト王国騎士団の記録によれば、様々な悪事に手を染めており、なかなかに厄介な犯罪者として覚えていた。
「ジャマ……キエロ……」
それだけ告げた後、爪と牙を鋭く光らせた上、両翼を大きく展開させるウォズ。デュルケムを排除しようとていた。
「ガイスト王国騎士団所属、デュルケム=プロムナード、いざ参る!」
対するデュルケムは轟のハルバードを構えた上で騎士としての名乗りを上げる。相手が誰であろうとガイスト王国仇なす者であれば迎撃するだけだ。
砦の最深部を舞台として開始されたデュルケムとウォズの対決。その様は伝承等に残る騎士と悪魔の対決にも通じるものがあった。
「ガアアアアアア!!」
「ふん!」
唸り声を上げながら鋭利な爪で相手を引き裂こうとするウォズ。対するデュルケムは轟のハルバードを操ることでそれを捌く。
「ガア!ガア!ガア!」
憤怒の感情に任せたまま、さらなる攻撃を仕掛けてくるウォズ。戦闘に関する技術は皆無であるが、単純な身体能力は突出しており、並大抵のモンスターを遥かに上回る。
「ちいっ!」
一方、轟のハルバードだけでは攻撃を防ぐことはできないと判断したデュルケム。長い得物を右手に持たせた状態にして、左手に麗のレイピアを握らせる。
そして、デュルケムは右手に轟のハルバード、左手に麗のレイピアを装備し、ウォズの傍若無人な攻撃を次々と防いでいく。
「(敵の攻撃自体は単調で見切ることは簡単だ……しかし、体力が尋常ではない!)」
ウォズの攻撃を防御しているのと並行して、戦いの状況を冷静に観察しているデュルケム。相手については、身体能力は勿論のこと、スタミナも並外れている。このまま戦いが長引けば、こちら側が不利に陥る危険性がある。
「それならば!」
意を決したように言葉を発した後、デュルケムは行動を開始する。眼前の怪物を仕留めるための一手である。
「せいっ!」
ウォズに向かって麗のレイピアを投擲するデュルケム。しかし、彼の攻撃はあっさりと防がれてしまう。
「まだだ!」
続けてデュルケムは轟のハルバードで斬撃を浴びせかける。しかし、この攻撃もまた、ウォズは利き腕で受け止めてしまう。
その時、ウォズの動きが一旦停止したタイミングを見計らい、腰から断のダガーを引き抜くデュルケム。
「スパーキング!」
すると、デュルケムは柄を強く握り締めたまま、断のダガーに自身の生命エネルギーを注ぎ込む。それと同時に短い刃先には稲光にも似た光が宿る。
そして、目にも留らぬ速さをもってして、ウォズの胸元に断のダガーを突き立てるデュルケム。まさしく相手の意表を見事に突いた一撃である。
次の瞬間、ウォズの胸元からは血が迸る。しかし、彼の血は鮮やかな赤色ではなく、不気味な黒色であった。最早、血ですらも人間のものではなくなっているのだ。
「ウガガガガガ……」
胸元を抑えながら苦しみもがいているウォズ。対するデュルケムはダガーを引き抜き、急いで相手との距離をとる。
「……」
無言でウォズの様子を観察しているデュルケム。人間であれば致命傷になる程のものである。しかし、彼の眼に思いもしない光景が映り込む。
深手を負いながらもウォズは生きていたのだ。しかも、彼の傷は僅かにではあるが、塞がってきている。何という回復力なのだろうか。
「カ、カナラズ……ヤル……オボエテロ……」
そして、デュルケムに向かって、恨みの言葉を吐いたかと思えば、背中の翼を大きく展開するウォズ。彼は大きく跳び上がったかと思えば、そのまま天井を突き破って、どこかに消え去ってしまう。
「何という相手だ……」
深手を負いながらも逃走したウォズと眺めているデュルケム。いくら、武芸に秀でた彼であっても、この場から悪魔を負うことは不可能であった。
悪魔と化したウォズとの戦いを終えて、他の騎士達がいる場所へと戻ってきたデュルケム。既に戦闘は終わっており、騎士団長のゼノンの指揮の下、後処理を開始していた。
ある騎士は骸となった男達を後始末に従事しており、ある騎士は身ぐるみを剥がされたスカーレット隊の保護を行っている。
余談であるが、スカーレット隊の面々は洗脳が解けたのか、正気は取り戻したものの、自身のあられもない姿を見て、恐慌状態に陥っていた。
そして、騎士団長のゼノンにこれまでの出来事を報告した後、デュルケムもまた今回の任務の後処理に従事するのであった。
スカーレット隊の失踪から端を発した今回の戦闘。しかし、それはまだ悪魔との前哨戦に過ぎなかった。
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