第1回 目覚める魔
暗がりの洞窟。外からの光は完全に遮断されてしまっており、内部は強烈な湿気で満たされている。
今、不気味な洞窟内を1人の男が歩いていた。ボロボロの服装、顔一面に広がる無精髭、周囲に漂う異臭、明らかにまっとうな人間ではない。
男の名前はウォズ。ある王国に住む浮浪者であった。酒に溺れ、色に狂い、己の欲を満たすために悪事を働いてきた。そのせいで何人の人間が泣いてきたのか分からない。そして、数多の悪事が故に国を追われて今に至る。
「へっ、俺も年貢の納め時かよ」
泣き笑いの表情でウォズは観念したように呟く。彼自身、これ以上、もう先がないことは分かっていた。
その時であった。何かが呼ぶ声が聞こえてくる。ともすれば、亡者の呼び声のようにも聞こえる。
「うん?」
興味本位のまま慎重な足取りで奥へと進むウォズ。その様子はまるで何かに誘われるかのようでもある。そして、彼は急に足を止める。
「これは!?」
眼前の光景にウォズは驚愕の声を上げる。彼の視界に広がっているもの、それは地獄の炎を思わせるビジョンであった。
「うわあああああああっ!?」
あまりの恐ろしさに絶叫を上げるウォズ。しかし、完全に閉ざされた空間では彼の声が外に届くことはない。
そして、ウォズの身体が炎のビジョンに触れる。やがて、不気味な幻は彼の身体を覆い込んでく。
炎のビジョンに全身を取り込まれたウォズ。その過程で彼の身体は徐々に変貌する。全身から毛が伸び、歯と爪は鋭利な凶器となり、頭には2本の角が生え、背中からは蝙蝠の翼が出現する。
暗黒に包まれた洞窟の中、おぞましい怪物へと姿を変えたウォズ。この出来事が大勢の人々に災厄をもたらすことになるとは誰も知る由がなかった。
街から遠く離れた雑木林。ここで休息をとる男達がいた。彼等はしがない盗賊である。裕福な人達から金品を奪い、気に入った女は弄び、人は平然と殺める。まさしく外道の集団であった。
「むっ?」
すると突然、薄暗い雑木林が明るくなる。誰かが松明でも持ちながら足を踏み入れてきたのであろうか。
こんな時に何の用だろうか。盗賊達は光の源へと駆け寄る。その様は夜の灯に群がる虫のようであった。
「な、何なんだっ!?」
盗賊のリーダーと思しき人物が驚きの声を上げる。彼等の前に現れた者、それは1人の男であった。
しかし、男は人間ではなかった。全身が毛だらけとなり、頭には2本の角、背中からは蝙蝠を彷彿とさせる翼、さらに鋭利な牙と爪を有していた。まるで悪魔そのものである。
「獲物だ……」
盗賊達を見た途端、声を上げる悪魔。それは獲物を見つけた凶暴な獣のようであった。
その後、盗賊達がどうなったのか、それは誰も知る由がない。そしてまた、邪な力が人知れず蠢き始めるのであった。
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