第11話[名前]
城の広間。
ボスは指を鳴らした。
目の前の空中に画面が現れると、画面に地形が表示された。
地形に丸い光が表示されると、丸い光はある方向へと向かっていた。
ボスは、「そこか・・・」と呟くと、画面を閉じた。
城の廊下。
俺は城の中を歩いていると、女王が前からズカズカと歩いてるところを目撃した。
俺は見てみぬふりをした。
女王は俺の存在に気づいた。
「・・・あんた!この前の・・・!」
俺はさり気なく女王に挨拶をした。
「おはようございます。女王様」
女王は俺の言葉を聞いて、更に機嫌を悪くした。
「誰が女王様ですって・・・⁉」
(あれ?もしかして、様、ってNGワードなのか?)
「すみませんでした。女王」
女王は何故かますます機嫌を悪くした。
「あんたまで‼
・・・もしかして、水鈴から私のこと女王様とか説明された⁉」
女王は急に知らない名前を出してきた。
「水鈴?」
「あんた達がボスとか言って慕ってる人の名前よ!
・・・まさか知らないの?」
初耳だった。
「知りませんでした」
俺の表情を見ると、女王は腕を組んだ。
指で腕をトントンと叩きながら、顔を横に向けた。
「あいつ・・・。
ろくな説明もしてないのね・・・」
「この前のあなたとのやり取りで女王様と呼んでましたから、つい・・・」
女王は溜め息をついた。
「私は女王様でもなんでもないわよ。
・・・・・私にだって名前はあるわ。
香って言う名前よ」
「香さんですね。
わかりました」
「話しておきたいことがあるの。
場所を変えましょ?」
香さんは先に歩いていった。
俺は慌てて香さんを早足で追いかけた。
人が出入りできるほどの、城の巨大な窓があった。
窓の外は、落ちないように手すりと足元に床があった。
香さんは窓の外へ出て、手すりに片手を置いた。
香さんは外の空気を美味しそうに吸うと、俺の方へ振り向いて言った。
「あなた、本気なの?命懸けよ?」
「はい、試験前に言われました」
「私は隠し事が嫌いだから言うけど、私と水鈴は罪を犯しているのよ・・・。
遠い昔にね」
香さんの言葉を聞いて、今はそれ以上聞いてはいけない気がした。
「・・・・・・。
聞かないのね・・・。
・・・・・・あなた兄弟とかっている?」
「双子の兄がいます」
「・・・そう、私も兄がいたわ」
過去形だった。
香さんはうしろを振り向き手すりに両手を置き、空を見上げた。
「兄はいつでも病弱な私のことを気遣ってくれたの・・・」
香さんの声はどこか悲しそうだった。
城の広間。
「水鈴⁉」
コウは驚いた。
「結構可愛らしい名前だな・・・」
「そっか・・・!
ボスもそんな可愛らしい時代があったんだな‼」
「コウ、キモい」
ベニは冷たい視線をコウに向けていた。
「お前、ボスにまで欲情してんのかよ。
キモっ!」
俺もコウに冷たい視線を向けた。
「してねぇよ!
本当にお前らは俺をなんだと思ってるんだよ‼」
コウは俺達の反応を見て、ツッコミを入れた。
香さんから聞いた『罪』については、二人に話さなかった。
まだ話すときじゃない気がしたから。
ベニはボスが来たことに気づいた。
「あっボスだ!」
ボスのうしろからも、ツバキ、アサ、ヨル、セキ、が姿を現した。
ボスは空中から大きな青い画面を出した。
「今回の仕事だ」