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元助手に仮婚約者をお願いしたら思った以上に溺愛されています

作者: 石竹つつじ



「結婚しないか」


「…は」


アランが持っていた箱ごと床に落とした。


------------------------------------------


アランは元助手で同じ研究室の後輩だ。グロリアは学院を卒業したあと、そのまま研究職について先日ようやく自分の研究室を持てることになった。


引っ越しが終わらない上に急ぎの仕事が入ってめちゃくちゃな部屋をアランがぶつくさ言いながら片付けている。

アランは研究室が離れてもこうやって世話を焼きにくる。


研究に夢中でボサボサでもヨレヨレでも側にいてくれる数少ない人間だ。


とはいえ、グロリアも伯爵家の人間なので身なりがどうであろうと婚姻の案内は来る。


もう何枚目かの実家からの手紙を積まれた書類の中から見つけて溜息をついた。


爵位は兄が継ぐことになっているが、父はいつまでも独り身な事が気がかりらしい。


ーー仕事を続けていいって人なら結婚してもいいんだけどなあ


顔を顰めていると、怪訝そうな顔をしたアランと目が合った。


「あ」


アランは研究棟の女の子達から人気だが、特定の誰かは作らないタイプだ。理由はわからないけど、条件次第では半年くらいなら婚約者になってくれるのでは?


性格の不一致で婚約破棄したとなれば、父もしばらく無理強いはしないだろうし、求婚も減るだろう。


良い案を思いついたとニヤニヤしながら口を開いた。


「結婚しないか」






「結婚しないか」


ずっと憧れていた人から言われて頭が真っ白になった。


-------------------------------


伯爵令嬢だが媚びずかと言って孤立せず、


研究に真摯なところも好きだった。


研究以外に興味がなくて、


気づけば夢中になっていた。


別に隠す気もないし、本人以外の研究棟の誰もが知るところとなった。


「それでもいい」と告白されて付き合ってみたりしたが、あまりにグロリアのいる所に通い詰めるのですぐにフラれた。


ーーこの人はここで断っても他の奴に聞くな


考えるより先に体が動いて、気づけば手を取って言っていた。

「結婚しましょう」


よくよく聞けば、仮でしかも半年で破棄されるらしい。


「とは言えお返しできるようなものがないのだが…」


申し訳なさそうにグロリアがこちらを見てくる。


しめた、と思った。




アランの条件は


一、婚約を公表すること

二、毎週末一緒の時間を持つこと


だった。


それはアランに何の得もないのでは?と反論したが、頑なに譲らないので

お詫びの気持ちでその三に「一つだけお願いを聞くこと」を追加した。


定期集会で婚約しましたと時発表した時、研究員はそれは騒めいた。四方から「おめでとー」だの「上手くやったな」だの聞こえる。何処からか悲鳴も聞こえた。


ーーアランのファンの子だろうか、ショックを与えてしまった。


居た堪れなくなってチラリと仮婚約者を見上げるが、アランは上機嫌で群衆に手を振っている。


週始めに発表してしまったので、出歩く度質問攻めにあった。アランはぴったりと側について指を絡めながら「ずっと片思いしてたんです」だとか「やっと振り向いてもらえたんです」だとかあたかも自分が好きだったかのように話すので、


「…婚約破棄した後困るのは自分だぞ」


と耳元で囁いた。そりゃそうだベタ惚れだった婚約者と別れた後、すぐに新しい人とは付き合えないだろう。



研究室に行くまでに質問されてしまうので、仕事が捗らない。


ピリピリしていることに気づくと飴玉を口に入れられ背中をさすられる。



週末の前日やっと集中できると研究室に籠っていたらら朝になっていた。


「…また床で寝て」


朝焼け前、アランの声が降ってきた。


ずるずると紙の山から引き摺り出される。


ーー今日お洒落してるんだ、緑似合うな


そのまま膝裏に手を入れられてお姫様抱っこのような形で持ち上げられる。


長椅子に座りアランの太ももに頭を乗せられる。


「少し寝てください」


優しく頭を撫でられる。

見上げるとひどく優しい顔と目があった。


なんだか気恥ずかしくなって体を捩るとバランスを崩して落ちそうになる。


ーーわ、落ち


口にするより早く腰を掴まれ支えられる。 


今日のアランはなんか変だ。いつもより口数も少ないし、徹夜に対する小言も言われなくて調子が狂う。



見上げると顔を近づけられてそのまま口付けられた。


「ほら寝て」


と眩しくないようにだろうか目を手で覆われ

また頭を撫でられて寝かしつけるように今度は背中をトントンされる。


ーー仮婚約者にキスする必要はないのでは?



睡魔が勝ってそのまま寝てしまった。




婚約者になったからって何してもいいと思ってた訳じゃない、断じて。


「あら、アランくん」


「こんにちは、アンダーソン夫人」


休みの前日アンダーソン研究室長の妻と会った。


「聞いたわよ〜おめでとう」


「大変よ〜主の妻は。」


「主の妻とは?」


「ほら研究に没頭すると寝食忘れて帰ってこないでしょう。だからね、時々迎えに行ってあげなきゃいけないの。子供みたいよね」



約束の週末の前夜、ソワソワして眠れなくて、何となくグロリアは帰ってないんじゃないかと気になって朝靄の中研究室へ向かった。


案の定、床に蹲って寝こけていた。


ーーせめて体を伸ばして寝てくれ!


ずるずると引き摺り出す。


ーー週末は一緒に過ごす約束だったのに契約違反では?


意趣返しをしたくなる。


後輩の元助手のアランではなく、婚約者として甘やかしたくなる。


自分で作ったはずの甘い雰囲気に絡め取られてキスをしていた。


もう一度言う、婚約者になったからって何してもいいと思ってた訳じゃない…多分。



は!と目が覚めた。


いつもの研究室でアランがいる。


違うのは膝枕されていて、ひどく甘い目をしたアランがこちらを見つめている事。心なしか顔が熱くなる。


ーー朝の夢じゃないのか、それともこれも夢か?


そんなことを考えていると


「よく眠れましたか」


アランが言う。


「連れて帰ろうかとも思ったんですが」


わ!慌てて飛び起きた。


「す、すまん」


優しく肩に手を添えられ頭を撫でられる。


「良いですよ、可愛い寝顔も見れましたし」


「そ、そういうのしなくてもいい」


「仮婚約者だし…」


アランがピタリと動きを止めた。


何かまずいことを言っただろうか、そろりと見上げる。


「…ドキドキしなかったんですか」


アランが不満気に呟く。


ふっと今朝のキスを思い出して俯く。


「…そういう訳じゃないけど」


寝不足のせいだろうか嫌に動悸がするし冷や汗もかいてきた気がする。


ふ、と笑い声が聞こえて頬を摘まれた。合わされた目は先程と変わらず甘い。


「今は仮でいいのでちゃんと意識して、好きになって」


ーー風邪でも引いたのだろうか


顔が熱くてクラクラした。







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