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ダンジョンリプレイス:無能力者で『妹のヒモ』と呼ばれた俺が、覚醒して世界が変わった  作者: すいまる
二.《???》

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24. 顔合わせ

 日は変わって水曜日。

 昨日、喫茶店から家に戻ったあとも、雪との反省会が白熱し、気づけば布団に入ったのは深夜三時を過ぎていた。


 それでも雪はいつも通りの時間に起きて学校へと向かい、俺も負けじと大学へ向かったのだが――おかげで今日は見事に寝不足である。

 午後からは能力者としての予定が控えているし、今朝の講義も単位とは関係ない出席自由のものだったが、生活リズムを崩さないためにも、できるだけ普段通りを心がけていた。


 午前の一つ目の講義が終わり、次の教室へと向かおうとしたそのとき、ふと気がかりなことを思い出す。


(……そういえば、“お昼頃”って何時のつもりなんだ?)


 カケルさんが言っていた集合時間は、曖昧な「お昼頃」という表現だった。

 時計を見れば、現在は10時半を少し過ぎたあたり。

 人によっては11時を「お昼頃」と認識するだろうし、場合によっては正午を指すかもしれない。


(しまったな。連絡先、交換してなかった……)


 これまでのやりとりはすべて雪が取り持ってくれていたため、俺はマスター以外の連絡先を持っていなかった。

 昨日の喫茶店では、その手の話は一切出なかったし、正直その場の流れで完全に失念していたのだ。


 一応の確認として、マスターにメッセージアプリで集合時間について問い合わせてみる。

 モーニング営業は行っていない喫茶店とはいえ、11時の開店に向けて準備で忙しい時間帯だろう。

 すぐに返事が来るとは思えない。


(まぁ、早く行って困ることはないしな)


 スマホを一度ポケットにしまい、講義には出ずにそのまま拠点の方へ向かうことに決める。

 今から歩けば、開店前には余裕で着くはずだ。


 大学の正門を抜けると、同じようにダンジョン方面へと向かう学生の姿がちらほらと見えた。

 この時間帯にこの道を歩くのは久しぶりだが、改めて思う。

 ダンジョンという存在が、どれほど学生たちにとって日常に溶け込んでいるのかを。


 昼時には賑わいを見せる定食屋やラーメン屋も、まだシャッターを下ろしている。

 人気のない通りを淡々と進んでいくと、少しずつ人影が増えはじめ、ホーム拠点が入る建物が見えてくる。


 向かいの道では、数人の学生グループが楽しそうに笑いながら、ダンジョンビルへと吸い込まれていった。

 自分も少し前までは、あちら側だったな――そんな感慨を胸に、俺はその光景を横目に見つつ、マスターに挨拶をするべく、開店直前の喫茶店のドアをそっと開けた。


「お客さん、まだ――……ああ、陽向君か。集合時間にはまだ早いと思うが、どうした?」


 マスターはコーヒー豆の入った缶を抱えたまま、こちらに気づいて微笑む。


「マスター、こんにちは。カケルさんからは“お昼頃”とだけ聞いていたので、遅れるよりはと思って早めに来てみました」

「なるほどな。あのヤロウ、時間の言い方がざっくりしてるからなぁ。日によって集まる時間はまちまちだが……昨日はちょっと遅かったから、他の連中はまだ来ないと思うぞ。……ああ、それと、そこの扉は鍵がかかってるから、裏から回ってくれ」


 そう言い残すと、マスターはいつものように無駄のない動きでカウンター裏の作業に戻っていった。

 変わらない背中に、少しだけ安心しながら俺は店を出る。


 裏の扉は、昨日セイラさんに案内されたばかりの場所。

 まだ見慣れない場所だが、不思議と足取りは軽い。

 昨日までは“他人の場所”だった空間が、少しずつ自分の居場所になっていく――そんな予感もある。


 目当ての扉の前に着くと、壁に埋め込まれた薄型モニターが自然と明かりを灯し、俺の顔を映し出した。

 続けて指紋認証装置に、右手の親指をそっと添える。

 カフェの裏口とは思えない近未来的な設備だ。

 この一画だけ、時間が二十年ほど進んでいるかのような錯覚にとらわれる。


『認証しました』


 機械音声が無機質にそう告げると、扉が静かにロックを解除する音が響いた。


「し、失礼します……」


 少し緊張しながらも、俺は扉を押し開ける。

 今日からは頻繁に通うことになるはずの場所――それでもまだ、実感はどこか遠くにある。


 昨日と違って、喫茶店の表口とは真逆の位置から入ったため、すぐ目に入ってきたのは応接用のソファーが並ぶ、落ち着いた雰囲気のスペースだった。

 ほんの数歩で、現実感と非現実感が交差するような、不思議な空間の切り替わりがある。


「……おはよう。お兄ちゃんは、だれ?」


 声のした方を見やると、大きめの茶色いソファーの上で、小さな女の子が眠そうに目をこすっていた。

 年は五歳くらいだろうか。

 頭にはぴょこんと寝癖が立ち、体には毛布がかけられている。

 どうやら俺が扉を開けた音で目を覚ましたらしい。


「えっと……俺は清水陽向。今日から新しくテストプレイヤーとして『ダンジョンゲーマーズ』に所属することになった能力者なんだけど……」


 自己紹介が終わるか終わらないかのうちに、女の子は眠たげな瞳のままポツリと呟いた。


「……陽向お兄ちゃん。ここに座って?」


 ぽんぽん、と自分の隣を指差す彼女。

 名前を教えてくれるかと期待したが、今の彼女には眠気のほうが勝っているらしく、それどころではないようだ。


 促されるままに、俺はソファーに腰を下ろす。

 するとすぐに――


「……おやすみ」

「は、はいっ!?」


 俺が座ったその瞬間、女の子はすっと身体を横たえ、俺の膝を枕にして再び眠りについた。

 柔らかな重みと温もりが膝に乗り、寝息が小さく聞こえてくる。


(……ちょ、待って。膝枕!?)


 さすがに予想外すぎる展開に、俺は内心慌てふためきつつも、どうしたものかと戸惑いながら肩をそっと揺すってみる。


「おーい……?起きて?膝、ちょっと……使いたいんだけど」


 しかし返ってくるのは、規則正しい寝息のみ。

 完全に熟睡モードだ。


(参ったな……。この子もまさか、メンバーの一人なのか?)


 カケルさんが昨日「眠そうだったから帰らせた」と言っていたのを思い出す。

 この子のことを指していたのだとすれば、妙に合点がいく。


 ただ、もし本当にこの子が戦闘メンバーの一人だったとしたら――

 その時点でこの組織、かなり常識の外にある気がする。


(いや、中学生以下は基本ダンジョンへの参加が制限されてるんじゃなかったっけ……?例外があるとしたら……いや、現実逃避か)


 そう考えながらも、膝の上の小さな寝顔はあまりに穏やかで、起こす気力が少しずつ削がれていく。


 仕方なく、俺はそっと背もたれに体を預けた。

 膝の上に女の子を乗せたままでは身動きも取れず、ズボンのポケットに入れたスマホに手を伸ばすこともできない。


(他の人、早く来てくれ……)


 周囲を見渡しながら、俺はこの微妙な体勢のまま、誰かが現れてくれるのを願って静かに時間が過ぎるのを待った。



「陽向くん、陽向くん!」

「……はい?」


 名前を呼ばれた瞬間、意識が急激に浮上した。

 聞き覚えのある女性の声――ミサキさんだろうか。

 どうやら俺も寝てしまっていたようで、スマホの画面を見るとすでに12時を過ぎていた。

 文字通り“お昼頃”だ。


 膝の上では、あの小さな女の子も目を覚ましたようで、大きなあくびをひとつしながら、まだぼんやりとした表情で身じろぎしている。


「……さらってきたの?」

「い、いや、違いますって!早めに来たらもうこの子がいて、隣に座れって言われて、そのまま膝枕で寝られて……!」


 つい早口で弁解してしまうが、ミサキさんは口元を緩めてクスクスと笑った。


「そんなに必死にならなくても。冗談よ、冗談!」


 そうは言っても、最初の問いかけは妙に真剣な表情だったんだが……。


「……あかね」

「えっ?」


 小さな声がして、俺は思わず聞き返す。


「わたしの名前、あかね。『ダンジョンゲーマーズ』のメンバー。陽向お兄ちゃん、よろしくね」

「茜ちゃん、こちらこそよろしく」


 そう言いながら、つい頭を撫でてしまうと、彼女はくすぐったそうに笑いながら俺の隣へぴたりと寄ってきた。

 まるで妹のようだ……いや、年齢的にも本当にそんな感じだ。


「妹とはそんなに年が離れていないんです。ちょうど雪が茜ちゃんくらいの頃、俺がよく面倒を見てたんですよ。両親が共働きで、帰りが遅かったので……」


 視線を向けてくるミサキさんに、少し先回りして事情を説明する。

 誤解されたくはない。

 俺は決してロリコンなどではない。


「違うのよ、陽向くんにそれを言いたかったんじゃないの。茜!もう少しちゃんとできるでしょ!」


 ミサキさんが少し語気を強めると、茜ちゃんは俺の袖をきゅっと握りしめてきた。

 それを見た瞬間、かつて夜ひとりで眠れず泣いていた妹の姿が頭に浮かび、ついかばうように口を開いた。


「ミサキさん。茜ちゃん、怖がってますよ?」

「……陽向くん、騙されちゃだめよ。この子、見た目はこうでも本当の年齢は違うの」

「えっ……?」


 聞けば、茜ちゃんは特殊な魔法を使った際、その代償として魔力量に応じた“見た目の若返り”が起きるという。

 しかも現在の姿は、先日の第20階層からの撤退時に魔法を使った結果らしく――


「元の年齢に戻るまでは、通常の何十倍ものスピードで成長していくわ。でもね、見た目に精神が引っ張られるから、時々こうやって“子ども”になっちゃうのよ」

「成長するには、たくさんねむらないといけないの」


 茜ちゃんがぽつりと口にする。確かに眠そうだ。

 どうりで膝枕でぐっすりだったわけだ。


 そこへ、ミサキさんがふと周囲を見渡してつぶやいた。


「……そういえば、まだ他の2人は来てないのね!」

「私は居ますよ」

「あら、ヒカリはいたのね!」


 不意に隣の一人掛けソファから声がして、俺は反射的に肩を跳ねさせた。


「ひ、ヒカリさんですか!?……いつからそこに……?」

「よろしくお願いします、陽向さん。入ってきたときから、ずっとここにいました」

「ヒカリが突然現れるのは日常茶飯事よ。能力のせいなんだけどね。私はもう慣れたわ!」


 ミサキさんがドヤ顔で言うが、まったく気配すら感じさせなかったのは素直にすごい。

 ……いや、ちょっと怖い。


 と、そんなやり取りの中――


「カケルはまた遅刻ね!今度こそ、あいつをオークの集落に一人で放り込んでやるから!」


 バンッとテーブルを叩くミサキさん。

 昨日は頼れるリーダーのように見えたカケルさんだが、どうやら遅刻常習犯らしい。


 ミサキさんが一人で盛り上がる傍ら、茜ちゃんは眠そうにうとうとし、ヒカリさんはにこにこと頷くだけ。

 目の前に広がるこのカオスな光景に、俺はただ呆気に取られていた。


(……この組織にいると、退屈することはなさそうだ)


 思考が追いつかず、俺はとりあえず現実から目をそらすことにした。



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