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ダンジョンリプレイス:無能力者で『妹のヒモ』と呼ばれた俺が、覚醒して世界が変わった  作者: すいまる
一.《覚醒》

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16/26

閑話①

 5月下旬のある日。


 最高気温は30度近く。

 アスファルトの照り返しが強く、街を行き交う人々もすっかり夏の装いに変わっていた。


 そんな中、俺――清水陽向はといえば、季節外れの長袖姿で汗をにじませながら歩いていた。

 先週までの朝夕の冷え込みに油断して、衣替えを先延ばしにしていたのだ。


 隣を歩くのは、同じダンジョン攻略サークルに所属する倉本ハジメ。

 最近はサークル活動日以外でもよく一緒に行動していて、大学でも一番の仲間と言える存在だった。


「暑いなぁ。まだ5月なのにこの暑さかよ」

「まあ、旧暦ではもう夏だからね。でもそれより、清水くん。その格好はさすがに季節外れすぎじゃない?」


 倉本はすでに衣替えを済ませて、爽やかな半袖姿だ。

 実家暮らしの彼は、どうやら母親のチェックが厳しいらしく、服装にはうるさく言われているらしい。


 本人は「大学生にもなって口出しされるなんて」と不満を漏らしているが、俺にとってはちょっと羨ましくもあった。

 俺は上京組で、実家とは離れて暮らしている。

 口うるさい家族の存在すら、時には懐かしく思えるのだ。


「……そういえば、妹さん、もうすぐ帰ってくるんでしょ? その前に衣替えしといた方がいいと思うけど」 「……うっ、それは……否定できないな……」


 そう、妹の雪。

 倉本には、彼女があの有名な能力者・雪であり、俺と同居していることも話してある。

 最初は誰にも言わないつもりだったが、最近ではなぜかサークル内でも知られるようになってしまい、「一度紹介してほしい」と男女問わず言ってくる者まで現れる始末だ。


 ……紹介したくなるような言動をしてるならともかく。

 俺としては断り続けるのに苦労している。


 そんな話をしているうちに、目的地であるダンジョンビルが見えてきた。


 大学からも近く、飲食店が軒を連ねる繁華街の一角にあるビルは、一見すると普通の商業施設のようだが、中に入れば別世界。

 初心者に優しく、施設も充実していることから、日本全体でも有名な攻略拠点の一つだ。


 俺も倉本も、もはや初心者と呼ばれる段階は脱していたが、この恵まれた立地と設備のダンジョンを選ばない理由はなかった。


「――まあ、それは置いといて! 今日はついに、スライムの上位種に挑むぞ!」

「うん。僕も楽しみにしてた。2人だけでも、きっとうまくいくよ」


 今日の目標は、スライムの上位種『スライムロード』。

 俺たちはすでに上位個体のスライムやゴブリンとの戦闘を経験しており、今回はその延長線上での挑戦だった。


 ダンジョンビルの自動受付機で入場手続きを済ませ、建物の奥へと足を進める。

 ほんの1時間ほど、準備運動がてら通常のスライムを狩り続け、いよいよ上位種が出現しやすいとされるエリアへと突入した。


 対策は万全。

 攻略本の情報は隅々まで読み込み、昨日の講義後には作戦会議も入念に行っていた。


 そして、スライムロードを発見。


「よし、さっき決めた作戦通りに!」

「了解!」


 倉本の声に応じて、俺は剣を片手に駆け出す。


 今回の作戦は単純明快。

 俺が前衛として注意を引き、倉本が後方から魔法で攻撃と支援を担当する。


「清水くんっ、無理しないでね!」


 スライムロードは俺に向かって魔法を次々と撃ってくる。

 そのうちのいくつかは避けきれずに命中したが、止まるわけにはいかない。

 痛みが軽減されるダンジョン内とはいえ、当たればそれなりに痛いのだ。


 だが、俺には倉本がいる。


『ヒール』


 後方から倉本の回復魔法が届き、体の痛みがすっと和らぐ。

 振り返ると、彼は「まったくもう」とでも言いたげに、苦笑しながら首を振っていた。


 スライムロードは、俺の特攻に動揺したのか防御に回ろうとしたが――遅い。

 勢いそのままに、俺は剣を振り下ろし、肉厚のボディに切り込みを入れた。


 続けざまに、倉本が魔法『ウインド』で相手の魔法を打ち消し、戦況を整えていく。

 攻撃力は低いが、連発できて使い勝手のいいスキルだ。


 そして、戦いの末――。


『ファイヤストーム』


 倉本の火属性スキルが着弾し、炎に包まれるスライムロード。

 最後は俺が跳びかかるようにしてとどめの一撃を叩き込んだ。


 俺たちは無事、初の上位種を撃破した。


「やったなっ!」

「うん、最高の連携だったよ!」


 ハイタッチを交わし、戦利品の確認をすると、運良く宝箱が出現していた。

 中には、炎属性のスキル本――『炎剣』が収められていた。


「清水くんが使うのも、アリだと思うけどな」

「うーん。でも、属性かぶりしちゃうだろ? 倉本と一緒に組むなら、別属性のほうがいい気がする」


 倉本は火属性の攻撃魔法に加えて、回復、支援とバランス型でスキルを選んでいるタイプ。

 その分、突出した長所は少ないが、今の段階では頼もしい存在だ。


 これからも一緒に戦っていくなら、俺自身がどういうスキル構成にするかをしっかり考えないといけないな――そんなことを思いながら、俺たちは帰路についた。


 ダンジョンビルの受付に着くと、顔なじみの女性スタッフ、セイラさんが声をかけてくる。


「お、清水くんに倉本くん。今日も元気ねぇ」


 人気のある拠点とはいえ、毎日のように通っていれば、名前と顔を覚えられるのも当然か。


「今日は……スライムの上位種に挑んだんだったっけ?」 「はい、セイラさん。お願いします」


 提出した『炎剣』のスキル本を見たセイラさんが、少し驚いた顔をする。


 ……このときの俺はまだ、倉本との攻略がこの先も順調に続いていくものだと、信じて疑っていなかった――。

 


――――――



↓↓読み飛ばし可↓↓

【これまでの主要な登場人物紹介】

 

○清水陽向○

 主人公で大学2年生。

 地方から上京し、能力者である妹、雪と同居している。

 趣味はダンジョン攻略で使う武器は剣。

 サークルを脱退してからソロで挑むようになったが、それでも上位個体や上位種を楽々攻略する姿を度々見かけられ、彼の周囲ではちょっとした話題になっていた。

 オークエリアでのゴブリンジェネラルとの戦いにおいて、能力が覚醒した。


○清水雪○

 主人公の妹で高校生。

 5年前、ダンジョンが発生した時に12歳ながら能力に覚醒し、後のダンジョン協会となる組織に保護される。

 今ではダンジョン協会の最強の一角として、その容姿や彼女が使う氷魔法の美しさから、アイドル的人気を誇る。

 兄である陽向とは良好な関係で、自分の方が強くても何かあったときには兄が守ってくれると信じて疑わないでいる。


○セイラさん○

 陽向がホームとする攻略拠点の取引所で受付として働いており、陽向がサークル関係で悩んでいた際には相談にも乗っていた。

 セイラさんに言わせれば陽向は『期待のホープ』で、いずれは攻略組と勝るとも劣らない存在になることを確信している。

 陽向の妹である雪とも仲が良く、陽向の普段の様子はセイラさんから雪に流れているらしい。


○マスター○

 ミツハルさんとも呼ばれる。

 攻略拠点へと続く洞窟のある建物、通称ダンジョンビルの道を挟んだ反対側の建物の1階で喫茶店を経営するオーナー兼マスター。

 コーヒーだけでなく料理もおいしい喫茶店は、昼夜問わず人が多い。

 比較的人の少ない時間に頻繁に姿を見せる陽向と少しずつ話すようになり、一緒にダンジョン攻略に行ってからは歳の差はあるとはいえ友達のような存在。

 いや、もしかしたらマスターは陽向を子どものような気持ちで見守っているだけかもしれない。

 ガタイが良く強面なことから、初めて見た人は近付かないような見た目だが、人柄の良さから色々な方面の人からの信頼がある。



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