スキル、エレベーター&エスカレーターを手に入れた転生令嬢は婚約破棄されてテンション高めです!
「リリナル・カルテルト令嬢!僕は君と今この場をもって婚約を破棄にする!!」
私は意気揚揚とそう宣言した婚約者に首を傾げる。
「婚約破棄の詳細を聞いてもよろしいでしょうか?」
「はっ!無能な癖にわざわざ理由を聞くのか!!」
「お父様にはいつも分からない事があればきちんと確認してから行動しなさいって言われているので…」
自分としてはさっさと婚約破棄して、お茶会の続きをしたい所をグッと我慢して尋ねた。
「1年経っても君のスキルが意味が分からない無能スキルだから父上と母上からさっさと婚約破棄してこいって言われたんだ!」
「酷いですわ。婚約を願い出たのはアザリアル侯爵家の方ですのに。」
「軍事力に優れたカルテルト辺境伯家なら圧倒的な力のあるスキルを持つ令嬢になる筈だからって僕は君との婚約、嫌だったのに父上達が熱望したから仕方なく…!!」
ようやく婚約を破棄して良いって言われたから来たんだ!と私のお茶会に乱入して来た迷惑な婚約者に私は今までで一番良い笑顔で答える。
「では私の保有スキルが無能だからという失礼な理由での婚約破棄希望ですね。分かりました、早急に婚約破棄致しましょう。セバス!お父様達にこの事の詳細を連絡!あと婚約破棄の準備を。」
クルトン・アザリアル令息はあっさり婚約破棄を了承した私にポカーンと口を開け私を見る。
「私、楽しく過ごしていたお茶会に乱入する様な礼儀がなっていない方と共に生涯を過ごすつもりはありませんの。婚約破棄についてはまた後日改めてお父様達を交えて行うので今日はひとまず…」
扇子で口を覆い元婚約者を見るとようやく今の状態に気付いたらしい。
いくらまだ12才といえ、注意力が無さ過ぎではないだろうか。
多分アザリアル侯爵家はクルトン様にお茶会中に割り込んで破棄宣言して来い!とは言わなかったはずだし、うっかりさんなのかもしれない。
そんなうっかりさんなクルトン様をお茶会メンバーがクスクス笑っていた。
「マルクス、クルトン様のお見送りを。」
「えっ…あの…」
「アザリアル様、お見送りを担当させて頂きます、マルクスです。では馬車までお見送りしますね。」
護衛にクルトン様を任せ、私は椅子に座り紅茶を一口飲む。
まさかこのタイミングでの婚約破棄宣言とは思わなかった私は紅茶を飲んだ後、クルトン様がいないのを確認してから小さくガッツポーズをした。
「やったーー!!婚 約 破 棄!!」
嬉しくてぴょんぴょん飛び跳ねたい気持ちを抑え、緩む口を誤魔化す為、もう一口紅茶を飲む。
「良かったですわね!」
「お、おめでとうございます!」
「おめでとう!それにしても婚約破棄、円満に済んで羨ましいわ!」
「皆様、私、やりましたわ!!」
お茶会のメンバーは和かな表情で拍手してくれた。
このお茶会メンバー、実はスキル鑑定後前世の記憶を取り戻した私が集めた婚約破棄をしたい令嬢達なのである。
この世界には結婚したく無いけど政略結婚しなければいけないという令嬢が多いのだ。
「お茶会、中断してしまい申し訳ありません。」
冷静になった私が頭を下げると他の令嬢達は気にしてないわ!とご機嫌。
私はこのお茶会メンバーと今日会えてよかったなと思った。
♦︎♦︎♦︎
時は遡り私が10才の誕生日を迎えた日、神殿でスキル鑑定が行われた。
この時には既にクルトン様は婚約者(5才で婚約)だったし、周りから武力に関するスキルだろうと噂されていて私はこの日を凄く楽しみにしていたわ。
スキル鑑定結果は『エレベーター&エスカレーター』。
見た事ないスキルに私はショックを受けて倒れ、3日ほど寝込み、前世の記憶を思い出したの。
前世はとある無料スマホゲームの悪役令嬢に一目惚れした高校生男子だった。
確か名前は小鳥遊優斗…だったかな?
前世の記憶は専門的なことには弱く、少しあやふやな部分もある感じ。
ただ一つ、その一目惚れした令嬢に関して以外は。
そう、その令嬢こそが転生先のリリナル・カルテルト辺境伯令嬢だった。
記憶が戻った日はせっかく一目惚れした悪役令嬢がいる世界なのに…!!と鏡を見ながら泣き崩れたものだ。
それから少しして落ち着いた私は紙を取り出し、現状と私に関するゲーム内の事を書き出す。
なんと既にゲームとは違うところがあった。
前世の記憶の所為かリリナル・カルテルトの保有スキルが『ミラーゲート』ではなく『エレベーター&エスカレーター』。
階段を面倒くさがる前世の自分らしいスキルにちょっと笑えてくる。
「ミラーゲートは鏡の中を通り別の鏡から出られる諜報系スキルだったけどエレベーターとエスカレーターって移動手段だよね?」
スキルは想像力で力を発揮する物なので未知なる保有スキルは無能とされやすいが、前世の記憶がある今の私には問題がない。
構造は分からないけど要は動く箱と動く階段を思い浮かべれば目の前に前世あったエレベーターとエスカレーターが現れた。
「あ、出来たっぽい。」
部屋で一人、スキルを使える事が確認出来た私はそれらを消してまた出してを繰り返し、手元にあった紙切れをエレベーターやエスカレーターに載せてみて確かめる。
「特に問題なさそう。ゲームのリリナルはプライド高くてヒロインに嫌がらせをする為にミラーゲートスキルを使っていたけど、記憶が混ざってるからか婚約破棄による屈辱より男の婚約者がいる方が嫌だって思っちゃうなぁ。」
そう考えてメモした紙を見直す。
現段階ではカルテルト辺境伯家の甘やかされたちょっとわがままな末娘ってのは変わりないけどトラブルは起こしてないし、ヒロインもまだ現れていない。
プライドが高くなる原因だったスキルも保持していないから家族や領地の人達以外からチヤホヤされることも無い。
婚約自体は王家も絡んでいるから簡単には婚約解消出来ないけど記憶を取り戻すには良いタイミングだったと思う。
「無能と思われてた方が婚約破棄早まりそうだし、婚約者とかには内緒にして、ひとまず家族にだけ報告しようかな。」
歳の離れた娘(妹)である私のお願いなら何でも聞いてあげる!!とお父様もお兄様も毎日言っているし口止めすれば多分問題ないだろう。
それから私は湯浴みをし、3日ぶりに家族と顔を合わせた。
部屋に入った途端、筋肉ムキムキのお兄様達に囲まれたのには少しビビっちゃったけど。
「お父様、お母様、お兄様…私、相談したいことがあるんです。」
「家族で過ごすからここはいいから他の作業をして来てくれ。」
チラッとメイドの方を見て家族を見るとお父様が家族以外は部屋から出る様に促してくれた。
「こほん…リリナル、体調はもう大丈夫なのか?」
「ご心配をお掛けしました。私はもう元気です。」
「それなら良かった。それで相談とは?」
「私、見覚えの無いスキルを見てこの世の終わりだと思って倒れ、寝込んだ末に前世という別の世界を知ったんです。」
家族は皆顔を合わせ首を傾げている。
それはそうだよね、急に意味の分からない事を言われたら。
でもゲームの中の私はあらゆる事をしでかして国外追放、処刑、かなり歳の離れたご老人に嫁ぐの3パターン。
場合によっては爵位剥奪や領地剥奪も有り得るわけで、他人事と済ませる事は出来ない。
なのでなるべく分かりやすく証拠から見せる事にした。
「えーと…リリちゃん?前世とかって何かしら?」
「お母様、詳しい話はスキルを見せてから答えますね。お母様達はエレベーターもエスカレーターも何か分からないよね?」
「そうね、調べても今までいなかったみたいで資料が無かったし分からなかったわ。でも分からなくてスキルが使えなくても貴女は我が家の可愛い娘よ?」
「前世という世界を思い出した私にはこの2つが何か分かるので今の私はスキルが使えますよ?皆さん、見ていてくださいね?」
「え?今ここで?」
「じゃないと信じてくれないでしょ?相談事したいのにそれじゃ相談出来ないんだもの。」
場所を空けてもらって小さめのエレベーターを出す。
サイズは私が入れるだけの小さめサイズだけど見たことも無い物を目にして家族は口を半開きにさせたまま目をまん丸にさせる。
「見てて、まずはエレベーターの方から紹介するわ!スキルについての質問は私の説明が済んでからにしてね!!」
ボタンを押して扉を開け、中に入って2階を押してエレベーターから出た私は持って来ていたクマのぬいぐるみを置き扉を閉める。
高さは低めに作ったから2階の扉が開いたら筋肉ムキムキお兄様達がクマのぬいぐるみをギリギリ目視できるくらい。
「……え?ぬいぐるみが現れたぞ??」
「これは瞬間移動的なスキルかしら?」
武力に優れてはいるものの頭的には今一つなお兄様達は理解力が追いつかないのか言葉すらない。
お母様が後ろに下がりクマのぬいぐるみを確認したのを見てから下の矢印ボタンを押して一階に降りて来たクマのぬいぐるみを手に取る。
「まだ私が入れるくらいのサイズまでしか試してませんが練習を重ねれば大きく、そして透明化も出来るようになるだろうし、作れる個数も増えると思います。そうなったら非常食や武器を隠しておけますし、一時避難する時とかも使えるかなって。あと、透明化とスピードが出せるようになったらあらかじめ上で待ち伏せしておいて下に敵襲来たらエレベーターを降ろしてプチッと潰す…なんて攻撃手段にもなるかと。」
「あら、リリちゃんはよく考えているのね。」
私はここで前世の事やゲームについて語り、これからの事についての考え方が変わった事も伝える。
「私、人生を謳歌したいので結婚とかしたくないんです。幸い家族の縁もお兄様達の婚約者の方々との縁も良好なんですよ?私はこの領地から離れたくないんです!だから領地外では無能アピールして婚約破棄を狙うつもりなんですよ、協力してくれますよね?」
「協力はいいが何をすればいいんだ?」
「まずは守秘契約魔法を結んで頂きます。あと信用のある方々には事情を話してスキルの練習のお手伝いと備蓄するものの管理をしてもらいたくて。」
「そのくらいの協力なら問題ないが、エスカレーターの方も何かあるのか?あとあんどって何か分かるか?」
「あ!すっかり忘れてました!!エスカレーターの方も見せますね!あと&は前世の言葉で『それと』と同じような意味だよ。」
「…ということはやはり2つスキルを持っているって意味かい?」
「簡単にいえばそうなるわね。」
クマのぬいぐるみを流すつもりだからエスカレーターも小さめ。
最初はエレベーターの扉に辿り着くように設置しようと思ったけどそわそわしている三男、リックスお兄様の目の前に出す。
「おわっ!?なんか出て来た!!」
「リックスお兄様、今からクマのぬいぐるみを流しますのでそこでじっと待って優しく受け取って下さい。行きますよ〜!」
足元に置いたクマのぬいぐるみはエスカレーターによってリックスお兄様の元へ運ばれ、お兄様が無事ぬいぐるみを受け取る。
「凄いな!!階段が動いてぬいぐるみがやって来たぞ!!」
はしゃぐお兄様はしゃがんでぬいぐるみを私に手渡す。
「こちらもまだ大きいサイズや透明化にはチャレンジしたことが無いので練習します。こちらも高い場所への避難や普段の移動手段に向いてるかなって。」
「リリちゃんイキイキしてるわね。」
「色々吹っ切れたんです。それにせっかくスキルを得たのに使わないのは勿体無いですから!」
そうして相談という名の報告をしたやる気満々の私はゲームのようにならないためにスキルの力をつけ、味方を周りにたくさん集めることにしたのだった。
♦︎♦︎♦︎
そんな過去があり現在…
お父様達を交えた話し合いが終わり無事婚約破棄出来た私達は各所に連絡を入れる。
勿論、王家を支持するアザリアル侯爵家に私という力を持たせ利用しようとしていた王家にも婚約破棄について報告済み。
その際に尊厳を大変傷付けられたので2度と婚約や結婚はしない事を伝え、王家が強引に婚約や結婚を薦めないように魔法契約書も書いてもらった。
アザリアル侯爵家という駒を1年経ってもスキルが使えない無能に使うなんて勿体無いし、無能との婚約や結婚を他の大事な駒に使うなんて勿体無いと考えた様子の王様はあっさり魔法契約書にサインしてくださったわ!
ウキウキ気分で私は婚約破棄宣言された時にお茶会をしていたメンバーを呼び、無事婚約破棄が済んだことを祝うささやかなパーティを開いたの。
その時に王様から魔法契約を交わしたことを言い、本題に移れたわ。
守秘契約魔法を結んだ後、ようやく前世の話やスキルについて話してスキルも披露したの。
「こちら、皆様の婚約者の方々について調べた書類なんですが…幾つか婚約破棄出来そうな理由がある方が数名いますの。」
透明化したエスカレーターとエレベーターを駆使して調べた資料を渡し、説明をしていく。
「もしかして私、婚約破棄出来るの…?」
「あのお方ったら私に隠れてふしだらな…」
「うわぁ…あいつの性癖なんて知りたくなかったわ…」
「決定打は無いけどテナンス伯爵にあの件を伝えれば…いやそれとも…」
練習も兼ねて色々していたら透明化したエレベーターやエスカレーターに乗っている私も透明になれる様になって思った以上に情報が集まった為、きっと役立つはず。
「私、努力は報われるべきだと思うんです。だから皆んなで協力して全員婚約破棄出来るように頑張りましょう!」
「私、リリナル様みたいに婚約破棄出来るように頑張ります!!」
「協力有難いわ!私も協力いたしますから相談してくださいまし。」
「リリナル様〜!!」
「頑張ります!!」
私のスキルは今まで応援してくださったお茶会メンバー全員が無事婚約破棄出来るまで情報を秘せて無能令嬢でいるつもり。
透明化したら皆さんの婚約破棄を優位に勧められるように動けると思うし。
「私、皆様が無事婚約破棄出来たら堂々とスキル使って無能令嬢扱いしていた方々をぎゃふんとさせるのが次の目標なんですよ。」
笑顔でそう言った私を見た皆の目はやる気に満ち溢れている。
私、婚約破棄出来て本当に幸せだわ!!
明日は何をしようかしら。
ご覧頂きありがとうございます。
婚約破棄の短編が書きたくなったので書いてみました。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
ちなみにお茶会令嬢達は年齢差あってリリナルが最年少で可愛がられているという作中にはない設定があります。
⭐︎宣伝
普段は『花咲く頃にまた会おう 』というファンタジー系の話を書いています。
良ければそちらもどうぞ。