第6話 信頼できるひと
作者は、メッセージアプリになるとどんなに親密な人でも敬語になっちゃいます
彼と探して見つけた鍵で家に入る。エアコンがタイマーで着くように設定していたおかげで、扉を開けるた途端ふわっと暖かい空気に包まれる。外は寒かったなぁ。
朝に洗ってあったお風呂にお湯を貯めている間、さっきコンビニで買ったチーズドリアをレンジで温める。
あぁ、美味しい!最近のコンビニで1番好きな食べ物。食べ物といえば、ずんだ団子美味しかったな。本川さんのおすすめも聞けばよかったな。
━━━━━━━━━━━━━━━
ちゃぽん。
1日の疲れが身体から溶けていくような感覚に、安心感を抱いて少し眠気が襲ってくる。暖かいなぁ。
安心感か━━━━
日常の中で安心感を得られるのは、両親が帰ってきて家で少し豪華な夜ご飯を食べている時。いつも自室でひとりで食べるご飯と違って、ダイニングで食卓を囲むのは賑やかで楽しい。何より、家族と一緒にいられることに安心感がある。
今日は両親はいなかった。それなのに、本川さんと話して、いつの間にか彼に自分の素を多く見せてしまった。挙句の果てには友達になって連絡先交換まで…
顔の火照りは、湯気で誤魔化すことにした。
━━━━━━━━━━━━━━━
今日計画していた予習・復習は終了。少しちらかった部屋を片付けようかなとも思ったが、睡魔には勝てない。その意のままベッドに倒れ込む。
掛け布団を被って1日を終わりにしようとした瞬間、充電していたスマホから軽快な音が鳴る。
アプリの通知はほぼ切っている。付いているのはメッセージアプリだけだ。さらに連絡先交換をしているのはクラスメイトの女子数名と両親、そして……
メッセージは本川さんからだった。
『夜遅くにすみません。今日の課題の分からないところを聞いてもいいですか?』
…全く。今は23時半。ほんとに遅い時間だよ?
それに、なんで敬語なのかな。夕方は、砕けた口調であってくれたのに。
「ほんと、へんなひと」
思わず微笑んで、そんなことを口にする。
スマホを持ってベッドに潜る。できるだけ文面で分かるように解説をする。本川さんは理解が早くて、少し間違いを指摘すると次の問題は間違えない。
家もお隣だし、勉強会なんかもいいなぁ………
解説も終わり、彼はお礼を言ってくる。礼儀正しくて偉いな。でももう今日は終わりかな。寝なきゃいけない。きっと彼も眠いはずだしね。
━━でも、今日中に聞かないといけないことがある。
彼が寝る前に、私は女子高生の特技「高速フリック入力」を発動する。
『「霞姫」という私の2つ名、どう思いますか?』
『どう…とはどういう意味ですか?』
『良いねとか、悪いね、とかですね』
『うーん、そもそも、なんで「霞姫」なのですか?名前が霞さんだからですか?』
……初めて名前呼んでもらった。ほんのちょっとだけ嬉しい。
『それもあると思いますが、恐らく私の容姿でしょう。髪の毛が白くて綺麗でつやつやだったり、肌が白かったりとか』
『なるほどです』
『これを踏まえてどう思いますか?』
どう思うのかな。答え次第では…
『うーん、言い得て妙だと思います』
『容姿が霞を連想させるかって言われたら連想されるし、名前が霞さんなのも芸術点高いですし』
………あ。この人も他と一緒なんだ。私のことを
「霞姫」なんて言葉で私を括るんだ。
『まぁでも、悪い使い方もされてるかも知れません』
…?
『悪い使い方…?』
『はい。…でも、本人に言っていいものなのか分かりません』
『構いません、言ってください』
『…はい。この前、男子生徒の滝川さんと喋ったあとの会話を聞いたんですよ』
『ふむ』
『それで、「霞姫」はやっぱり天才だなって言ってまして』
スマホを持つ手に思わず力が入る。
『でも、それって違うよなって思ったんです』
……ぇ…?
『「霞姫」なんていうたった一単語で滝川さんの努力が語られるのは違う気がするんです』
『滝川さんの頭の良さも、容姿も、きっと血が滲むような努力の結晶だと思うんです』
!!!
『努力を知られずに、「霞姫」という「天才」を包括した言葉で滝川さんが括られるのは、俺は嫌ですから』
嬉しい。本当に嬉しい。私のことをこんなに見てくれていたなんて。
この人を疑った自分を殺してやりたい。
『滝川さん?』
『あ、はい』
『あの、さっきの男子生徒の話で傷ついてしまったら本当にすみません』
なんで謝るのかな。こっちはそんな話比べ物にならないくらい…
『あなたが相殺以上の言葉をくれたので、気にしないでください』
『ではおやすみなさい!!良い夢を』
『えっ』
半ば強引にメッセージアプリを閉じた。これ以上話していると変なこと口走っちゃいそうだから。それに、時間はもう1時を回る。彼も眠いだろう。私も眠い。
スマホを充電器に戻して、再びベッドの中へ。
「天才」なんて言葉が大嫌いだ。自分だけ恵まれて、努力せずに利益を得ている人みたい。自分がどんなに勉強してテストでいい点数をとっても、
「やっぱり天才は違う」
「やはり滝川さんは天才ですね!」
「天才だからって見下さないで」
自分のやってきたことを見てくれる人なんていない。なんなら批判まで受けてしまって。
それが辛かったけど、時々帰ってくる家族に自分の努力を褒められるのは本当に大好きだったから。
「天才」っていう言葉とか、それに関する批判とかの不快感が全部吹っ飛んじゃうくらいにね。
家族以外にも、私を認めてくれる人がいるんだな…
友達になれて良かったな……
………そういえば、彼から借りた上着、来たまま帰ってきちゃった。
…会話の口実になるからいいか。
…また…お話し…したいなぁ……
家族以外から受ける幸せの新鮮さと喜びを感じながら、遅い時間の眠りについた。
ホホ!まとめるの難しい!
宜しければ★★★★★お願いします!