第20話 話したいから
祝20話!
(そういえば、明日何時から遊ぶんだ?)
寝る前、不意にそう考えた。
遊ぶ約束はしたのだが、詳細を全く決めていない。
家が隣なので、何時でも良いといえば良い。しかし俺の休日の朝は世間一般的に恐らくとても遅い時間だ。なんなら今日は少し早く起きたなと思っていた。
明日霞がうちに来てインターホンを鳴らしても俺が起きていない可能性がある。そうなると霞を待たせてしまうことになる。それは良くないだろう。
『明日何時から遊ぶ?』
そうメッセージを入れると、10秒経たずして既読が着いた。しかし返信が来ない。
返信を待つ。ベッドに潜って、枕に顔を埋めていると、スマホが振動した。しかし受信したのはメッセージではなく━━━━━着信。
「もしもし、霞?」
『こんばんは!』
霞の声がいつもより笑みを含んでいて、いたずらっぽい響きを帯びているのはなぜだ?まぁそれはともかく、用件はなんだろうか?
『遊べなくなりました』ならメッセージで良い。
『間違えました』でも無い。もしそうなら俺が出る前に切っているだろう。
『お喋りしたくて』ならあまりに都合が良すぎる。俺は…したいけど。
『明日は、午前9時から遊びたいです』
はっや。まあそれは良い。俺も早く遊びたいから。…というか用事はそれだけなのか?
「9時ね。了解。…で、用事は…?」
『い、今のが用事ですっ』
「…えっと、それなら文面で良かったんじゃ」
『な、なんでもいいじゃないですか!お話ししたい気分だっただけですっ!』
突然の大声に、思わず耳からスマホを離す。
お話したかった…………
一旦冷静になろう。
霞も、友達と遊んだ日の夜は寂しいのかもしれない。
霞が話せる人なら誰でもよかったのだろう。
って思っても。
霞と話しているからか、ベッドに潜り込んでいるからか、体の奥底から込み上げてくる火照りは留まるところを知らない。
『あの、啓人君?』
「あ…ごめんごめん」
とりあえず身体を冷ますため、落ち着かせるためにカーテンを開いて窓を開ける。
途端に、温まった部屋の空気が冬夜の低温と混ざり合う。少し寒いくらいか。
涼んでいると、突然正面が明るくなった。
隣の家のカーテンが開かれたのだ。隣の家━━━━━すなわち、霞の家だ。彼女が窓を開けると同時に俺は通話を切った。
「えへへ、電話じゃなくてもお話できますね」
「…お互いの部屋同士が近すぎないか。初めて知ったんだが…」
霞が顔を覗かせる窓の奥には、薄いピンク色の壁紙や、大きなぬいぐるみなどが見える。恐らく霞の自室であり、可愛らしい。けども。
「…部屋、散らかりすぎじゃない…?」
「…!啓人君のH!見ちゃだめです!」
何がHだ。
霞はベッドに立ち膝になり、両腕を広げて見ないでーとジャスチャーをする。確かに同級生の女子の部屋を見るのも多分犯罪 (じゃないよ)なのでこれ以上見すぎないでおこう。視界に入ってしまうのは許してもらおう。
いつの間にか羞恥が収まったのか、霞はメッセージのやり取りの続きの話をし始める。
「啓人君、あした9時から遊びましょう」
「早くない?いや、全然いいんだけど、俺起きれないかも」
「構いません。インターホン連打と電話かけまくって無理やり起こします」
「起こされても、遊ぶ準備とか何も出来ないぞ」
「そんなことしなくていいです。お世話になりっぱなしなのも申し訳なくなりますし」
「お菓子も出せない」
「…!?」
もちろん、お菓子なんて20秒もあれば出せる。ツッコミ待ちのボケだったのに、霞は何やら衝撃を受けて、何かを真面目に考え始めた。
「うちにあるおやつを持ってってもいいですがそれじゃあ啓人君の好みに合わないものもあるかもしれませんねでもおやつがないのはやっぱり…いっそ今から買いに行ってもいいのでは」
「待て待て」
ボソボソ独り言を言っていたが、その内容が突然ぶっ飛んだ方向に行ったので思わず止めた。
「…わかったよ。明日は早起き頑張るから」
「ほんとですか!」
「本当だ。…あの、霞が良ければなんだけどさ、」
「ん?はい」
「朝、一緒にお菓子買いに行かないか」
「行きます行きます!」
即答だった。
なんだかデートに誘っているみたいでドキドキしたな。もし断られたら明日どころか3日は寝込んだかもしれないが、むしろ霞に喜んでもらえる提案だったようで何よりだ。
本当に早起きを頑張らなくてはいけない。
朝散歩へのお誘いも終わったところで、兼ねてより気になっていたことを聞いてみる。
「そういえばさ、さっきなんで返信じゃなくて通話してきたの?」
「へ、さっき言いましたよね?『お話したかった』って」
「いや、多分それじゃないよなーってさ」
「な、なんでそう思ったんですか?」
「『お話したかった』が理由なら、あんなにいたずらっ子みたいな声出さないだろうし。霞、恥ずかしがりだからな」
「……」
霞が感心したように俺を見てくる。そして恥ずかしそうに言った。
「…よく見てますね、私の事」
「その言い方、俺がストーカーしてるみたいだからやめろ」
誤解の可能性を孕んだ言葉に苦笑してしまう。
人間観察は確かに得意な方ではあるが、もともと霞の性格はわかりやすいと思う。でも1週間前まで学校での完璧人間が霞の素だと思っていたので、やはり分かりずらいのか…?
まぁそれは今はどうでも良くて。
「で、結局なにが理由なんだ?」
「…お昼に、南谷さんに言われたんです」
「エ?」
「その……寝落ち電話したら啓人君が喜ぶって」
「…………」
「いざ啓人君に電話しようってなったとき、最初すごく恥ずかしかったんですけど…でも、やるなら堂々とやろうと思ってあんな感じになって…」
「…………………」
エェ???
一旦整理しよう。
霞は悠真のアドバイスで俺に電話をしてきた。
それが理由でいたずらっ子みたいな声になった。
さらにもう1つ。
夕方に霞が俺の頭を撫でたのは、悠真の指示じゃないってこと。
つまり、あの至福の一瞬は霞の意思。
それほどまで距離が縮まったことが、気恥ずかしいが嬉しい。
「…南谷さんにアドバイスされたのもそうなんですが」
霞は、そばにあったらしい別のイルカのぬいぐるみを抱え、口と鼻を隠し、俺から目を逸らして恥ずかしそうに言った。
「啓人君と話したかったのも、…ほんとです」
「…っ!」
「も、もう寝ないと明日起きれませんよ、私寝ます、おやすみなさいっ!」
俺が声を発する間も無く、スパァンととんでもない勢いで窓が閉められカーテンが閉じられた。
恥ずかしかったのかな、と思うとそれもまた可愛くて笑がこぼれてしまう。
笑うことなんて今まであまりなくて、俺に怖いイメージを持たれることなんてざらにあった。
でも、彼女の前だと自然と顔が緩んでしまう。
自分も窓を閉めていると、メッセージが入った。霞からだ。
『明日はぜったい起こしますからね、おやすみなさい!』
最後に無駄に動く白いクマのスタンプが送られてくる。
適当に返して、今度こそ寝よう。
明日は朝から霞とコンビニか。
たのしみだなぁ━━
明日を心待ちにして、目を閉じた。
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