第15話 私の名前は?
今回はあま〜いですよ
「ちょっとトイレ行ってくる〜」
ゲームの準備をしていたら、後ろから悠真の声が聞こえてくる。
返事をした頃には既にトイレに入っていた。
すると、待っていたと言わんばかりに滝川さんが近寄っててき、口を開く。なんだか、少し怒っている…?
「本川さん」
「ど、どうした?」
「…南谷さんの名前は?」
「へ?…悠真だよ」
質問の意図が分からず困惑しながら答えを返す。
「じゃあ、私は?」
「??……滝川さん」
「むーっ」
この答えの何かがいけなかったのか、滝川さんは頬を膨らませている。
「もう1回やります。南谷さんの名前は?」
「悠真」
「じゃあ、私は?」
「滝か…」
彼女の言いたいこと、さすがに分かってしまった。
滝川さんの名前━━━霞と呼んで欲しいのか。
いやいやいや。さすがに難易度が高い。たかが女子のことを呼び捨てにするだけと思われるかもしれないが、たかがそれだとしてもなかなか恥ずかしいものがある。
「同じ友達なのに、南谷さんは呼び捨てして、私はしてくれないんですか…?」
「いや、そういう事じゃなくて…」
ほんのり拗ねた雰囲気を出して、滝川さんはそっぽを向いてしまう。
しかし、彼女の横顔を見るとなんだかにやにやしている気がする。まるでイタズラが成功して、笑いが堪えられない子供みたいだ。
…なんだか負けた気がする。いや、まだ挽回できる。
「霞」
勇気をだして言ってみた。さんをつけようかと思ったが、それすら否定されるのが目に見えてわかるので、呼び捨てにしたのだ。
彼女はしばらく固まって、ようやく顔を俺の方に向けた。
…顔が見たことないくらい真っ赤だ。
「ぁ、の、本川さ━━」
「俺の名前は?」
ここまで勇気を出したのに霞だけ名字読みなのは不公平だ。少しいたずら心に火がついた。
「う…け、けい…と、くん」
「よろしい」
両手で顔を覆う彼女は、指の間を少しだけ広げ、片目だけ出し、タジタジになりながらそう言った。
初めて異性から名前で呼ばれた…それも、こんな美少女に。なんだかくすぐったくて、同時に心から嬉しくも思う。ニヤついてしまう顔を指で抑えて、未だ俯いている霞を見る。
少しいじめすぎたかとも思ったが、そもそも仕掛けてきたのは霞からなので、自業自得だ。
でも、まだ顔を赤く染めているので、頭を撫でて落ち着かせておく。
「ん…撫でたら万事解決じゃないんですよ、啓人、君」
そうは言いつつ、霞は座り直し、ソファにぺたんと座って頭を俺に向けてくる。
まだ知り合って1週間も経っていないが、この子の頭を撫でるのに慣れてきてしまった。…いや、他人の頭の撫で方を知っただけか。
霞の頭を撫でた時の、彼女の髪からほのかに流れてくるシャンプーの香り。くすぐったいのか、時々漏らす甘い声。これらはとても心臓に悪く、これからも絶対に慣れる気がしない。
「頭突き出して甘えてくるくせに」
「…それは…!…だって……だってぇ」
「なにさ」
「…だって、気持ちいいんだもん…」
一瞬、俺の心臓は止まった。いや、二瞬、三瞬、百瞬止まった。
いやいや、時すら止まった。
美少女から出るあざとい口調はこんなにも破壊力があるのか。
ましてや、霞はいつも敬語だからさらに破壊力マシマシだ。
霞は恥ずかしくて俯く。俺は彼女の可愛さに悶絶して俯く。しかし俺の手は霞の頭に乗っているというなんとも奇妙な状態が出来上がった。
「…お前らさぁほんとに付き合ってないの…?」
静寂を破ったのは、いつの間にかリビングに帰ってきていた悠真だった。俺と霞は同時に顔を上げ、それから顔を見合わせる。どちらも、顔が真っ赤だ。
「悠真…!お前いつから…」
「啓人が滝川さんの頭なでなでしてたところから」
「わ、割と結構な時間いたんですね…」
「あぁ…ほんとは声をかけようと思ったんだけどな。でもいい雰囲気だったからやめた」
「「……」」
霞を直視できない。
よく考えてみれば、第三者から見たらさっき2人でやっていたことは恋人同士のような触れ合いだったのだろう。
「…啓人君のせいです。気持ちいいなでなでするからです」
「…いや霞のせいだ。急にあざといこと言うから」
「あ、あれは…!…ほんとのことだもん…」
「…っ!」
「名前呼び、ねぇ」
へんちくりんな言い合いをしていたら、またひとつからかいの燃料を投下してしまったみたいだ。
俺と霞はまだまだ恥ずかしさが残っているが、悠真はその真逆で、思う存分からかってやろうと言わんばかりにニヤニヤしている。
会話のペースは、完全に悠真に掴まれてしまった。
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