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あの日の僕へ  作者: Isel
9/13

第九話 暇

時は8月。夏真っ盛りの中、学生連中は夏休みを満喫する。我らが主人公宮上も、皐月と共にどこかへと出掛ける……なんて事は全然無く、彼は暇を持て余していた。

「暇だ…」

お忘れかもしれないが、宮上達は高3なので今年が大学受験だ。あと約半年で死ぬ宮上以外は、夏期講習やら塾やらで忙しいのである。

「散歩でも行くか」

宮上はワイヤレスのイヤホンを装着し、炎天下の街へ繰り出した。

(暑……)

宮上が好きなテクノ系の音楽を聴きながら、彼は当てもなく街中をぶらつく。

やがて宮上は、付近の国道に架かっている歩道橋にやってきた。特に理由は無いが、彼は歩道橋が好きなのである。そんな時…

(お…)

自分の真下を走り行く車をぼんやりと眺めていた宮上の右側から、男女のカップルが歩いて来た。イヤホンをしている故、当然彼らが何を言ってるのかは分からなかった。だが背後を通った一瞬、こんな言葉が聞こえてきた。

「…くんとは死ぬまで一緒に居たいな…」

仲の良いカップルなのだろう。宮上はその程度にしか思わなかったが、胸の奥に何か引っかかる物を感じた。

その時、周囲に鐘の音が鳴り響いた。

「…昼か」

宮上は一旦家に帰り、カップ麺の為にお湯を沸かし始めた。

「たまにはテレビ見るか」

普段全く使っていないテレビの電源を入れ、お湯が沸くまでの時間を潰す。

「…次のニュースです。先週から始まった東南アジアでの戦争が激化し…」

たまたま選んだチャンネルでは、昨今話題となっている戦争のニュースが流れていた。

(戦争か。何で起こるのかは知らねぇけど…大方何かの奪い合いなんだろうな)

そんな普遍的な感想を抱いた時、宮上の中にある疑問が沸く。

(……もしこの世界が滅ぶって事が起こっても…コイツらは戦争を続けるのか?人類だったり星だったりの大規模な危機が迫ってきたとしたら…人の命を犠牲にしてまで培った武力や金は役に立つのか?)

そんな訳の分からない疑問とほぼ同時にお湯も沸いた。それをカップの中に注ぎ、再び待つ。

(…まぁ良い。どうせ世界が滅ぶより先に俺が死ぬしな)

また、宮上の中に何かの引っかかりが生まれた。

その引っかかりの正体を、宮上は何となく分かっていた。

昼食を終えた宮上は、冷房の効いた部屋でゲームをしていた。同級生が見たら憤慨しそうなものである。

「…やっぱモ◯ハン神ゲーだな」

自分が好きなゲームを褒め称えると、宮上はつけっぱなしにしていたテレビに目を向ける。そこでは、まださっきと同じニュース番組がやっていた。

「…という宗教団体が…」

そもそもニュースを見ている訳ではない宮上の耳には、その程度の情報しか聞こえてこなかった。しかし、宮上はふとこんな事を思った。

(神か……いや宗教全部が神を信仰してる訳じゃねぇだろうけど…もし神が居るんなら、俺の事嫌いなんだろうな)

先程から宮上の中にある『引っかかり』とは、正に自分の寿命の事だ。身体に不調が無い故に自覚しにくいが、彼の身体は着実に死へと向かっているのである。

「…だから何だ。命があるならいつか死ぬ。それが…俺の場合約半年後ってだけだ」

自分に言い聞かせるように呟くと、宮上は再びゲームを始めた。

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