第八話 打ち上げ、そして夏休みへ
段々皐月が大人しくなっていっている
7月の中旬、クラス内はある話題で盛り上がっていた。それは俗に言う『打ち上げ』の話である。終業式の日に、体育祭と1学期の打ち上げを同時にやってしまおうという話だった。
そして、打ち上げの当日。宮上の家に皐月が訪ねて来た。
「打ち上げ行く?」
「行かねぇ」
「なんで?」
「ゲームやりたい」
「焼き肉だよ?」
「俺肉嫌いなんだよ」
「そっかぁ」
「お前は行かねぇのか」
「遠いから…」
妙にテンポの良い会話をする2人だったが、ここで皐月がとある案を思いつく。
「あ、じゃあいっそミヤミヤの家でやろうよ!」
「ここアパートなんだが」
「私と2人でだよ!」
(年頃の男女がか…)
宮上はしばらく考え込んでいたが、やがて答えを決める。
「…まぁいいか」
こうして、2人は食材の買い出しへと向かった。
「そういやお前って何が好物なんだ」
道中、宮上は皐月に聞く。いつの間にやら、宮上は皐月に対して徐々に心を開いていっているようだった。
「うーん…大体全部好きだなぁ…あ、でも強いて言うならチョコ菓子とか好きかな」
「ここまで想像通りの答えが返って来るとは思わなかった」
そんな他愛もない会話をしながら2人は最寄りのスーパーまで向かう。
「飲み物とかも要るよな」
「当然」
そう答える皐月のカゴをよく見ると、大量の駄菓子が入っていた。某十数円の棒菓子や小さいドーナツ、ゼリービーンズなどの多種多様な菓子だった。
「なぁ…それ本当に全部食べる気か?」
「当たり前じゃん」
「太るぞ」
「うっさい!」
結局2人は2Lの炭酸飲料2本と先程の多様な菓子、それと宮上が好む酒のつまみ的な物を買った。
「ミヤミヤって好物がおじさんみたい…」
「何だよ。カルパスとかピーナッツとか美味いだろ」
「なんかお酒と一緒に食べる物多くない?」
その言葉の後に、皐月は宮上の顔をじっと見つめ出した。不思議なことに、宮上はすぐに皐月の考えている事が分かった。
「…酒は飲んでねぇぞ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「その顔が物語ってんだよ」
そんなこんなで2人は宮上の家に戻り、2人だけの打ち上げを開始した。
「じゃあ改めて…体育祭と1学期、お疲れ様でした!」
「いぇーい」
「棒読み過ぎない?」
その後、2人はジュースを飲んだり駄菓子を食べたりしながらレースゲームに興じていた。
「ねぇ!体当たりしてコースから落として来るのズルいって!」
「一生言ってろ!勝ちゃあ良いんだよ!」
試合は白熱しているようだった。
「また負けた…」
「クラスの集まりよりゲームを優先する人間舐めんな」
その時、皐月は宮上の手元を見ながら不思議そうな顔をしてこう言った。
「ねぇミヤミヤ…なんでコントローラーが無事なの?」
「はぁ?」
「だってこの前の体育祭の日…なんかすっごい力強くなってたじゃん。あれのせいで今うちのクラスの人たちのミヤミヤに対する印象『怪力キャラ』になってるんだよ?」
「何それ知らない」
「だから最近力仕事任されるのが多くなってたんだよ。多分」
「勘弁してくれ…なんか体育祭終わってから腕力元に戻ったんだよな」
「へぇ…不思議~」
「火事場の馬鹿力ってことで俺は納得してる」
「まぁ深く考えない方がいいね。それよりリベンジさせてよ!」
「12敗して尚挑んでくんのか…」
そんな2人の、夏の一幕だった。




