表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の僕へ  作者: Isel
7/13

第七話 体育祭(後編)

あの種目決めの日から1週間、ついに体育祭本番がやってきた。各自、自分の椅子を教室から校庭に持ち出して、指定された場所に観客席のようなものを作る。宮上のクラスの場所では、クラスメイトの2人が隅でヒソヒソとこんなことを話していた。

「来たんだ…ミヤミヤ君」

「ミヤミヤ君イベントとか興味なさそうなのに…」

その話をしている者達は、決して宮上に対する悪意がある訳ではなかった。勿論それは宮上も分かっていたが、その事実が宮上の中にとある感情を湧かせた。

「おはよ、ミヤミヤ。どうしたの?そんな複雑そうな顔して」

「…俺って祭り事とか興味無さそうか?」

「うん」

「即答かよ」

宮上は意外と他人の印象を気にするタイプだった。

しばらくして開会式が始まり、やがて最初の種目である借り物競走が始まった。自分の順番を待っている宮上に、1つ後ろのクラスメイトが助言する。

「頑張ってねミヤミヤ君。うちの学校の借り物競走はお題が少し変わってるから」

「お前も俺の事それで呼ぶのか…」

誰かさんがクラス中に広めたあだ名はさておき、宮上は後半の言葉が気になっていた。

「お題が変わってるってどういう事だ?」

「それはやってからのお楽しみかな」

そうこうしているうちに、宮上の番がやってきた。

(この箱からお題が書かれた紙を引くんだな)

宮上は箱の中から紙を引いた。

(まぁ『変わってる』って言っても、どうせ『三角コーン』だとかその程度だろ)

宮上が綺麗に折り畳まれた紙を開いた瞬間、その余裕は消え去った。固まっている宮上を見かねて、近くにいた生徒が助言する。

「友達と相談するのもありだよ」

「あ、ああ…」

宮上は言葉の通り、皐月の元へと向かう。

「どしたの?ミヤミヤ」

「ああ…俺が疲れてるのかもしれねぇから、このお題読んでみてくれねぇか」

「いいよ。えっと…『Wi-Fiルーター』だね」

「は?」

「Wi-Fiルーター」

「教室の右上辺りにあるアレか?」

「教室の右上辺りにあるアレだね」

「俺らの教室3階だよな」

「いってらっしゃい」

「マジかよ…」

宮上が奇抜過ぎるお題に翻弄されたせいで、宮上達のクラスは6位中4位という結果になった。その次はリレーが行われたが、本当に何も起こらず宮上達は3位で終わった。

そして少し時は流れ…

「次は……綱引きか」

「私綱引き出ないから頑張ってね」

「ああ」

だが、ここでちょっとした事件が起こる。

校庭に長く横たわっている綱の中央辺りに立っている教師がピストルを鳴らし、綱引きが幕を開けた。その瞬間…

「うおっ…」

ちょっとした驚きを含んだ声が相手のクラスの集団から聞こえたかと思えば、相手クラスの全員が前方向に倒れていた。つまり、宮上のクラスの誰かが尋常ではない腕力で綱を引っ張ったのである。

(このクラスにこんな化け物がいんのか…)

なんて事を考えていた宮上は、ある事に気がついた。宮上より前に位置していたクラスメイトも、後ろ向きに倒れているのである。

(……ん?)

宮上がその事実を理解するより先に、歓声と共に宮上の周りに人が集まって来る。

「すごいじゃんミヤミヤ君!」

「意外に力強いんだねミヤミヤ君!」

「綱引きの優勝は貰ったな!頼んだぞミヤミヤ君!」

(えぇ…)

その歓声の中で宮上が困惑している理由はただ一つ。その尋常ではない腕力を自覚したのは今が初めてだったからだ。1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(何でだ……筋トレなんかしてねぇのに)

筋トレで辿り着ける境地ではないと思うが、その後も同じような勝ち方を続けて、無事に宮上のクラスは綱引きでの優勝を果たした。

そしてまた時は流れ…

「次は最後の種目、ローハイドを行います」

「シメは相場リレーだろ」

「文句言わないの!行った行った!」

そして詳しいルール説明などを終えて、最後の競技が開幕する。

だが、ここでもちょっとした事件が起こる。

「振り回しながら進まなきゃいけないんだな」

宮上は騎馬戦のような体形になった3人の上に乗り、紐が括り付けられたボールを振り回していた。やった事ある人なら分かると思うが、思っているより難しいのである。

「ミヤミヤ君!もう少し早めに回してくれ!痛い!」

「ああ悪い」

そして宮上が回す速度を早めた時…

「えっ」

妙に両手が軽くなった感覚を覚えた宮上が紐の先を見てみると、そこにボールは付いておらず、代わりに千切れた紐の先端部分が見えていた。

「おいおい!古くなってたんじゃないのか!?」

体育祭という事でテンションが上がっている生徒が叫ぶと、すぐに代わりのものが用意された。今度はどう見ても新品である。

「んじゃ気を取り直して…」

もう一度振り回し始める宮上だったが、2,3回回したところでまたボールが千切れて飛んでいった。

これにはクラスメイトも…

「何やってんだミヤミヤ君!」

「手加減しろミヤミヤ君!」

「ミヤミヤ君面白過ぎるだろ!」

色んな意味で大興奮(?)だった。結局最後にはなんと鉄製の鎖が用意され、それで最後まで行くことができたが、結果は5位だった。

そんなこんなで体育祭は終わり、結果発表、賞状授与などの儀式も終わり、生徒達は各々帰路に着いた。皆が思い思いの事を考え、口走りながら歩いている中、宮上はずっとあの時発現した怪力について考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ