第五話 勉強
6月中旬のある休日のこと。その日は雨が降っていた。学校の人々が期末テストの勉強に勤しむ中、寿命が1年を切っている宮上は悠々とPCゲームに興じていた。黙々とキーボードを打ち、マウスを動かしていた時、外に轟音が鳴り響く。
「…落雷か」
宮上は雷に驚くタイプではない。というかそもそも、今はヘッドホンをしていた。
「水飲むか」
ふと目を向けた時計は、10時を指していた。小腹が空いてきたが、まだ昼飯時ではない。そんな時、宮上の部屋のインターホンが鳴った。ちなみに宮上はアパートで暮らしている。
「誰だよこんな大嵐の日に…」
鍵を開けて、ドアを開くと…
「やっほ!遊びに来たよ!」
宮上は反射的にドアを閉めた。ドアの前にいたのは、宮上の唯一の友人である皐月だった。
「ちょっと!何で閉めるのさ!」
「悪い、条件反射で」
「もっと酷いよ!」
「てか何で俺の家知ってんだよ」
「この前尾行した!」
「警察に突き出すぞ」
いつも通りの会話をした後、宮上はドアを少しだけ開いたまま用件を聞く。
「で、何の用だ。この大雨の中」
「もうすぐ試験じゃん?勉強教えて!」
「話は終わりだ、失せろ」
即答してドアを閉めようとする宮上に、皐月は喰らいつく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!友達を助けると思って!」
「何が悲しくて休日にまでノートと向き合わなきゃいけねぇんだ!」
「勉強するのは私だよ!」
「教えんのは俺だろうが!」
口での説得は不可能だと考えた皐月は、予め用意していた秘策を取る。
「教えてくれたら…このカップ麺あげるよ!」
その言葉は、丁度腹が減り始めていた宮上に深く刺さった。
「…入れ」
「やった!」
こうして、皐月は何とか宮上に勉強を教わる事に成功した。
「お邪魔しま〜す」
何気に男子の部屋に初めて入った皐月の第一声は…
「…意外と綺麗」
だった。
「意外って何だ」
「ほら、男子の部屋ってもっと散らかってるイメージがあったから」
「全男子に謝れ」
そして、2人は机の上に勉強道具を広げて勉強を始めた。しばらく経った時、皐月がずっと気になっていた事を聞いた。
「ミヤミヤって1人暮らしなの?」
「ああ」
「やっぱり、靴一個しか無かったから」
「俺の親は2,3年前に死んだんだ。今は親戚に引き取られて、そこからの仕送りで生活してる」
「ふ〜ん」
「てか、俺を引き取った親戚って苗字が久世なんだよな。だから俺の名前は厳密には『久世 雅』って訳だ。どうせ1年で死ぬから戸籍とかはどうもしてねぇけど」
「…何が言いたいの?ミヤミヤ」
「そのあだ名をやめろって話だ」
「やだね」
「クソが」
またしばらく経った頃、皐月が溜息と共に言う。
「疲れた…ちょっと休憩しよ?」
「好きにしろ。俺はただ教えてるだけだからな」
すると、皐月は宮上の顔をじっと見つめ始めた。
「…何だよ」
「前から思ってたんだけどさ、一人称だけでも変えたら?『僕』とかにさ」
「はぁ?何でそんな…」
「だって、損してると思わない?休日なのにわざわざ勉強教えてくれたり、ミヤミヤって何だかんだ優しいのに…」
「それが何だよ」
「話し方のせいでミヤミヤが誤解されたりするのはやだなぁ…って」
「……気が向いたらな」
その時、2人のいる空間に空腹を示す音が鳴った。
「腹減ったのか?」
「ミヤミヤでしょ」
「お前だ」
「ミヤミヤ!」
微笑ましいやり取りをしながら、宮上はお湯を沸かす為にキッチンへと入っていった。その時の宮上の表情は、どこか楽しげで、優しい表情だった。




