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あの日の僕へ  作者: Isel
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第一話 転校生

こちらは私の作品である「星命」のどっかの話でチラッと出てきた「旧文明」に生きる1人の人間の日常(?)を描いた話です。主人公の境遇以外は普通の世界ですので、「星命」よりは読みやすいと思ってます。あとこっちは完全に不定期投稿かつ低頻度です。

「楽しみだなあ…」

ある4月の朝、東京のどこかにある「誠明高校」に通うとある女子生徒は、多少の高揚を覚えていた。理由は今日、転校生が来ると噂になっているからである。彼女の名は「篠月 皐月」絵に描いたように明るく、割と誰とでも仲良くなれる性格である。しばらくすると、担任の教師が教室に入ってきた。

「それでは、HRを始めます。もう知っている人もいると思いますが、今日からこの3年1組に、新しい仲間が加わります。それでは、入ってきてください」

教室の前の方のドアがゆっくり開くと、眠そうな目をした男子が入ってきた。

「自己紹介をお願いします」

「『宮上 雅』です。よろしく」

教室は暫しの沈黙に包まれた。その沈黙の後、担任が少し戸惑いながら口を開いた。

「えっと…それだけですか…?」

「はい。最低限の必要事項は伝えたので」

「もっと、こう…趣味とかないんですか?」

「ないです」

教室にはまた、短い沈黙が流れた。すると、担任が機転を効かせてこう訪ねた。

「で、では最後に皆に何か言っておきたいことはありますか?」

「特には…いや、1つありました」


「俺、来年の今頃にはもう死んでるんで。俺のことは覚えなくていいですよ」


教室がざわめいた。そして恐らくほぼ全員が「どういうことだよ」と思ったであろう。そんな空気の中だが、皐月は全く別のことを考えていた。

(あの子、多分面白いよね…!)

一体何を食って育ったらあの発言を聞いてそんな思考に至るのかは不明だが、皐月は既に宮上と友達になろうと意思を固めていた。そしてHRが終わり、休み時間となった。

「ねえねえ!」

皐月は真っ先に、教室の隅にある宮上の席に行って話しかけた。だが、返事が返ってくることは無かった。

「あれ?聞こえてる?」

それでも、返事は返ってこなかった。

「おーい」

やっぱり、返事は返ってこなかった。どこか某童話のような展開となったが、その間宮上が考えていることはただ1つだった。

(うるせえ…)

宮上は1人でいることを好むタイプなのである。

結局その日の皐月は、一日中宮上の席に通い続けた。帰りのHRが終わり、一部の生徒は部活動を始める時間帯となった。

「帰るのはっや…!」

号令がかかるや否や、宮上はとてつもない速度で荷物をまとめ、ドアを開けて帰っていった。皐月が廊下に出てみると、もう宮上の姿はなかった。

「そんな帰りたかったの…?」

ふと窓の外を見てみると、校門を通り過ぎる宮上の姿があった。

「マジで早いじゃん。今教室出たばっかでしょ…」

一日中無視されても尚諦めない皐月は、宮上を追いかけ始めた。

一方、当の宮上は…

(後ろに誰かいるな)

誰かに後をつけられていることに気づいていた。だが、それが誰かまではわからないようであった。

(それはさておき、今日のアレはなんだったんだ?友達なんて作りたくねえのに…はっきり言わなかった俺も俺だが…)

と、その時、

「やっっと追いついた!」

宮上の肩が一瞬驚いたように跳ねた。

「…」

「そんな迷惑そうな顔しないでよ〜」

「伝わったようで何よりだ。用があるなら早く言ってくれ。さっさと帰りたいんだ」

「用ってほどでもないけど…」

皐月の次の言葉を待たずに、宮上は言った。

「なら俺は帰る」

「だから待ってってば!」

「なんなんだよお前今朝からさぁ」

「あたしは、あんたと友達になりたいの」

「は?なんで?」

「なんでって…その…同じクラスだから?」

「理由はどうであれ、俺は友達なんて作るつもりはない」

「それこそなんで?」

「…いろいろあるんだよ」

「ふーん」

その言葉を最後に、会話は一旦途切れた。

しばらくしてから、宮上が問いかけた。

「…なんでついてくんの?」

「ダメ?」

「良いかダメかで聞かれたらダメだ」

「えー」

「『えー』じゃねぇよ。帰れ」

「一応あたしも家こっちなの」

「なんだよ…」

「ねえ、なんで友達作らないの?」

「だから色々あるって言ったろ」

「それじゃわかんないよ〜」

「わかんなくていい」

また、しばらく無言の時間が続いた。

「じゃ、こうしよう。お前が俺と友達になりたい『本当の』理由を教えてくれ。そうしたら教えてやるよ」

「え…だから、同じクラスだからなんとなくだって」

「なんとなくでここまでついてくるかよ。人のこと尾行してまでな」

皐月は、「バレてたんだ」みたいな顔をしてから、深呼吸をした。

「…あたしには、親友が居たんだ。同い年の女の子なんだけど、その子とあたしはすっごい気が合ってさ、一緒にどっか出かけたり、買い物に行ったりしたんだ」

宮上は、黙ってその話を聞いていた。

「その子…病気でさ。あたしと知り合った時にはもう、余命が1年もなかった。日に日に元気がなくなっていく友達を見るのは、辛かったよ」

「…」

「でも、その子は死ぬ時に、あたしにこういってくれたんだ」

「…」

「『楽しかった』って。その一言だけで、我慢してたのに、あたし泣き出しちゃってさ…後でその子の親から聞いたんだけど、あたしと出会う前は、家からほとんど出ないで、ご飯もろくに食べなかったらしいんだ」

「…うん。それで、その話と俺はどう関係するんだ?」

「だから、あんたがあと1年で死ぬって聞いた時に思ったんだ。『この人の残りの人生を、最高のものにしてあげたい』って」

「…へぇ」

「あ、あとは単純に『面白そう』って思ったからかな?」

「はぁ?」

「だって転校初日の自己紹介で名前しか言わないって…絶対面白いやつでしょ」

「お前の面白いの定義はどうなってんだよ」

皐月は小さく笑ってから、こう言った。

「とりあえず、あたしの理由は今言った通り。さ、今度はあんたの番だよ」

「…話すしかないか」

宮上が語り始めたのは、自分自身の過去であった。

私は転校したことがないので転校生の自己紹介が本当にあんな感じなのかは分かりません

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