きゆうの、さん
非常ボタンとか押したい
「何を言ってるんですか?」
大串の口調はいつも淡々としているが、今の発言は少し強く聞こえた。動揺からそう聞こえるのか、私には怒ってるようにも聞こえた。もし怒っているなら私は嬉しいと少し照れてしまった。
「自暴自棄で言ってるわけじゃないよ。私なりに考えがあっての事。」
大串はなににやついてるんですか?と訝しげにぼやく。
「その提案に乗るかはさておき、考えは聞きましょう。」
続けて大串は冷静に取り繕うように言った。
「ありがと。私、どうしてもみんなが死んだ後のボタンが気になって。で、思ったのが誰かが死んだら出てくるんじゃないかな?て。これは本当私の勘なんだけど。そんな気がして。何かヒントにならないかな?て。」
と私は自分の罪悪感からきている部分を言わずに考えを伝えた。
「駄目です。」
間髪入れずに大串は私の意見を否定した。
「もし、仮にそうであったとしてもリスキー過ぎます。前回は生き返りましたが、今回誰かが死んだ時に蘇る保証はありません。それと、僕の考えではこのイカれた場所は全員で協力しないと出られないと思います。なので、まりえさんの為というだけではなく、僕達全員の為にその提案は乗れません。必ず何かあるはずです。」
大串は捲し立てるように言い放つと、私に背中を向け入口の方へ探索しに戻る。私はごめん、変な事言ってと後ろ姿に謝った。大串は特に歩みを止める事はなかった。私は気まずさから大串と反対の木製のドアの方の探索をする事にした。さっきも手当たり次第に調べたが、壁や床に文字などもなく、手掛かりになるようなものもなかった。私は少し気が遠くなった。疲れもあり、一旦その場に座り込む。正面に見える開かないドアをボーッと見つめる。
そもそもなんでこんなところに、酷い目にあっているんだろう。急に今の状況への不安や恐怖がわたしを襲った。楽観的な自分の性格が功を奏して、今まで耐えれていた気がした。嫌な記憶が甦る。知り合ったばかりだけど、目の前でその人達が潰された記憶。吐きそうになる。気持ちがぐちゃぐちゃになり、目から涙が溢れる。私はそのまま泣く事にした。気持ちを落ち着かせる為に、みんなにバレないように俯きながら。
「よし!泣いてても仕方ない!手がかりを探さなきゃ!」
私は気持ちを切り替え、俯いた顔を上げた。目の前にあるドアの一部分が薄らと光っている。あれ?と注意深くみる。文字だ。確かに薄らといちと書いてある。そういえば私が今いる位置は、最初の扉を開けた時の場所と一緒のように思えた。もしかしたら、他のみんなも同じ様に並べば開くかもしれないと。
「みんなー!わかったか…
グシャッ!
みんなに声掛けると同時に私の視界は真っ黒になった。
…
僕は目の前の現状に頭が追い付いていなかった。
さっきの音はなんだ?
まりえさんはどこにいる?
床に広がってる赤い水はなんだ?
疑問系にする意味は特になかった。多分頭が追い付かなかったわけじゃない。何が起きたか瞬時に理解出来た事だ。ただ認めたくなかった。認めたくないから、目の前で起きた事を疑問にして、現実逃避をしたに過ぎなかった。拓雄と海月の様子を見る余裕は僕にはなかった。
〜♪
壁の方から不愉快な音楽が聞こえてくる。頭が痛くなる。僕はその不協和音な音を止めたかったからなのか、ただの好奇心かそれとも彼女がいない今を認めたくなかっただけなのか、壁に現れて不協和音を奏でる何も書いてないそのボタンを躊躇なく押した。
僕の視界は暗転した。