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1000字以内短編

雪山アウトライン

作者: 藤谷とう


 視界が白に染まる。

 狂暴な横殴りの雪がごうっと通りすぎた瞬間、周囲は奇妙なほど静かになった。


 膝まで雪に埋もれた僕は、ああそうだった、と頭の雪を払う。


 そうだ、祖父の山だ。

 毎年冬には雪が積もって、親戚の子供達の子守りで駆け回るのが年末年始の恒例だった。しかし、いつもはうるさいほどの子供達の声が聞こえない。

 回りを見渡し、離れた場所に誰かが立っている事に気づく。

 足を掴むような雪を振り払いながら近づけば、彼女は黄色い鮮やかなワンピースを着て佇んでいた。



「どうしたの?」


 僕の声に、彼女はすぐに振り返った。

 黒々とした丸い目が、戸惑ったように揺れる。


「……わからないの」


 彼女の軽やかなワンピースの裾がふわりと踊る。


「わからないけど、私ここにいるみたいなの」


 そう言って、彼女は白い指で雪の下を示した。


「この雪の下に」




 奇妙な夢だった。

 目覚めた僕はしばらくその余韻に呆然としていたが、祖父の家であることを思い出すと、しっかりと着込んで外に出た。一緒に遊びに行きたい、とまとわりついてくる子供らに、先に危なくないか見てくるだけだから待ってて、と言い、長靴を履き、スコップを持って山に入る。


 どうしてだろう。

 馬鹿馬鹿しい。


 そう思っているのに、山を登る足は止まらない。

 焦っている。同時に、どこか興奮している。

 まるで急かされるような衝動に駆り立てられながら、夢で見た山の場所まで、ひたすら。


 どうして「ここだ」と思ったのか、僕は新雪に突き立てたスコップをグッと踏み込んだ。

 掘った。

 そこに彼女がいると信じて疑わない僕は、白い息を吐きながら、大きな穴がぽっかりとできるまで、堀り続けたのだ。







 あの時の僕がどうしてそんなことをしたのか、二年経った今でもわからない。

 今でも時折夢を見る。

 彼女のことではない。

 鬼気迫ったように雪のなか堀り続ける僕自身を見ているのだ。

 結局女の死体などなく、僕はあの後風邪を拗らせて年始を迎えた。

 馬鹿だったなあ、と思う。


 今年の帰郷は夏。

 子供らはあまりの暑さに引きこもり、大人たちは山の相続を話し合うために引きこもっている。そこから逃げるため、僕は子供らのアイスを買いに出ていた。黒いネクタイをほどいてポケットに突っ込む。


 ああ、暑い。


 シャツの首元を緩めた時、視界の端に見覚えのある何かが揺れた。



 黄色いワンピース。

 


 彼女だ。



 僕は唐突に理解した。

 黒いネクタイを取り出して、彼女を追いかける。


 懐かしい高揚感が僕を動かしている。







 

読んでくださりありがとうございます。

なろうラジオ大賞参加の短編です。

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