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オープン・ユア・ハート  作者: 玉屋ボールショップ
起『一度滅び、また再生した地球での出来事』
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Chapter1-4『ヒーロウズ』

 始まりは本当に些細な事であった。


 アメストリア連邦国とカナディア共和国との間に起きた武力衝突。通称『白昼(はくちゅう)戦争(せんそう)』。

 終わる気配のない戦争に屈強な兵士も疲労(ひろう)困憊(こんぱい)して、戦地に赴く姿はまるで白昼夢を見ている姿だったところからその名はついた。

 当初は小競り合い程度だった白昼戦争もやがては大規模な争いになった。

 死傷者は約二万人。戦争の残した傷跡は深く、戦後も心的外傷(PTSD)に悩まされる者が後を絶たなかった。

 戦地であるカナディア共和国は戦争に蹂躙され、美しい天国のような街は地獄へと変わり果てた。


 戦後、アメストリアの国内で暴動が巻き起こった。戦争による経済的影響や家族や土地を失った者による蜂起だ。

 暴徒たちは武力ネットワーク集団……『HEROS(ヒーロウズ)』と呼ばれている。

 彼らは旧世界の言語『イングリッシュ』を使い、旧式の武器で政府の重役や議員に襲いかかった。


 得体の知れない言葉を使い、カルトのように古い銃火器で襲い来る姿は暴徒たちを取り締まる警察隊や義兵を畏怖させた。



 今宵、アメストリア連邦国首都『ブリジアン』の交差点、ビルに埋め込まれたテレビにピエロの仮面を被った黒装衣の人物たちが映った。ハッキングで行うヒーロウズの電波ジャックだ。


〈我々はいかなる制裁にも屈しない。次のヒーローは貴方だ。ヒーロウズは常に皆とともに……〉





「悪趣味な格好だな。まるでカルトだぜ」

 巨大ディスプレイを眺めながらライスが吐き捨てるように言う。

「でもあいつらが僕らの敵なわけだからな。油断は大敵だよ」

 ハーヴがそれに返答した。


 夜も更けたところ、ライスとの呑みに付き合わされたハーヴは突然『ボス』からの呼び出しを受け、待ち合わせ場所であるビジター・ロジスティクスの本社ビルの屋上で語らっていた。深くアルコールを吸収してしまった体には屋上から見える向かいのビルの液晶ディスプレイの映像がぼやけて見えた。


「しかし、遅いな。ウチのボスは。時間にルーズなのか?」

 ライスが煙草を取り出しつつ文句を垂れた。

「それだけ多忙って事だろう。今や『ビジター・ガーディアン』は急速拡大中の組織だ」

 ハーヴがそう言って煙草の箱をライスからひったくった。

「何すんだよ?」ライスが抗議の声をあげる。

「ボスがすぐそこにいるってのに、くわえ煙草姿で挨拶するつもりか?」


 ライスが背後を見る。女性がそこにはいた。

 夜闇のおかげで顔の人物像は見えない。


「ボス……」


「ハーヴ・デイ・ライト。ライス・リーヴス。ようこそおいでくださいました」

ボスが両手を広げ、一礼。

 その仕草だけで頭が仕事モードになる。どういうわけか彼女の声は穏やかながらも毅然とした響きがあり、自然に背筋が伸びていくような感じにさせてくれた。ライスもそうであろう、踵を揃えボスに向き合った。


「いえ、とんでもない!」ライスが慌てて言う。


「そんなにかしこまらなくてもいいんですよ? ビジターは軍とは違うのですから」

 ボスがくすくす笑った。


「先刻ヒーロウズから声明がありました」

 ボスが一枚のコピー用紙を取り出した。


「『我々は和平的解決を望む。もはや我々に戦意はない。契約は南の埠頭にあるX倉庫で行おう。大使を用意して待て』」

「ちょっと待てよ」口を挟んだのはライスだ。


「あれだけ街を荒らすだけ荒らして、今度は『和平的解決を目指す』? 話がうますぎるんじゃないですか?」

 ライスの言う事も最もだが、ハーヴが違和感を感じたのはそこではない。


「様子がおかしいです。今でもヒーロウズの暴徒たちが荒れ狂っているのに、そんな声明を出してくるなんて」

 ハーヴはそう言って頭上のディスプレイを指差す。


 ボスはハーヴとライスの双方を見つつ言った。

「あくまで私見だけど、ヒーロウズは分裂していると思われるわ」


「分裂? 内部分裂?」ハーヴが聞く。


「そう。過激派と保守派にね」

 ボスは続ける。

「保守派は今のヒーロウズの暴政に辟易して、声明を出したと思われる。だから同じ組織でも言ってることとやっていることが矛盾している。いずれにせよ、対抗意識がないモノを味方につけることだって可能よ。ハーヴ、ライス、あなた達にお願いしたいのはこの契約の場所の偵察……それと大使の護衛」


「わかりました」二人が返事をする。


「装備の確認や詳細は後日言うわ」


 ボスはそう言って勝手口に歩いて行った。


「よろしく、頼むわね?」


 ボスが勝手口の奥に姿を消してからハーヴとライスは顔を見合わせた。


「ハーヴ」ライスがつぶやく。

「言わんとしてることはわかる。『嫌な予感』だ」


 二人の頭上にはヒーロウズの電波ジャックが再度流れていた。

〈我々はいかなる制裁にも屈しない。次のヒーローは貴方だ。ヒーロウズは常に皆とともに……〉


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