普通の女子高生
私の名前はましろ!十七歳、女子高生です。一見普通の女子高生なんだけど、なんと魔法少女なんです!でもピンク色の長髪ツインテールという如何にも魔法少女という見た目だから、全然普通の女子高生に見えないし、意外性もないとよく人から言われるけどね。まあ、そんな小さいことは気にしない!気にしない!
魔法少女の役目は街の平和を守ることで、毎日みんなの幸せのために頑張っているよ!今日は魔法少女の活動で、同じクラスの不登校生徒の家に学校へ来るよう説得しに来ました!
てか、これは本来教師がやる仕事だし、魔法少女の私がやる仕事じゃなくね?ぶっちゃけオタク君のために働くのめんどくさい~。嫌なら無理に来なくていいんじゃない笑。
て、ウソウソ!今日もお仕事頑張りまーすっ!
軽い冗談を挟みつつ、私はほどほどに急いで不登校生徒の家へ向かった。
数十分ほどで不登校の子の家に着いた。正確には家というよりホテルなんだけどね。
「すみませんー!私は同じクラスの魔法少女のましろです!須藤さんいますか?」
部屋のドアをノックしたが、一向に反応は帰ってこない。
「おーい、クラスのみんなも須藤さんに会いたがってるし、学校楽しいから一度でいいから来なよ!てか辛くても来い」
しかしそれでも須藤さんは沈黙を貫く。しょうがない奥の手を使うか。
私は懐から取り出した魔法のステッキをドアの隙間に挟み込み、ステッキに思い切り力を入れてドアをこじ開けた。
「なに敵襲か!?」
ドアを開けた瞬間、少女の声と共に銃声が鳴り響く。
「わあ!?死ぬ死ぬ!私は危ない人じゃないよ!」
「ドアを無理やりこじ開ける人なんて危ない人に決まってるじゃないですか!」
「それはあなたがいくら経っても応答しないからじゃない!」
「だとしても他のやり方がありましたよね!」
だってめんどくさかったんだもん。
このままじゃ蜂の巣になりそうなので、私は持っていた魔法のステッキを少女に投げつけて反撃する。
「おりゃ!」
投げられた魔法のステッキが少女の手にあたり、銃が地面に落ちる。
「いった~ッ!」
「いやー、やっぱり魔法は便利だね」
「全く魔法要素なかったですけど。ゴリゴリの物理攻撃でしたけど」
少女は手をさすりながらぼやく。私は少女のツッコミを無視して気になることを質問する。
「えっと、須藤さん、だよね?私は同じクラスのましろ!魔法少女をやっているの!」
少女が私と同じ制服を着ていることから件の不登校の子だと予想し、手短に自己紹介をする。しかし少女は興味なさそうな顔をしている。
「あ、そう。どうでもいいから帰ってくれませんか?」
「もう素っ気ないなー。ところでいきなり銃ぶっぱなしてきたけど、須藤さんってテロリストかなにか?」
そう言うと少女は少しムッとなって私を睨みつけてくる。あれなんかまずいこと言ったかな……。
「私はテロリストのような治安を乱す犯罪者ではありません。この国の平和を守るスパイです。あと須藤は偽名です」
少女は真剣な眼差しでそう言った。
「あはははっ!女子高生のスパイなんているわけないよ!アニメの観すぎだって」
「魔法少女を名乗る人に言われたくないですよ。そもそも高校生ってもう魔法少女名乗っていい年齢じゃないですよね」
「少子高齢化が進んでいるせいで最近は魔法少女の定年退職も延長しているのよ!てか少女の心を忘れなければずっと魔法少女なの!」
「早く大人になってください」
少女は呆れた顔でそう呟く。私の年齢は一端置いといて、須藤という名が偽名ならいったい彼女の本名はなんというのだろう。
「じゃあ、あなた本当はなんという名前なの?」
「スパイが本当の名前を他人に教えるわけないじゃないですか。あなた馬鹿ですか?」
「じゃあ、スパイだからすーちゃんって呼ぶね。これからよろしくすーちゃん!私のことは同学年だけどましろ先輩って呼んでもいいよ!」
「あの、ちゃんと聞いてますか?てかその呼び方恥ずかしいからやめてください」
すーちゃんは不機嫌そうな顔で訂正を求めるが、嫌がると余計にやりたくなるよね。
「じゃあ自己紹介が終わったし早く学校へ行こう、すーちゃん!」
「聞けよアホ」
「ところですーちゃんってよく見るととっても可愛いね!てかLINEやってる?」
「はー。もう勝手にしてください、ましろさん」
すーちゃんは諦めたように深くため息をついた。
ごめんごめん。すーちゃんが可愛いからどうしてもいじりたくなっちゃうの。
実際、すーちゃんの容姿は良い。端正な顔に綺麗な黒髪のボブ。背はやや私より低く、胸は可愛いらしいサイズで少し幼さを感じさせる。そして敬語で話すとこがまた後輩っぽくて可愛い。というか本当に私の後輩にしよう。
「とにかくすーちゃん早く学校へ行こう!そして私の後輩になろう!」
「学校には行きませんし、あなたの後輩にもなりません」
すーちゃんは断固として拒否するが、そんなことお構いなしに連れ出してしまおう。
「いいーから行こうよ。先生が教えてくれた住所にいないせいで探すの苦労したんだよ。ここまでしたのに苦労が無駄になる嫌なんだけど」
「知りませんよ。ていうか仕事で寝床を転々としているのに何で居場所がわかったんですか?」
「うーん、とね。魔法の力だよ!」
私はすーちゃんの追求をなんとか笑顔で誤魔化す。本当は情報屋に教えてもらったけどね。
「いまいち信じられないですけど、確かに魔法でも使わないと私の居場所を特定できたりしませんよね」
「そう、やっと私が魔法少女ということを信じてくれたか。というわけで学校へ行こう!」
「いやだから行きませんよ」
すーちゃんは首を横に振る。どうやら死んでも学校へ行きたくないらしい。
「…どうしてそんなに学校へ行きたくないの?」
「単純にやる仕事があるから行く暇がないってだけですよ。…まあ、あと今まで学校休みがちで友達いなかったからってのも少しあります」
照れくさそうに目をそらしながら理由を説明するすーちゃんを見て、私はなんとも言えない愛らしさを感じた。あまりの可愛さにまたいじりたくなってきてしまう。
「少しというかそれが全てじゃん!もう可愛いなー。友達いないなら私が友達になってあげるよ」
「ち、ちがいますよ!別に友達にならなくて結構です!」
「まあ、そんなこと言わずにとりあえず行くだけ行ってみない。今回は私もいるんだし」
私は満面の笑みですーちゃんを誘う。
「わかりました…。学校とか興味ないわけじゃないですし、途中でやめるかもしれませんけど行きます」
すーちゃんは苦笑しながらも学校へ行くことを承諾する。
「うん!じゃあ、今すぐ出発っ~」
「え、出る前に準備したいから待って―」
私はすーちゃんの手を握り、そのまま無理やり連れ出した。
時刻は朝の通勤ラッシュの時間帯。駅前は人でごった返していた。
隣にいるすーちゃんは息を切らして項垂れていた。
「もう…待ってくださいよ…。走るの速すぎ…」
「だって早く行かないと遅刻するよ!」
「別に遅刻くらいしてもいいじゃないですか。うわ、人多すぎ。やっぱり学校行くのやめようかな」
「じゃあ学校まで走って行く?てか電車使うより走ったほうが早いよね!」
「嫌です!どこからそんなに体力湧いてくるんですか」
すーちゃんは全力で走るのを否定する。そんなに体力低くて本当にスパイなのだろうか。
駅の構内に入って改札を抜ける。学校方面の電車は人がぎゅうぎゅう詰めになっており、とても割って入る気にならない。
「うわー…。あ、こっちの電車は空いてるのでこっち乗りましょう」
すーちゃんは比較的空いてる、学校とは真反対の方向へ行く電車に飛び乗った。
「ちょっと!こっちの電車じゃないって!」
私がすーちゃんを追って電車に乗った直後、扉が閉まった。
「あ、もう出発したしどうすんのよ」
「まあ、いいじゃないですか。今日は部屋から出ただけでも大きな進歩ですよ」
「ニートみたいなこと言うな」
「それに学校に行くのもいいですけど、学校サボって遊んだりするのも青春っぽくていいじゃないですか!この前読んだマンガでも女子高生の主人公たちがやってたんですよ」
すーちゃんはきらきらした顔で言う。そうか。おそらくすーちゃんは学校に行きたいというより、正確には普通の女子高生がするような青春をしたいのだろう。
「t…じゃあ、今日は学校行くのやめて街で遊ぼうか。私が色々案内するよ!」
「本当ですか!?じゃあお言葉に甘えて…」
「その代わり明日は学校行こうね。とりあえず明日一日だけでもいいからさ」
「わかりました…。必ず行きます…多分」
無理やり連れて行くより、こういうやり方の方が効率よく目的を達成できるし、本人のためにもなるだろう。
電車の内を見渡すと本来乗るはずだった電車よりは全然空いているが、こちらもそこそこのの乗車率で座るとこはなさそうだ。
立つの嫌だなと考えていると、ふと優先席に座っている人物が目に入った。すぐ前に老人が立っているのにもかかわらず、チャラい頭悪そうな若者が堂々と優先席に座っているのだ。
「そこのあなた、おじいさんに席をゆずりなさい」
いち早くそのことに気が付いたすーちゃんが若者に注意した。
「あ。ちっ、うるせーな。クソジジイなんて健康のために立ってればいいんだよ」
「もう一度言います。席をゆずりなさい」
「うるせーバーカー」
「最終警告です。席をゆずりなさい」
すーちゃんは若者の眉間に銃口を突き付けて最終警告を告げる。
「ひっ!!わ、わかった譲るから!」
すーちゃんの恐ろしいほど冷たい顔にビビった若者は銃を本物だと思い、あっさりと席を譲り退散した。
「さあ、おじいさん座ってください」
「い、いや、そこまでして座りたくないですから…。まだまだ元気ですのでー!」
おじいさんはすーちゃんの恐ろしさにドン引きして足早にその場から立ち去った。
「少しやりすぎちゃったかな」
「いや、少しじゃないから!」
顎に手をやって思案しているすーちゃんに私は鋭くツッコミを入れる。
「スパイってすーちゃんみたいにみんなすぐ銃を構えるの!?」
「いや、私だけですよ。ああいうクズを見るとついカッとなってしまうんです」
「冷静さを保てないってスパイ失格でしょ…」
私はついつい苦笑する。すーちゃんはつくづくスパイらしくないスパイだ。さらに言うと服装もスパイらしくない。
「そういえば、私がホテル来た時から高校の制服着てたよね。なんで学校行く気なかったのに制服着てたの?」
「制服着てたほうがスパイだと思われにくくて都合がいいんです」
「あんたはリコ○スか。もしかして本当にアニメの影響を強く受けてる痛いコスプレ女なの?」
私の問いかけにすーちゃんは眉をひそめて反論する。
「だかられっきとした日本のスパイですから!制服は周囲に溶け込みやすいって理由以外に他意はないです」
「本当に~?本当にすーちゃんはそれだけの理由でわざわざ制服を着てるのかな~」
私は至近距離からすーちゃんの目をジッと見つめる
「うッ。ま、まあ…。うちの学校の制服がとても可愛いから着てるって理由も少しだけあります…」
すーちゃんは恥ずかしそうに小声で告白する。その姿がまたチョー可愛い。
「すーちゃん、か・わ・い・いーッ!何でこの子こんなに可愛いの!やっぱり後輩になって♡」
私はすーちゃんのあまりの可愛さに我慢できずに抱きつく。
「だからましろさんの後輩にはなりませんよ!てか放してください!」
すーちゃんは強引に私を引き離す。
「あーん。いいじゃん女の子同士なんだし」
「良くないです。ていうか私だけ自分の情報教えるのは不公平です。ましろさんについての情報も教えてください。主に魔法少女のことについて」
「うん、全然いいよー」
私はすーちゃんの要求を心よく引き受ける。
「まず魔法少女の活動についてざっくり説明しようかな。私たち魔法少女の仕事はみんなを悪者から守ること。例えばこの前の通り魔事件も実は私が解決したんだ!」
「あっ…。あの事件はましろさんが…」
「そうだよ~ん!いやー我ながら見事の仕事ぶりだったね。まあ、そんな感じに魔法少女は警察とかが解決できないような事件を秘密裏に防ぐのが主な仕事だよ」
私は自分の仕事ぶりを自画自賛して気持ちよくなっている。一方、すーちゃんは何故か肩を震わせていた。
「あなたの仕業だったのですねッ!」
すーちゃんは興奮した様子で私を指差す。
「え?」
「犯人の取り押さえ方が酷すぎるんですよ!過剰に犯人に暴力振るったせいで、そいつまだ入院してるんですからね!」
「だって私のパトロール中の楽しいショッピングを邪魔してきてムカついたんだもん…」
結局その日、買いたかった物買えなかったし。
「だってじゃないですしパトロールサボってるんじゃねえ!そもそも危ないから警察を頼ってください。こういうのは国家機関の役目なんですから」
「でも私がやった方が確実に事件解決できたし。…まあ、いいじゃん!最終的には解決できたんだからさ!」
「良くないです!もしかして他の犯人が謎の人物にボコされて解決した事件も魔法少女の仕業じゃ……」
「さ、さあ…」
私はあさっての方向を向いて知らんぷりを決め込む。
「とにかく、一般市民が余計なことしないでください。それともう少し魔法少女のことについて教えてください」
「はいはい。じゃあ私たち魔法少女が属している組織について説明しよう」
「組織?魔法少女って誰かに雇われているのですか?」
「そうだよ。私に魔法少女にならないかと勧誘した妖精?みたいな謎の生物が経営している会社に雇われているの」
「ヘえ…そうなのですか」
すーちゃんは興味深そうに頷く。
「で、またこの会社がブラックでさあ。働いた報酬に魔力の詰まった魔力石を給料として貰えるんだけど、税金やらなんやらで差し引かれて手取りちょー少ないんだよね。凄く危ない重労働してるのに」
「魔力にも税金かかるんですね…」
本当に世知辛い世の中だ。
「報酬として貰った魔力は色んな使い方ができるんだけど、私は主に美容に使ってるんだ~。魔力で瘦せれて、肌もすべすべになって綺麗になれるんだよ。あ、よく見たらすーちゃんの肌もすべすべだ~!
」
私はすーちゃんの頬に自分の顔をくっつけてすりすりする。
「やめてください射殺しますよ。あ、だから魔法使わずに物理攻撃ばかりするんですね」
「そうそう。そうやってなるべく魔力温存して使いたいことに回してるの」
そうでもしないとうちの会社の安月給ではとてもやり繰りできない。
「自分の私利私欲のために全力を出さないとは、ましろさんは魔法少女らしくない魔法少女ですね。私の魔法少女のイメージは、みんなのために精一杯がんばる正義の味方なんですが」
「い、いいじゃん別に!魔法使わなくても事件解決出来てるんだから!てか赤の他人ために大切な魔力を簡単に消費したくねえし」
「今さらっと本音言いましたね!」
あ、やばっ…。なんとか話題逸らして誤魔化すしかないな…。
「と、というか、すーちゃんこそスパイらしくないスパイじゃん!人前ですぐ銃出すような目立つことするし!」
「はあ?そんなことないし、ましろさんに言われたくないです!それに私は仕事で手を抜きません!」
私とすーちゃんは数秒間にらみ合う。しかし目的地である駅に到着したことで、膠着状態は終わることとなる。
「…ここで降りるからこの話しは一端終わりにしよう」
「…わかりました。私こそ取り乱してすみません」
「いや、こっちこそごめんね」
私たちは息を吐いて落ち着く。せっかく今から遊ぶというのに雰囲気が悪いと最悪だ。
電車を降りて駅から出る。七月に入ったばかりだが外は暑く、日差しもキツい。私は早速日傘を出す。
「すーちゃん日傘持ってる?持ってないなら一緒に入ろう!」
「いや、私は別にいいです」
すーちゃんはまたくっつかれるのを警戒してか、傘に入るのを拒否する。しょうがない。秘密兵器を使おう。
「じゃーん!ミニ扇風機ー!これもとっても涼しいよ」
「それ女子高生がよく使ってるやつ…。しょうがないですね。ちょっとだけですよ」
ミニ扇風機に釣られたすーちゃんは簡単に傘に入ってくる。
「えへへ。すーちゃんと相合傘~」
「ちょっと、近いです…」
すーちゃんは貸してもらったミニ扇風機片手に私を押しのけようとするが、片手なので力負けすることもなく、そのまま密着した状態で歩く。
少し歩いてると駅前のデパートの近くに警察がたくさんいるのが見える。おそらく一週間ほど前にあったあの事件の現場だろう。
「あれって…あの事件の現場だよね」
「…ええ、この前テロ集団が起こした爆破テロの場所ですね」
すーちゃんは険しい顔で爆破によって半壊したデパートを見る。
「犠牲者のために絶対犯人たちを捕まえてやります」
「うん、そうだね。でも今日は遊ぶ日だから一度そのことは忘れよう」
「…はい、そうですね」
すーちゃんは微笑し頷いた。先ほどのすーちゃんの怖い顔よりそういう顔の方が可愛くて好きだ。
その後服を買いに行った。すーちゃんはあまり私服を持ってないそうで、私が服を選んであげた。
白のレースに水色のロングスカートの清楚系にコーディネートした。それらの服を着るとすーちゃんは完璧に育ちのいいお嬢様に変身していた。
もう可愛いすぎて、魔法の力ですーちゃんを若返らせて本当に私の後輩にしようとしたが、あえなく阻止された。そんなこともあったがすーちゃんは私の選んだ服にとても満足していた。
私は胸を強調するキャミソールにカーディガンを羽織り、下はショートのデニムを履いた。元々大きい私の胸がさらに強調されれば、大人っぽく見えること間違いなしで、すーちゃんと並んで一緒に歩けば後輩と先輩のコンビにしか見えないはずだ。
服屋の次はカラオケ店に行くことになった。
「すーちゃん買った服着なくてよかったの?」
「いいんです。制服着たまま遊ぶ方が学校サボってる感出るので」
そういえば学校サボって遊ぶのに憧れてたと言ってな。まあ、補導されるリスクもあるが本人の好きなようにさせるの一番だ。それに私たち最強コンビなら警察なんて目じゃないしね!
数分後、カラオケ店に到着した。受付で利用時間を伝えて、歌う部屋に案内してもらう。
部屋に入ると早速タブレット端末で歌う曲を検索する。私たちはタブレットを操作しながら雑談する。
「すーちゃんはカラオケよく行くの?」
「私ですか?歳の離れた上司とたまに行くくらいですかね」
「歳の離れた上司…。その上司私たちの知らない歌ばかり歌いそうで退屈そう…」
それだけでもつまらないが、そもそも上司とカラオケというだけでも地獄だ。聴きたくもないおっさんの歌を無理やり聴かされるのは苦痛でしかないのである。
「いえ、つまらなくないですよ」
「え?」
直後モニターにすーちゃんの選んだ曲のタイトルが表示される。音楽が始まり、すーちゃんは歌い始めた、ゴリゴリの昭和の歌を。
全然知らない古い曲で最初は戸惑ったが、すーちゃんの歌唱力の高さも相まって結構いい曲に思えてきた。すーちゃんが歌い終わり、私は思わず拍手する。
「うまい!うまい!すーちゃんこんな古い曲歌うんだね!」
「…悪いですか。私最近の曲知らないんです」
すーちゃんは頬を赤らめて少し照れくさそうにする。
「そんなことないよ!それに結構いい曲だった」
「じゃあ良かったです…。とても気に入ってる曲なので」
すーちゃんは静かに微笑する。
その後二時間ほど私たちは歌った。途中すーちゃんが一人で歌っている最中に、私がふざけて一緒に歌って怒られたりもしたが、とても盛り上がった。
歌ったことでお腹が減り、次はカフェに行くことにした。
「すーちゃんの好き食べ物ってなに?」
私はふと気になったことを何気なくすーちゃんに質問する。
「焼き鳥と枝豆です。今から行くとこで食べれますか?」
「それはカフェじゃ食べれないよ…。好きな曲もそうだけど本当に好みがおっさんくさいな…」
「べ、別にいいじゃないですか!」
すーちゃんは少し恥ずかしそうに反論する。
「じゃあ好きな飲み物は?」
「やっぱりブラックコーヒーですかね」
「いやだからおっさんか!」
「失礼ですねっ!!タピオカミルクティーとか流行りの飲み物も好きですよ!」
「いやタピオカはもう古いから…」
「うそ、ですよね…」
すーちゃんはよほど自信があったのか酷く落胆している。
「…ましろさんの好き食べ物はなんですか?」
すーちゃんはまだタピオカのことを引きずったまま、私に話しかける。
「私はフレンチトーストとフラペチーノかな。甘い物が基本的に好きだね。あと最近はハーブティーにもハマってるんだ~」
「…オシャレで可愛らしい物ばかり好きでズルいです」
すーちゃんは頬を膨らまして私に抗議の視線を送る。かわええ…。
「それに比べて私は…」
「大丈夫だよ!すーちゃんも今から行くカフェで美味しいフレンチトースト食べれば、甘い物好きになるから!」
「…本当でしょうか?」
「うん、本当だよ!だって私のお気に入りの店だからね」
すーちゃんを慰めながら歩いていると、いつの間にか目的地の店に着いた。
人気のお店だが、平日の昼間ということもあり並ばずに入店できた。店内の至ることに花や観葉植物が飾られている。そして机を始め、椅子や床が木で作られており、とてもオシャレな空間になっている。
席に着き持っていた鞄を鞄入れに入れると、まず各々食べたい物を注文してからお喋りを再開する。
「こんなオシャレなカフェは初めてなので緊張します…。他の客は若い女性ばかりなのに、私が本当にこの店に居てもいいのでしょうか…」
「いいに決まってるじゃん。てかすーちゃん女子高生でしょ!」
「あ、そうでした。ははっ」
私がケラケラ笑いながらツッコミを入れると、すーちゃんは照れくさそうに髪をいじる。
そうこうしているうちに注文した料理が運ばれてくる。私たちはふたりともフレンチトーストを頼んだ。
「わあ…。このフレンチトーストとても美味しいです…」
「でしょっ!」
すーちゃんは生クリームとメイプルシロップがかかった甘いフレンチトーストを頬張り、あまりの美味しいさに感嘆の声をあげる。
「オシャレなカフェで甘い物食べたし、これでもう完全に私も女子高生ですね」
すーちゃんは満足そうに頷く。
「でも飲み物はブラックコーヒーなんだね」
「…悪いですか。私はやっぱりこれが好きなんです!」
「ふふっ。まあ、その方がすーちゃんらしくていいと思うよ!」
「くっ。馬鹿にされてる気がします…」
すーちゃんはしばし私を睨 めつけていたが、またフレンチトーストを食べ始める。
「うーん、それにしてもフレンチトーストの甘さがコーヒーの苦みに合いますー」
「そうなの?ちょっと私もコーヒー飲ませて」
「いいですよ。では代わりにましろさんのハーブティー飲ませてくださいね」
私たちはお互いの飲み物を交換する。コーヒーを飲み慣れてない私には、ブラックコーヒーの苦みは少々きつかった。だが確かにこれはフレンチトーストに合う。
「ちょっと苦みがキツいけど確かに合うね」
「そうでしょう!あと、ハーブティー新鮮な味わいで美味しいかったです」
「それはよかった」
私はすーちゃんの感想に微笑む。
ふたりともフレンチトーストを完食し、一息ついたところですーちゃんが口を開く。
「今日はとてもお世話になりました。よかったらなにかお礼をさせてください」
「じゃあ、明日から毎日学校に来て!」
「それは無理です…。せめて週3なら」
「じゃあ、私の後輩になって!」
「もっと無理です」
「えー、けち」
私は机に突っ伏していじける。
「…ましろさんってなんでそんなに後輩が好きなんですか?」
「え!私が後輩好きな理由知りたいの!?」
「あ、やっぱりいいです」
「後輩の可愛いとこはね、敬語で話すとこや、尊敬して慕ってくれるとこかな!でもツンツンしてて生意気なのも可愛いなー!もう後輩は後輩の時点で最高に可愛いんだよ!!!」
「は、はあ…。ましろさんの後輩好きな理由がよくわかりました…」
すーちゃんは私の早口にドン引きしてる。あれ、また私なんかやっちゃいました?
「というわけですーちゃん、私の後輩になって!もうましろ先輩って呼ぶだけでもいいから!」
「呼びません」
「そんなー!」
すーちゃんはしつこい私に呆れて席を立ち、会計を済ませに行く。私は急いですーちゃんを追いかける。
「すーちゃん待って。この後どうする?ディ○ニーランドでも寄って帰る?」
「そんなコンビニ行く感覚で言わないでください…。今日はもう疲れたので帰ります」
「行こうよー。女子高生満喫するならランドは欠かせないよ!」
私が懲りずに誘っていると、前を歩いていたすーちゃんがいきなり立ち止まる。
「ランドには今度行ってあげるので静かにしてください」
「本当!?絶対ね!」
「はい。だから黙ってください」
すーちゃんは口に指を当てて黙るように促すと、視線を元の場所に戻す。
すーちゃんの視線の先を見ると男が二人いた。二人ともおっさんで、若者ばかりの店内では明らかに浮いていた。
まさか、すーちゃんは場所に似つかわしくないという理由だけで、なにか怪しいと思ったというのだろうか。まあ、実際おっさんはキモいし存在してるだけで不審者だから怪しいと思うのも無理ない。
しかしすーちゃんの顔つきはこわばっており、その表情からただ事ではない事が窺える。
「…すーちゃん、あの二人誰?」
「あの二人はこの前の爆破テロの実行犯たちです」
「…え?」
「何度も顔写真を見たので間違いありません」
すーちゃんははっきりと断言する。
私がこんな偶然あるのだろうかと狼狽していると、テロの実行犯たちが運ばれてきた料理を食べながら会話を始める。実行犯たちから離れた場所にある柱に隠れて盗み聞きしているので、聞こえるか不安になる。しかし有り難いことに大声で喋っているから問題なさそうだ。
「おい、ニワトリ!早く食べろよ!遅刻するとまたハゲワシの奴が怒るぞ」
「待ってよカラス!ハゲワシの奴、集合時間もっと遅くしろよな!こっちはさっき起きたばかりだってのに」
男二人は文句を言いながら料理を早食いする。
二人はお互いをカラスやニワトリなどと呼び合っているが、それらはコードネームだろうか?会話から察するにハゲワシという人物はこいつらのリーダー?
カラスと呼ばれている細見の男と、ニワトリと呼ばれている肥満体型の男はさらに愚痴を続ける。
「だいたい、ハゲワシは威張りすぎなんだよ!計画を最初に企画したのは奴だが、それ以外なんの取り柄もないし、ついでにハゲてるし!」
「そうだそうだ!組織の資金だって俺たちがほとんど捻出してるのに、偉そうに命令しやがって!あとハゲてるくせに!」
あなたたちあんまりハゲを悪く言うなよ…。思わず擁護したくなるくらいカラスとニワトリはハゲワシを痛烈に批判する。
「お、おい!よく見たらあと五分で集合じゃねえか!だから集合の二十分前っていう微妙な時間に飯なんか食べるなって言っただろ」
食べながらスマホを見ていたカラスが慌ててニワトリに集合時間のことを教える。
「でも数分くらいの遅刻なら別にいいかってカラス言ってたじゃん」
「数分どころか大遅刻なんだよ!お前が馬鹿みたいにフレンチトースト三つも頼むから遅くなってるんだろうが」
「だって腹減ってたんだよ」
先に料理を食べ終えたカラスが立ち上がる。
「もう知らん。俺は先に行くから。これで今日のS駅の爆破テロ上手くいかなかったらお前のせいだからな」
「ちょ、待ってよ!待ってくれー!カラスー!」
ニワトリは残っているフレンチトーストを丸吞みし、急いでカラスを追いかける。
二人が見えなくなってから私は今まで我慢していたことを吐き出す。
「なーに、お前らテロの犯行前にのんびりカフェで飯食ってるんだっ!!しかも他の客に聞こえる声でテロの計画について話してるしさぁ!」
「とんでもないアホ達でしたね…。アホすぎて本当にテロの実行犯達なのか怪しく思えてきました」
「でもあいつらが馬鹿で私達は助かるけどね。よしすぐ追いかけよう!」
私の提案にすーちゃんは少し逡巡したが、暫くして首肯する。
「…はい。もし本物のテロ集団だったら一大事ですしね」
すーちゃんの言う通り本物だと大変だから一応追跡しよう。用心するに越したことはないのだから。
その後カラス達を追跡し、S駅に到着した。
S駅は日本最大級のターミナル駅だ。現時刻は十六時過ぎ、ちょうど学生が帰宅し始めている時間で駅構内は既に混雑している。
カラス達は駅構内の中心、たくさんの人が行き交う通路で、おそらく仲間とおぼしき男たちと合流した。
カラス達と合流した男たちの内の一人が、早くもカラス達を怒鳴りつけている。多分あの人がリーダーのハゲワシだろう。
私たちはこっそりハゲワシたちの近くに接近し、会話を盗み聞きする。通路は人で溢れているので、容易にハゲワシ達にこちらの存在を気づかれず近づけた。
「おい、お前ら!三十分以上の遅刻だそ!前に次遅刻したら許さねえって言ったよな!?」
派手に頭をハゲ散らかした引き締まった体の中年男性がカラス達をしかりつける。
「す、すみませんワシさん!!ニワトリの奴がどうしても飯食いたいって言うもんで…」
「人のせいにするなよカラス!俺だけが悪いわけじゃないですよワシさん!カラスだって少しくらいの遅刻いいかって言ってたじゃん!」
カラスとニワトリは醜い責任の擦り付け合いを続ける。てかハゲワシの本当の名前は『ワシ』なのね。なるほど、実際に頭がハゲてるからハゲワシって呼ばれているのか…。あんた部下に嫌われすぎでしょ…。
「もうお前らの言い訳は聞き飽きたッ!!とりあえず罰金として組織への資金提供、今までの倍払えよ」
「え!?いや、無理ですよ……」
「そ、そんな大金払えません……」
「あ、なんか文句あるのか?」
ハゲワシはカラス達をただ睨みつける。そしてカラス達はハゲワシの異様な圧に耐え切れず、つい目線を下に向けてしまう。
「いえ、なんとかします……」
「必ず……」
カラス達は渋々ハゲワシの命令に従う。ハゲワシは部下たちが要求をのんだことで満足したのか、説教をやめて話題を変える。
「さて、それでは本日の計画の話をしよう。予定は少し狂ったが、まだ取返しがきくはずだ。お前らちゃんとブツを持ってきただろうな?」
ハゲワシはメンバーが各々持っている大きいバックを見る。おそらくそれらのバックの中に爆弾が入っているのだろう。
「ブツをそれぞれ指定場所に設置してこい。設置後、再度駅から離れた場所に集合。集合が完了したらお楽しみのドッカーン!をみんなで優雅に見物といこうぜ!」
「「おー!」」
ハゲワシ達は大いに盛り上がっている。こいつら犯行前に目立っていいのか?という気もするが、とにかくハゲワシの発言から察するに、こいつらが今から爆破テロを行うことは間違いないだろう。
こいつらがテロ集団であることが確定し、私はこれからどう動くべきか熟考する。しかしあちらが私の答えが出るのを待ってくれるわけもない。犯行前の決起会が終わるとハゲワシ達はすぐ移動し始める。
まずい!!このままハゲワシたちがバラバラになると全員を捕獲できない。メンバー全員を一網打尽にするには今しかない!!
「全員を捕まえるには今がチャンス!いくよ!すーちゃん!」
「え?ちょっと!ちょっと待ってください!ましろさん!」
私は走ってハゲワシたちに近寄り、大きな声で名前を呼ぶ。
「あなた達止まりなさい!!おい、そこのハゲだよ!聞いてんのかー、こらー」
「あッッッ!!!?誰がハゲだってッ!?」
私の悪口に反応したハゲワシが振り向き、鬼の形相でこちらに向かってくる。
「あなたしかいないでしょ、ハゲワシ」
「ハゲワシ?俺の名前はワシだが?」
「後ろの部下二人がそう呼んでたけど」
私はカラス達の方に視線を向ける。
「部下か二人が?チッ、カラス達か。後でしばいたろ」
ハゲワシは後ろにいるカラス達を一瞥する。睨まれたカラス達は気まずくなり、視線をそらす。
「ましろさん危ないから勝手に動かないでくださいよ!!」
「ごめんごめん!ここで捕まえないと逃げられる!って思ったからさぁ」
私は遅れてやってきたすーちゃんに謝罪し、ハゲワシの方に向き直る。
ハゲワシは名前を間違えられたのが気に入らなかったのか、自己紹介を始める。
「いいか俺の名前はワシだ。テロ組織イーグルのリーダーをやっている。よく覚えておけよ」
「イーグル…。それがあなたたちの組織名ですか?」
すーちゃんがハゲワシに質問する。
「そうだ。カッコイイ名前だろ?」
「いえ、別に。逆にいちいち自分のネーミングセンスに自信満々なとこがダサいです」
「う、うるせー!!ほっとけ!」
ハゲワシがすーちゃんの辛辣な感想に憤る。いちいちうるさい奴だなこいつ。
「いいかよく聞け!俺らイーグルは社会に不満を持っているニートによって構成されている。イーグルはこの格差社会を絶対許しはしない。幸せそうな奴は全員皆殺しだ!!!」
「うわ、格好つけてるけどただの八つ当たりニート集団じゃん。きも…」
「ガチのドン引きは本当に傷つくからやめて」
私の罵倒に心が折れそうになるハゲワシ。この程度で落ち込むようなメンタルだからニートになってるんだよ。
「あなた達の話はもういいよ。さっさと捕まえてあげるからしっかり更生して社会復帰しなさい!」
「俺は捕まらないしずっとニートのままでいる!てか捕まえると言うがお前ら何者だ?警察なら逮捕しようとするのも分かるが、お前ら普通の女子高生じゃねえか!」
そういえば私達の自己紹介がまだだった。
「そう、私達は一見普通の女子高生!しかし!その正体は街の平和を守る魔法少女ましろと~!」
私はすーちゃんにビシッと自己紹介するよう手で促す。
「スパイの須藤です」
「って!すーちゃんはすーちゃんでしょ!あともっとテンション上げて行こうよー」
「テンション上がる気分じゃないので嫌です。名前に関してはましろさんが勝手にすーちゃんって呼んでるだけですよね」
「いやでもすーちゃんって名前の方が絶対いいよ!そっちのほうが可愛いし」
私たちが名前談議に花を咲かせていると、ズドンッ!と鈍い音がした。
「いい加減にしろ!お前達にこれ以上かまっている暇はない!さっさとお前達をぶっ倒して俺たちは計画を再開する!」
ハゲワシが威嚇射撃し、発砲に驚いた通行人が凄い速さで散っていく。ハゲワシはさっきもカラス達に怒っていたし、どうやらキレやすい性格みたいだ。
「わかったわかった。お望み通り相手してあげる。でも痛い目にあいたくなかったらやめといた方がいいよ」
私は一応警告するが、ハゲワシは聞く耳を持たない。
いい感じに人がはけてくれたし、いっちょやりますか!
「やれるもんならやってみろ!魔法少女とスパイのおかしなコンビが俺達イーグルに勝てるなんぞ思うなよッッ!!」
「そっちこそ私達最強コンビに勝てるなんて思わないことね、ハゲワシ!」
「だから俺の名前は『ワシ』だッッッ!!!」
ハゲワシの発砲を合図に銃撃戦が始まった。
銃撃戦が始まり私たちは一端柱に隠れる。数で劣っている分、さすがに新近距離でやり合うのは勝ち目が薄いと判断した。
「相手は七人か…。一人でも倒せなくはないけど少し面倒くさいな」
私は柱の影から少し顔を覗かせて相手の数を確認する。相手も柱に隠れながら射撃しているので、正確ではないかもしれないが、おおよその数は合っているだろう。
「よし、すーちゃん協力して!私が合図したら一斉に飛び出して総攻撃するよ!私が左側のハゲワシ達の相手をするから、すーちゃんは右側の敵をお願い!」
私は隣にいるすーちゃんに協力を打診する。しかしすーちゃんの口からは予想だにしない答えが返ってきた。
「……それはできません。ましろさんは安全な場所に避難してください。あいつらは私一人で捕まえます」
「え…?すーちゃん何言ってるの…?」
悪い冗談かと思ったがすーちゃんは真剣な顔をしていた。
「テロを防ぐのはスパイの仕事です。一般人は関わるべきじゃない」
「でもすーちゃん一人だけじゃ危ないって!だから一緒に協力しようよ!ねっ!」
「相手は七人だし私だけでも何とかなります!いいからましろさんは手を出さないでください!あいつらは絶対私が逮捕しなければいけないんですッ!!」
すーちゃんはそう言うと柱から飛び出し、ハゲワシ達の方に突っ込んでいった。
「待ってすーちゃんー!」
すーちゃんは私の制止を振り切り、銃を撃ちながら前進する。
もう私の声はすーちゃんに届かない。
「すーちゃんのアホー!!分からず屋!」
仕方ない。こうなったらハゲワシ達はすーちゃんに任せて他の敵を片付けよう。
私は鞄から魔法のステッキを取り出し、右側にいる敵を倒すため走り出す。
「おらーッ!死ねぇー!!!」
柱から身を乗り出した瞬間、銃声と共に汚い声が飛んでくる。右側の敵三人が姿を現した私に一斉射撃をしたのだ。
「そんな下手な射撃当たらないよ!」
私はランニングで鍛え抜かれた足腰をフルに使い、華麗に銃弾をかわしながら敵に接近する。やっぱり信用できるのは魔法より己の体だね!
ある程度近づいたとこで私は殺人ストレート(ただの魔法のステッキを投げるだけ)を敵の顔面にお見舞いする。
「ぐは…っ」
殺人ストレートをくらった敵は静かに崩れ落ちる。まあ多分死んではいないだろう。
「ハトー!!てめえよくもやってくれたな…!」
「ハトの 敵は必ず討つ!」
残りの敵二人が私に復讐心を燃やしながら銃を構える。あなた達なんだかんだ仲いいな…。まあだからといって手加減しないけどね。
私は素早く魔法のステッキを拾い、相手が引き金を引くより先に二人の頭を強打する。
頭に強い衝撃を受けた敵二人は体のバランスを保つことができず膝をつく。
「く、くそ…」
「てか…魔法使えや…」
敵二人は完全に沈黙した。
「あなた達なんてこれくらいで充分なのよ。ところですーちゃんは大丈夫かな…」
私はすーちゃんの方を見やると、あちらもちょうど決着が着くところだった。
すーちゃんの周りにはカラス達部下が転がっている。そしてリーダーのハゲワシは拳銃を突き付けられ涙ながらに命乞いをしていた。
「や、やめてくれ…ッ!どうか命だけは助けてくれ…」
すーちゃんは肩を震わせている。
「なに都合いいこと言ってるんですか…?あなた達がしたテロで亡くなった方々は命乞いをする暇もなく死んでいったのですよ…ッ」
すーちゃんは唇を強く嚙みしめる。
これ以上はまずい。私はすーちゃんの方に駆け寄る。
「…本当に虫唾が走る!こんなゴミ!!世の中ために消した方がいい!!」
「ひッ…!!」
すーちゃんは強く握りしめた拳銃の引き金に手をかける。
「すーちゃんダメーっ!!」
ズドーン!という大きな銃声が私の声をかき消すように響き渡る。
私はあまりにも衝撃的な事態に、一瞬なにが起こったのか分からなくなった。
「うそ…ッ」
すーちゃんが肩を撃たれて倒れた。
「すーちゃんーッッッ!!!」
私の呼びかけも虚しく、すーちゃんは床に伏せたままだ。
「ふっ、油断したな」
「さすがカラス!倒されたふりするなんてよくとっさに思いついたな!」
「へへ、まあな、ニワトリ」
すーちゃんを背後から射撃したのは倒されて動けなかったはずのカラスだったのだ。
よくもすーちゃんを…!こいつら二度と動けないようにしてやる。
「助かった…。よくやったカラス!っておい!まだ動いてるぞこいつ!」
ハゲワシが幽霊を見た時のような驚いた声を上げる。
倒れていたすーちゃんが起き上がったのである。
「いった…ッ」
すーちゃんは膝をついた状態で撃たれた肩を触る。
「よかった…」
私は胸をなでおろす。どうやら大事には至ってなかったようだ。しかし安堵していられるのも束の間で、今度はハゲワシがすーちゃんに銃を突き付ける。
「しぶとい奴だな…。今度こそ確実に殺してやる!」
「銃が…銃があればこんな奴…」
すーちゃんはなんとか落とした銃を拾うために手を伸ばす。
「おっと、やらせねえぞ!」
ハゲワシは銃を拾おうとしたすーちゃんの腹に蹴りをいれる。
「グッ!!」
「すーちゃん!」
「死ねええええーー!!!」
ハゲワシは躊躇なく引き金を引く。
「スイートピンクシーーールドッ!!」
私がそう唱えると魔法のステッキが一瞬光を放つ。そしてすーちゃんの目の前に不可視の壁を出現させ、ハゲワシが発砲した銃弾を受け止めた。
「銃弾が空中で止まってる…?」
すーちゃんが不思議そうに不可視の壁にめり込んだ銃弾を見上げる。すーちゃんの言う通り魔法少女以外にはいきなり銃弾が空中で停止したように見えるはずだ。
「「えーー!?!!?」」
「馬鹿な!?何をやったお前!?」
ハゲワシ達は眼前で起こった摩訶不思議な出来事に驚嘆する。
私は不可視の壁を解除すると、魔法のステッキを握り直す。
「魔法を使ったのよ!スイートピンクショット!!」
私はハゲワシ達に向けてこれまた不可視の衝撃波を放つ。
「うわあああああーッ!」
「うおおおおおおーッ!!」
「ぐえッッ!!」
衝撃波をくらったカラスとニワトリは見えない場所まで飛ばされていく。一方、ハゲワシは運良くすぐ近くの柱に激突した。
「すーちゃん大丈夫!?」
私はハゲワシ達を倒すと一目散にすーちゃんの元へ駆け寄る。
「……ましろさん。ましろさんが助けてくれたんですか?」
「魔法を使ってね!よかったすーちゃんが無事で…」
私はすーちゃんに肩を貸す。
「そうか…。ましろさんが魔法を使って助けてくれたんですね」
すーちゃんの顔に押し当てられている腕の隙間から涙がこぼれる。
「ましろさんは全力で自分の役目を果たそうとしているのに、私は…ッ。仕事で手を抜かないと言っておきながら、しょうもないことにこだわって、返り討ちにされて…ッ」
「すーちゃん……」
すーちゃんは少しの間俯いたままだった。その間、私はかける言葉が見つからずにいた。
「すーちゃんもういいから気にしないで。無事にハゲワシは捕まえたんだから」
私はハゲワシの方を見る。するとちょうどハゲワシが忍び足でこっそりとその場から立ち去ろうとしていた。
「なに、こっそり逃げようとしてるのあなた?」
ハゲワシは照れくさそうに笑うと、
「いやー。二人だけの世界を邪魔しちゃ悪いかなーと思ってさ!!」
そう言ってダッシュで走り出す。
「あ!ちょっと待ちなさい!」
私が慌てて追いかけようとした直後、ハゲワシの足を銃弾が貫いた。
「いってぇーーッ!!!?」
ハゲワシは激しい痛みに悶絶し床を転げ周る。
私が横に顔を向けると、すーちゃんが銃を構えて立っていた。
「…すみません、ましろさん。私が間違ってました。遅いかもしれないですけどここからは協力しましょう!」
すーちゃんは深々と頭を下げる。どうやら立ち直ったようだ。
私は笑顔で応える。
「もうだから全然気にしなくていいし、もちろん協力する!だって私たち最強コンビなんだから!」
「はいっ!」
すーちゃんはにっこりと笑顔で返事をしてくれた。
「クソ、いてえ…。絶対逃げてやる」
遠くから微かに声が聞えた。
声が聞こえた方を見ると、ハゲワシが撃たれた足を引きずりながらもまだ逃げようしていた。流石ニート、逃げることに関してはエキスパートだ。
「おい、なに逃げようとしてんだ、こらー!」
「ひっ!もう許して」
私はすぐハゲワシに追いつく。その後に続いてすーちゃんもやってくる。
「そう言えばまだ腹蹴られた分、やり返してなかったですね」
「すーちゃんが肩を撃たれた分もやり返してなかったなー」
「もうお前は俺の足撃っただろ!それに肩を撃ったの俺じゃないし!!ていうか、もう動けない敵をこれ以上痛めつけるなよ!!!この悪魔ッッッ!!!」
私とすーちゃんはそれぞれの武器、魔法のステッキと銃でハゲワシに殴りかかる。
「私は悪魔じゃない!!街の平和を守る魔法少女よ!」
「違います!私は悪を殲滅するスパイです!」
私とすーちゃんの武器がハゲワシの腹にクリーンヒットする。
「グえ…ッ!いや…お前らやっぱり悪魔だよ…」
ハゲワシはそう言い残して意識を失った。
「銃弾使わないんだ」
私はニヤニヤしながらすーちゃんの顔を覗き込む。
「これ以上撃ったら本当に死んじゃいますから。ましろさんも魔法使わないんですね。あのスイートピンクなんとかーってのもう一度見たかったです」
「もうやらないよ!あれ恥ずかしいし!」
私は魔法を使ったことを思い出して顔を赤くする。それに対してすーちゃんは面白がって笑う。
「ふふっ、ましろさんが魔法を使わない理由が他にもあったんですね」
「…まあね。女子高生になってもあの呪文をノリノリで唱えるのはさすがにキツいよ…」
たださえこちらは従来の年齢制限を超えて魔法少女やっているというのに勘弁して欲しいものだ。
「それにしても今日は本当に助かりました」
すーちゃんは改まって私に一礼する。
そしてすーちゃんは私の目を見ながら微笑んで、こう言った。
「ありがとうございます、ましろ先輩」
すーちゃんは確かに私のことをましろ『先輩』と呼んだ。
「え!?今すーちゃんが私のことをましろ先輩って呼んだ…!?!?ちょっと録音したいからもう一度言って!!!」
「嫌です!てか私次の任務のために行く場所あるのでこれで失礼します!」
すーちゃんは再度軽く一礼すると、急ぎ足でこの場から立ち去る。
「待ってすーちゃん!ましろ先輩って呼んでよ!もう一度でいいからさー!」
私はすーちゃんを追いかけて走り出した。




