聖都崩落
いよいよ聖都が戦場になってしまいます
二手に分かれて最後の六柱官と人を媒介にした魔物を探すシン達だったが
思った以上にその二つを探すのに苦労している様子だった
施設の中がかなり大きくて二手に分かれても人手が足りないと言うのもあったが
一番の理由は・・・ここで実験していた物がシン達の目に何度も止まってしまうからだ
確かに魔物は人間にとっては害でありその為の兵器が作られるほどだがそれでも生き物だ
そして教団はそんな魔物に対してですらまるで道具のように扱っていた
それを頭では理解していたつもりだったが実際に魔物の残骸などを見てしまったら
流石のシン達でも魔物の事を霰みそして教団に対しての怒りを膨らませてしまうのも無理はない
「・・・まるでここはあいつらにとってのゴミ箱みたいだな・・・」
そう・・・まさに言葉にして表すのならばクロトの言う通りゴミ箱というのが妥当だろう
しかしここまで露骨にこんな事をしている教団を許す事は出来ない
ましてやそれが今度は人間に矛先が向こうとしているのならば尚更だ
「ああ・・・こんな事をするような奴らを野放しにしておくわけにはいかない・・・!
急いで首謀者を暴き出して終わらせるぞ・・・俺達の手で・・・!」
最初はその言葉を聞いてクロトは気負いすぎているのではないかとも思ったが
(・・・ちゃんと周りを警戒しているな・・・
どうやら自分が今、やらなくちゃいけない事は理解しているか・・・)
ちゃんと冷静に周りを警戒しているシンの姿を見てそれは杞憂で終わりそうだと安堵していた
そして同時に自分もここでの実験していた痕跡などを見て教団が何をしようとしているのかを考える
(あいつらの目的が人を操って自分の都合のいいように動かす事だと思っていたが・・・
それならどうしてここのように魔物の改造や使役の仕方まで研究しているのか・・・
人間を操るのに魔物が持っている魔法の力が必要だったから?
いや・・・そもそもそんな魔法は誰も知らないはず・・・ならここでの実験は何が目的で・・・)
おそらくそれはここにいるであろう最後の六柱官に聞けば分かるのだろうが
素直に教えてくれるかどうかも分からないのでクロトは出来るだけ自分で考える
そんな中でもう一つ考えていたのは人間と使ったという魔物の事についてだった
(人間を媒介にした・・・それだけ聞けばあいつらが何をしたのか・・・その重さは理解できるが
問題はどうして人間を媒介にする必要があったのか・・・予想としてはおそらくあの魔物)
クロトが思い出していたのはかつて装甲列車で出会ったあの複数の魔法を同時に使う魔物
人間を使う理由としてはおそらくあれを完成させる為だと言うのは理解できるのだが
(人間を使ったとしてもあれを完成させる事が可能なのか?もしもそうじゃないのなら・・・
最悪のパターンも考えておいた方がいいかもしれないな・・・)
たとえ人間を使ったとしても彼らの実験がうまくいったと言う保証はない
何故ならば検証で使う魔法と戦闘で使う魔法は根本的に威力が違うし込める魔力の質も違う
そしてもしもクロトが心配している通りそれによって魔物の体に異常が出てしまったら・・・
おそらくは装甲列車で起きたような事が起こってしまうだろう・・・中の人間も同じく・・・
そうなればシン達は心に強烈な傷を残してしまう事になるだろう
目の前で助けらる人間を助けられなかった永遠の傷として・・・
(特にシンはディパシーの時を跳ぶ能力でこれまで幾度となく誰かを助けてるからな・・・
もしかしたら・・・これがトラウマになってしまうかもしれないな・・・)
クロトはその可能性を危惧しながらその時に対しての覚悟も決めるのだった
そんな中でカライ達が呼ぶ声が聞こえてきてシン達も急いでそちらに向かってみる
するとそこには明らかに何かが入っていたであろう巨大な培養容器があり
しかもそれが破壊されて溢れた培養液を辿っていくと破壊された壁に続いていた
「どうやら例の魔物が逃げ出したみたいだな・・・!厄介な事になった・・・!」
ただでさえここには六柱官がいるのに魔物が脱走したとなればそちらにも戦力を割かなくてはならない
(おまけにその魔物はおそらく全員で戦っても勝てるかどうかも分からない強敵・・・!
戦力を割いて勝てるとはとても思えないが・・・どうする・・・?!)
すぐに行動しなければ間違いなく手遅れになるが安易な選択をすれば全滅する可能性もある
どうすれば良いのかクロトが必死で考えていると事態は更に最悪な方へと進んでいく
「?!まさか・・・もう地上に出たのか・・・?!!ならこの上は・・・ウヴィアか!!」
クロトは自分達がどこにいるのかを知り誰も死なせてはならないと急いで魔物の跡を追いかける事にした
一方その頃、ララの方も街中に魔物が現れたと聞いてみんなを避難させていた
(まさかもう仕掛けてくるとは・・・奴らもここに私達がいると気がついたのか・・・?!)
ナオマサはこの襲撃を自分達がここに来たせいではないかと一瞬だけ考えたが
それにしてはあまりにも攻撃に雑さが見受けられた
(もしも私達の事が侵入しているとバレているのならばそもそもここへ来るはずだ
街で暴れたとしても私達にその存在を教えるだけなのに・・・一体何が目的なんだ?)
相手の狙いに対してナオマサは一体何を考えているのか分からず
今はとにかく今は民の安全を優先する事にした
周辺の避難を終えたララ達は次に魔物が現れたという場所の近くにいる人達を逃しに向かった
魔物が現れた場所はまるで嵐でも過ぎたような無惨な光景になっており倒れている人もいた
「姫様達はここで彼らの治療を行なってください!私達は逃げ遅れた人がいないかを見てきます!」
ナオマサは魔物の気配がない事を察知してララ達に怪我人の治療を任せて
自分とヒョウカで他に逃げ遅れた人達がいるかもしれないと探しに向かった
やはり突然、街中に現れただけに逃げ遅れた人はかなり大勢いた
ナオマサは一人ずつではあったが彼らを助けていきララ達の元へと連れていく
「これでおそらくは全員だと思いますが・・・もしかしたらまだ意識のない人も・・・」
一応は意識があったお陰で発見できた人達は助け出す事が出来たが
まだ意識のない人は見つけられていない可能性もあるのでナオマサは再び探しに向かおうとしたが
「っ?!この気配・・・魔物ではないが・・・奴らか・・・!!」
気配を悟ったナオマサは足を止めると瓦礫の影から教団の改造巨人が姿を現した
「まさかここで姿を見せるのか・・・!ここは重傷者がたくさんいるんだぞ・・・!!」
ここを逃げようにも先ほど助けた怪我人がたくさんおり彼らを置いていける訳もない
しかしこのままでは間違いなく自分は倒されララが連れていかれるのは明白
もはやなす術もないとナオマサが諦めようとしていた時、教団の改造巨人が吹き飛ばされた
一体何が起こったのだとナオマサが驚いているとその上空にトゥネの姿があった
『なんとか間に合ったみたいだな?・・・だが状況はそこまで良くはなさそうだ』
「にっ人間を媒介にした魔物だと?!奴らはそこまでの事をしていたのか?!!」
カライからこれまでの話を聞いたナオマサは彼らと同じく教団の正気を疑っていた
それほどまでに教団のやっている事は常軌を逸しており許される事ではないからだ
「今、シンとクロトがその魔物を探しに向かっているが気配がなくて困ってるし
まだ最後の六柱官が誰なのかも分かっていない状況だ・・・
俺もそっちに合流したいが・・・こっちを優先した方が良さそうだな」
カライは倒れている人達の状況を見てまずはこっちを避難させる方がいいと考える
「ああ・・・だが街がこんな状態では彼らを安全に匿う場所などないだろう・・・
まずは近くの村へと運んでそこで治療してもらうしかないか・・・」
しかし街にはまだ魔物がいる危険性があるので安全な場所などなく
怪我人を長時間移動させるわけにはいかないが街の外に避難するしかなかった
「重症で動けない人達は私達が巨人で連れていきます!まずは外へ出ないと!」
ヒョウカの言う通りここで喋っているわけにもいかないのでまずは外への避難を開始する
ララとアカリ達が応急処置した人達からカライとヒョウカが巨人で街の外へと運ぶ
時間は掛かってしまうがそれでも安全性を優先したらこれ以外の手はないだろう
(後はシン達が魔物を見つけてくれるかどうか・・・いや・・・それだけじゃない・・・
最後の六柱官・・・奴の正体と居場所が分からない事には安心できない・・・!)
確かに目の前に魔物という明確な脅威がある所為で見落としてしまいそうだが
まだ最後の六柱官が誰でありそして今どこにいるのかは分かってはいない
そしてそれが分からない間はまだ安心してはいけないのだとナオマサは自分に警告する
(目の前に事に集中しつつ周囲を警戒していつでも万全に備えておかねば・・・!)
一方その頃、魔物を探しているシン達はどこを探しても魔物を見つける事が出来なかった
というのもシンが上空から街の様子を見ているのだが
建物が壊れるどころか土煙すら上がっている場所がなかったのだ
つまり先ほどまで暴れ狂っていた魔物が今は完全に大人しくなったという事
(もしかしてもう寿命が尽きたのか?いや・・・魔法を使った形跡はない・・・
という事は体が壊れるほどの負荷はまだ与えられていないという事・・・ならば何故?)
クロトはあれほどまでに暴れ狂っていた魔物が一体どうやって静かに消えたというのか
その理由を考えているとシンが街に対して違和感を覚えていた
(・・・なんか・・・派手に壊してるようで中央は壊れてないんだよな・・・)
それは街の中央付近が全くと言って良いほど壊されていないという事だった
先ほど自分達がその周辺から出てきたにも関わらずだ
「・・・!もしかしてここら辺があいつにとっての巣なのか!だったらあいつが今居るのは!!」
「街の中心・・・!つまりは大聖堂だ!!」
人間を媒介にした魔物が居るのは大聖堂だと睨んだシン
しかしそこに待っていたのは魔物だけではなかった