自分の気持ち
今回は少しだけシリアスな回かも
あれから暫くしてどうやらシン達の作戦はうまくいったようで
続々と反乱軍に参加し女王を助けたいという兵士も増えてきていた
それこそ今まで帝都にすらそれほどの連絡をしてこなかった砦の人間ですらだ
「まぁ彼らの場合のほとんどは手柄目当てで参加しているのも多いだろうが・・・
なんにしても戦力の差は徐々に縮まってきている・・・
後は決戦の日までどこまで埋められるか・・・」
確かにシン達の作戦のおかげで戦力は増えてきてはいるがそのほとんどが戦った事もない一般人だ
そんな人達をアテにするわけにもいかないし何よりも失ってしまうわけにはいかない
もしも彼らが死んでしまうような事があればそれはこちらの大義を失う事になるからだ
(もしも戦いになった場合は彼らに砦の守りを任せて正規兵が前へ出るという感じか・・・
しかし・・・正規兵の数はこっちの方が圧倒的に少ない・・・どこまで減らせれるか・・・)
兵士の強さに関してはほとんど互角と言っていいだろう
単純な計算で言うのならばこちらは相手の兵士を五人ほど倒さなければ
戦力差をひっくり返す事は出来ない
つまり今回は戦略が命運を分ける事になるのは間違いなかった
だからこそ反乱軍の主要メンバーと将軍達は必死に作戦を考え続けていた
あいにくとナオマサはそう言った事に疎いので作戦会議には参加せずみんなの様子を見ていた
「いやむしろ様子を見ているというよりはそわそわしているようにしか見えないぞ?」
しかし側から見ていたカライからして見れば落ち着いて何かを見ているというよりも
ずっと同じ場所を散策しながら別の事を必死で考えているように思えた
「・・・やっぱりあのお姫様が囮になるのが心配か?」
そしてカライはおそらくその原因であろう例の作戦の事を告げる
すると先ほどまで右往左往していたナオマサの足が止まり上を見上げる
「・・・心配でないといえば嘘になる・・・だが姫様はこれから一国を背負わなくてはいけない
・・・この前のあの覚悟はまさにそれと似た様なものだった・・・だから止めるわけにいかない」
カライはその言葉を聞いてナオマサがどれだけ止めたいという気持ちを抑えているのは理解できた
一方で訓練場ではシンも混ざってヒョウカの特訓を行っていた
「なかなかいいんじゃないか?」
シンは先ほどの模擬戦を踏まえてだいぶ上達してきたのではないかと告げる
「確かにな・・・だがあくまでも一般的なレベルとしてだけだ・・・
例の教団の男・・・テブレスどれほどの使い手か分からない以上は用心しなければ」
クロトも初めの頃に比べればだいぶ巨人の扱いに慣れてきたのは認めるが
テブレスの実力が分からない以上はもっと強くならなければならないと考える
「それにお前も人の事を言っている暇はないんじゃないか?
もしも戦いとなればお前が戦うのはフェルミ最強の巨人乗りであるセッペン将軍だろ?」
そう・・・シンが今回の特訓に参加したのはセッペン将軍と戦う可能性があったからだ
この前、直接会ったシンはその目で見たからこそ彼の強さを実感できた
彼は努力家で誰よりも国を思っているからこそフェルミ最強になれたのだと
しかし今の自分は努力も誰かを守りたいという気持ちもまだセッペン将軍には及ばない
そう感じたからこそシンはもっと努力をするために今回の特訓を受けたのだ
「正直な話、セッペン将軍には俺ですら勝てない技量と力がある・・・
だが俺に勝つ事が出来たお前なら足止めくらいは出来るはずだ」
クロトはただ事実を述べてシンに自分の役割を忘れないように告げる
おそらくシンにとってはそれが一番いい激励の言葉だと思ったのだ
それを分かっているのかシンは何も答えずただ笑っていた
「・・・なんかいいですね・・・そういうの・・・」
その様子を見ていたヒョウカは二人がうらやましい思っていた
自分もあんな風に誰かと打ち解けあえるような関係になりたいと
「何言ってるんだ?ヒョウカだってもう俺達の仲間だろ?だったら遠慮なんてするなよ!」
しかしシンからして見ればすでに仲間になっているにどうしてそんな事を言うのか理解できなかった
「ちょっと待て?もしかしてその仲間の中には俺も入っているのか?」
するとどうやらクロトは仲間の件を認めてないようで文句を言い始める
「・・・ふふ・・・!そっか・・・仲間か・・・」
今まで部下や家臣という形でしか人と関わってこなかったヒョウカからして見れば
仲間という響きは何故かとても心に響く感じがした
「あの!よかったらこれをどうぞ」
そこへララが現れてみんなに差し入れを持ってきてくれた
「悪いな!どうせだったらララも一緒に食べないか?」
シンの言葉にララはそうしようとみんなで一緒に差し入れを食べる
「全く・・・一度、命のやり取りをした人間を仲間なんてお前はどうかしてるんじゃないのか?」
クロトは差し入れを食べながら先ほどの事をまだ話していた
「いいだろ別に?どんな風にどんな仲間を作るかなんて俺の勝手だっての」
シンにとっては確かにクロトは命のやり取りをした相手だがそれは誤解ゆえのものであり
実際は同じ敵を相手にする者だったのだから仲間と考えて当然だと思っていたのだ
「・・・本当にお前はどんな神経をしているんだ?」
もはやクロトは怒るどころか呆れるしかなかった
「なんだか仲がいいですね?二人とも」
その光景を見てララはいつの間にか仲良くなったのだと嬉しそうな顔をしていた
「本当よね〜・・・なんか見てるこっちまで微笑ましく感じるわ」
それに対してヒョウカも同意しこっちもこっちでどうやら仲良くなっているようだ
「それにしてもさ〜・・・ララは凄いわよね・・・
自分が危険になるのを承知で囮になろうとするんだから」
ヒョウカはこの作戦の要でもあと囮を引き受けたララを本当に凄いと思っていた
しかしララは別にその作戦を提案し実行する事を誇りのようには思っていない
「・・・私はヒョウカさんの方がうらやましいです・・・
私は守られてばかりで守る力がない・・・
みなさんにお返ししたくてもこんな事でしかお返しできないんです・・・」
そう・・・ララは自分の無力さを知っているからこそ役に立とうと思って囮になろうとしたのだ
「・・・それでも十分凄いよ・・・私は誰かの為にそこまで出来る自信ない・・・
今だって母様に元に戻って欲しいから頑張ってるだけで誰かの為じゃない・・・
それを考えればララのやっている事は私は凄い事だって思うよ」
確かにララは何もできないそんな思いからあんな提案をしたのはヒョウカも分かっていた
しかしそれでも自分に何の理がないのに命を賭けるなどヒョウカには出来なかった
だからこそヒョウカにとってララは尊敬できる友達であり憧れでもあるのだ
「・・・なんか・・・ララ達も人の事、言えなくないか?」
確かにシンの言う通り先ほどまでの自分達と同じようなやり取りを二人はしていた
しかも男の友情とは違い二人の場合は何か危険な匂いがするような場面だったので
さすがのシンもこれは止めなくてはいけないと話しかけたくらいだ
「まだ俺達みたいにギスギスしてないだけ十分にマシだと思うがな・・・
さて・・・ヒョウカはもうしばらくその姫様と談話していろ
シンは俺と特訓するぞ・・・セッペン将軍との戦いを想定してな」
朝からぶっ通しで特訓していたヒョウカと違いシンは昼くらいからの参加だったので
そこまで疲れているわけではなくクロトはそれを見越してヒョウカを休ませシンと訓練をする
「あいよ〜!差し入れありがとな!」
シンはちゃんとララが持ってきてくれた差し入れを全部食べ終えてクロトと一緒に訓練場に向かう
「はっはい!シンも頑張ってくださいね!」
お礼を言われたララは少し驚きながらもシンの事を見送ると
何故かその様子を見ていたヒョウカはニヤニヤしていた
「もしかして〜ララってシンの事が好きなのかしら〜?」
まるでいたずらが思いついた子供のような顔でヒョウカはララにシンをどう思っているのかを聞く
「へっ?・・・そそそそそんな事ないですよ?!!」
最初はララも何を言われているのか分からなかったが
それが分かった瞬間に顔を真っ赤にして否定する
「いや凄い取り乱して言われても困るんだけど・・・」
「・・・正直よく分からないんです・・・私は異性としれ誰かを好きになった事はありませんし
シンに想う感情の中には感謝の気持ちや申し訳ない気持ちがほとんどで
これを好きという感情にしてしまうのはシンに申し訳ないと思うんです・・・」
ララとしてはシンを想っているのは本当の事だと自分でも思っているみたいだが
それが好きという感情なのかそれとも守ってくれた恩人としても感情なのか
いずれにしても戦いに巻き込んでしまった自分にシンを好きになる権利はないとララは思っていた
「・・・何言ってるのよ・・・人を好きになる事に資格も人種も関係なんてないわよ
それに・・・あなたは自分で言ってるわよ?シンの事を想う感情の中に
感謝や謝罪の気持ち以外の別の感情があるって・・・」
確かにララの中にはシンに対して言葉にはできない感情はあった
そしておそらくは・・・ララはその気持ちがなんなのかを分かっている
「私が言えた義理じゃないけどさ・・・
私達は王族で多分だけどまともな恋愛はできないはずなの・・・
でも私はそれでも好きな相手くらい自分で決めたいの・・・!
ララは自分の好きな人を誰かに勝手に決められていいの?」
ヒョウカとララは同じ一国を担う事になるお姫様であり将来の事は既に決まりつつある
それでも自分の感情を優先したいものだって必ずあるのだ
ヒョウカはララにそれはないのか尋ねるとララは苦しそうな表情を浮かべる
確かにララにも憧れは存在するし優先したいものだってある
しかしそれは自分の父であり国王が生きていた時代のもので
もはや次の国を担うものとしてはそんな事を優先するわけにはいかない
もしかしたらララはその為に自分の感情を知らないと思い込んでいるのかもしれない
「・・・私もこれ以上は何も言えないけどさ・・・
私はその想いは間違いじゃないと思ってる・・・
誰が何と言おうと・・・それこそララ自身が否定したとしてもね」
「・・・私自身が・・・」
次回はいよいよ女王軍と激突!