女王の闇
いよいよ教団の男の名前が明らかに!
「・・・ん・・・ここは?」
クロトが目を覚ますとそこは全く知らない天井だった
しかしよく知っている木造の建物だったのですぐにここが死後の世界ではないと悟る
そしてゆっくりと起き上がると自分の足元に誰かがいるのが分かった
それは他でもない自分が庇ったヒョウカだった
おそらくは彼女はずっと自分の看病をしてくれていたのだろうとクロトは悟り
シンはどうしたのだろうと思っていると扉がノックされて
そこから一人の老人が食べ物を持って現れた
「おや?目を覚まされましたか」
そう言って老人は持ってきた食べ物をクロトの前へと置いた
「その娘さんに感謝するのですぞ?彼女がずっとあなたの看病をしておったんですからな」
やはりヒョウカはクロトの看病をしてくれていたそうで
しかも寝ずにずっと看病し続けていたのだと老人は教えてくれた
「そうか・・・ならこいつが目を覚ました時に礼を言うとしよう・・・」
そう言いながらクロトはまだ眠っているヒョウカを見つめる
(・・・もう・・・俺を思ってくれる人間などいないと思っていたんだがな・・・)
国を失い家族を失ったクロトは本当に孤独だと自分で思っていた
だからこそ自分がどうなろうとも誰も何も感じる事はないのだと
しかしそれは自分の傲慢であったのだと今回の件で思い知らされた
ヒョウカはまだ出会って間もないはずのクロトにここまでよくしてくれたのだから
「・・・そういえばもう一人の・・・シンはどこにいるんだ?」
ここでクロトはシンの事を思い出し自分を運んだのならば彼もいるはずだと老人に尋ねる
「彼ならば君を助けてくれた礼だと言って村の手伝いをしてくれておるよ
若いもんはほとんどが帝都に行ってしまい儂等としてもありがたい限りじゃ」
どうやらシンはせめてもの恩返しに村の手伝いを行っているようで
老人の話ではだいぶ助けられていると嬉しそうに語っていた
「・・・そうか・・・女王の為にそんな危険を・・・」
クロトは助けてくれた老人にどうして自分が運ばれてきたのかを説明した
そして女王が教団に操られていてその洗脳を解く為にアジトに乗り込んだという事も
「・・・やはり女王は変わられたわけではなかったのか・・・」
すると老人はクロトの話を聞いて少しだけ安心したような表情を浮かべていた
「実はのう・・・ここはかつて皇帝と女王が婚礼の旅で立ち寄った場所の一つだった」
どうやらこの老人はその時に皇帝と女王に会った事があるそうだ
「その時はとても素敵なご夫婦でのう・・・
しかも儂等のような僻地に住み民にすら優しかった・・・
その姿を見てこの国も安泰じゃと儂等は大いに喜んだものじゃよ・・・
じゃが数年前に皇帝が亡くなって儂等も女王と同じように悲しんだ・・・
じゃから女王が変わられたという話を聞いた時も最初はその悲しみ故じゃと思ったが
そうか・・・女王はやはり昔の優しい女王のままじゃったんじゃな・・・」
老人にとってはまるで自分の事のように嬉しく悲しかった出来事が
女王を変えてしまったのだと思っていたがそうではないと知り涙を流して喜んでいた
だからこそクロトは何としても女王を元に戻したいと思っていた
国を失い家族を失ったからこそ彼らはまだ失うべき人間ではないと感じたからだ
「寝床と食事については感謝する・・・だがあまり長居をするべきではないようだ」
そう言ってクロトは老人の持ってきた食事を食べ終えて立ち上がろうとするが
足に力が入らずそのまま転んでしまった
「ん?クロトさん?!まだ寝てないとダメですよ!!」
そしてその音で目を覚ましたヒョウカにベッドに戻されて再び横になった
「そのお嬢さんの言う通りじゃ・・・医者の話じゃお前さんが掠ったのは
毒の中でもかなりの劇物で毒が抜けてもしばらくの間は体が言うことを聞かんそうじゃ
ちゃんと体が動けるようになるまではここで安静にしておれ
ここはどうせ帝国兵やその教団とやらが来るほどの価値がある村ではないからの」
老人が食器を持って部屋を後にするとクロトとヒョウカは沈黙してしまった
ヒョウカに関してはどうやって助けてもらったお礼を言おうか悩んでいて
クロトの方は女王が操られている原因をどう説明すればいいのかを悩んでいたからだった
「・・・あの!・・・助けて頂いて本当にありがとうございました!!」
先に意を決したのはヒョウカの方で頭を下げて助けてもらった事に対してお礼を述べる
「足手まといにはならないって約束したのに結局はあなたに怪我をさせてしまい
正直、王女としてはあなたに対して謝罪の言葉しかありません・・・
ですがその前にやはりお礼の言葉を言うのが貴方に対する礼儀だと思って・・・」
ヒョウカは謝罪の言葉よりもまずはお礼を言うべきだと考えたようで
その言葉を聞いたクロトはとても驚いていた
一人で生きてきたこの数年間で謝罪の言葉はあってもお礼を言われた事などないからだ
しかし家族と一緒にいた時だけはみんなにお礼を言われる事はあった
そしてヒョウカのお礼を聞いてクロトはそれを思い出して涙を流しそうになった
「・・・ヒョウカ・・・女王を洗脳した原因が分かった・・・シンを呼んできてくれ」
だが今は感情に流されている場合ではないと
必死でこらえてヒョウカにシンを連れてくるように告げる
そしてシンも部屋に入るとクロトは先ほどアジトで見つけた紙を見せた
それは一つの設計図であり描かれていたのは特殊な魔道具だった
「・・・これが・・・女王を洗脳した魔道具・・・!」
ようやくシンは女王の洗脳を解く方法が分かったと思い希望が見えたと思ったが
どうやら事はそう簡単にはうまくいかないみたいだった
「ああ・・・だがこの魔道具の厄介なところは洗脳し続ける事じゃなく
一回使ってしまえばそのまま洗脳が続くという点だ・・・」
それを聞いてシンと評価は言葉を完全に失ってしまった
つまりクロトの話では先ほど魔道具を壊したとしてもこれ以上の洗脳を出来なくなるだけで
最初から洗脳されている女王を正気に戻す事は出来ないという事だ
「どうにか出来ないのか?洗脳が出来たのなら解く方法だって必ずあるはずだろ?!」
シンはクロトに何か方法がないのか尋ねるがそれは思った以上に困難なようだ
「さっきも言ったがこれはいわゆる洗脳を続けるのではなく洗脳状態にするという事だ
魔道具を壊したとしても洗脳が解ける事はない・・・もしも洗脳を解く方法があるとしたら
それはおそらく女王自身は洗脳に抗うしかない・・・だが・・・」
クロトの考えではおそらく今の女王は夫を失った悲しみの中にいるはず
そんな状況で洗脳を自力で解くほどの精神力があるとはとても思えなかった
つまり教団の男はまさにその瞬間を狙って洗脳を施したのだ
(この厄介さ・・・おそらくは洗脳を解けないように他にも色々しているはず
だが・・・奴は一つだけその対策を怠っている・・・ヒョウカの存在だ)
もしも女王が自力で洗脳を解こうと行動させるには
おそらく娘であるヒョウカの呼びかけが必要だろう
だからこそクロトとしてはどうしてヒョウカだけは操らなかったのか不思議に思っていた
(ここまでくれば教団の男にとってヒョウカの存在はまさに目の上のタンコブだ
それでも洗脳しなかったって事は・・・もしかして出来なかったのか?)
もしも洗脳をしなかったのではなく出来なかったのならば話は大いに変わってくる
先ほどシンが言っていたように洗脳を解く可能性がたった一つだけ残っているという事に
「どうやらこの戦い・・・お前が最後の希望になりそうだな」
クロトはヒョウカに自分の考えを説明するとヒョウカは難しい顔をしていた
「・・・本当に母様は私の呼びかけに応えてくれるでしょうか?・・・
確かに昔は母様が大好きでとても愛してくれているのだと分かりました
・・・でも父が亡くなって母がその悲しみに囚われた時にその自信が亡くなったんです
もしかして母は自分の娘だから愛してくれていたのではなく
父様の子だったから愛してくれていただけではないのかと・・・」
どうやらヒョウカはもう女王が自分の事を愛していないのではないかと不安に思っているようだ
するとクロトはそんな震えるヒョウカの肩に手を置いた
「そんな事あるわけがない・・・たとえ誰の子であろうと親が亡くなっても
家族の絆が消えるわけじゃない・・・少なくとも俺はそう信じている」
クロトは家族を失ったが家族との思い出や絆を忘れた事は一度たりともない
だからこそ家族の復讐を考えたしその為ならばなんだってやってきた
「お前達はまだ生きているんだ・・・だったら家族の絆が必ず応えてくれるはずだ」
そして二人はまだ生きているからこそその絆が必ず道を切り開いてくれる
クロトはそう信じてヒョウカを説得すると彼女の目に光が戻る
「・・・分かりました・・・私が必ず母様を救って見せます!」
彼女の決意も決まりやるべき事も決まった
後はその目的に向かって一つずつ問題を片付けていくだけだった
一方その頃、帝都セッカの城では一人の男が教団の兵士から報告を受けていた
「そっそうですか・・・!れっ例の魔道具の事をかっ彼らも知りましたか・・・!」
兵士から報告を聞いたその男は苛つきながら自分の爪を噛んでいた
「なっならばおっおそらく次はじょっ女王の元に来るてっ手はずを整えるでしょう
たったった一つの希望であるおっ王女をたっ対面させる為に・・・!」
そう言いながら男の爪を噛む力がどんどん強くなっていく
「まっまさか王女にあっあんなにま魔法へのたっ対抗力があっあるとは・・・!
さっさすがの私もよっ予想外の出来事でとっ取り乱してしまいましたよ・・・!」
そして男はようやく自分の爪から口を離して宣言した
「でっですがそっその対策も万全です!こっ来れるものならばきっ来てみなさい!
わっ私はどっどんな手を使うひっ卑怯者のしょっ小心者・・・!」
「そっそう・・・わっ私こそがろっ六柱官の闇・・・とっ常闇のテブレスなっなのですから」
その言葉と同時に彼の前にあった不気味な巨人の目が光った
ようやく名が明かされた常闇のテブレス
果たしてシン達は彼の策を破り女王を助ける事は出来るのか?!