全てを忘れ讃える宴
最後に伏線が入ります!
城を後にしたシン達は未だに圧政から解放された広場にやってきていた
「すごい賑わいですね・・・もう爆弾から解放されて三日は経っているのに」
ララもその賑わいにもう三日も経っているとは思えなかった
しかし同時に彼らは無理に盛り上がっているのではないかという不安もあった
「彼らにとってはこの宴は死んでいった者達への手向けなのでしょう
失ったものが大きい分、一日で終わらせたくはないのでしょう・・・」
どうやらナオマサも同じように思っていたようで彼らは必死に堪えて笑っているのだと
「残念だがそれは少し違うな・・・死者だけじゃなく自分達の為にも宴をやってるんだ」
そこへいつの間にか後ろをついてきていたツガルが訂正を入れてきた
「死者を弔い悪い事は全て忘れていい思い出だけを心の中に残す・・・
みんなが今やっているのはそう言った宴なんだよ・・・」
ツガルの話ではこの宴は全てを忘れると同時に死者を讃える為のもの
だからこそ楽しまなくてはいけないのだ
死者との幸せだった思い出を胸に明日を生きて行く為に
「・・・思い出か・・・キタンのおっさんの墓は出来たのか?」
シンは思い出と聞いてキタンの墓がどこに作られたのかを尋ねる
たった数日だけの間柄だったがちゃんと弔いたいと思ったのだ
「ああ・・・あいつから直々に頼まれて俺達で作った墓がある・・・
あのおっさんがこの都市で一番好きだった思い出の場所にな・・・行ってみるか?」
ツガルからの提案にシンは無言で頷きキタンの墓があるという場所に向かう事になった
「今回の戦いは本当にひどいもんだった・・・家族を失った人間だって少なくはないし
なんだったらその瞬間に一緒に居られなかった人間だっている・・・
そして・・・教団とやらの恐ろしさを身を以て体験した事になるだろう
だからこそ俺達も出来るだけの支援をお前達にしてやるつもりだ」
歩きながらツガルは今回の一件で教団という組織がどれだけ恐ろしいものなのか
それを実感できた自分達もシン達の事を手伝うと心よく申し出てくれた
「着いたぜ・・・ここがあのおっさんが眠る場所だ・・・」
ツガルに案内された場所は外壁近くにある大きな丘の上で広大な海が目の前に見えた
「ここは俺もあのおっさんに連れてきてもらった事があってな
ここから見える夕日がめちゃくちゃ綺麗で大好きだって言ってたんだ
だから・・・ここをおっさんの眠る場所に決めた・・・」
どうやらここは夕日を綺麗に見る事が出来る場所らしい
キタンはその景色を気に入っていたそうだ
だからこそツガルもこの場所に彼の墓を建てる事を決めたようだ
自分が唯一教えてもらった世界一の夕日が見られるこの場所に・・・
「・・・しばらく来られなくてごめんな・・・
あんたに託された使命はちゃんと果たしたぜ・・・
だからどうか向こうで自慢してくれ・・・国を救った英雄なんだって・・・」
そう・・・今回の戦いで本当の英雄だったのはシン達と王を逃したキタンだ
彼が囮を引き受けてくれなかったら自分も王も今頃はトルビリオンに捕まり
それこそ命を奪われていた可能性だってあり得るのだ
それがこうして生きていられるのは他でもないキタンがいたからだ
シンはそれを向こうの世界で自慢して欲しいと祈った
「安心しろよ!キタンのおっさんなら今頃、向こうで旧友達に自慢しているはずさ
この国だけじゃない・・・この世界を救う救世主を助けたんだってな!」
ツガルはこの国だけではなくこの世界を救うであろう男を助けたのだと
向こうで大いに自慢しているはずだと笑顔で告げる
シンはその言葉を聞いてそれを本当の事にしなくてはいけないと戦う覚悟を一新した
「しかし・・・彼がいなくなってはこの国の警備も不安だな・・・
城にいたほとんどの兵士は教団に寝返った者達ばかりで
これから言う事を聞くとは思えないし人手も足りてはいないのだろ?」
ナオマサの言う通り反乱組織も解散してしまった今、国の警備はかなり手薄になっている
「ああ・・・だけど大丈夫だ!この海上国家には最強の海賊がいるんだからな!」
「・・・そうだったな・・・お前達がいる限りはここも安心か・・・」
ツガルの言葉を聞いたナオマサはそんな心配は無用だったと思い返した
彼らは王が捕まっていた時でもキタンと同じく反抗の意思を持ち続けた男
今更どんな敵が来たとしても怯むような事はないだろう
「それよりも一番の問題は・・・牢にいるあいつだな・・・」
真剣な表情をしながらツガルが最も危険視していたのは
他でもない牢に囚われの身となったトルビリオンだった
彼は策に長けた人間であり買収やら何やらで牢を抜ける事も容易いだろう
だからこそどんなに時が経ったとしても警戒を怠る事が出来ないのだ
「いや・・・おそらくだがその心配はしなくてもいいと思いぞ?」
しかしナオマサは彼が牢に囚われる瞬間を見てその心配をしていなかった
「あいつはシンの逆鱗に触れてあいつの本当の力を垣間見る事になった
それはもはやあいつの策ではどうしようもないほどの力をな・・・
今のあいつはもう心すらも残されていない・・・ただの抜け殻だ」
今のトルビリオンはシンによって策もプライドも全て壊されてしまった哀れな抜け殻であり
そんな彼がこれ以上の悪行を犯せるほどの気持ちは残っていないだろう
「だがあいつを奪い返しに教団の奴らが攻めてくるんじゃないか?」
ツガルはたとえ戦う意思が残っていなかったとしても教団の幹部には違いなく
もしかしたらトルビリオンの仲間が奪い返しにくるのではと危惧していた
「私も最初はそれを考えていたが・・・その可能性はかなり低いと思っていいだろう」
どうやらナオマサも同じ事を考えてはいたようだがすぐにそれはないと判断したようだ
「前にも彼らの捕虜を捕らえていたが・・・あの怯えようからして
失敗は・・・死を意味しているのだろう・・・幹部だろうと同じくな・・・」
ヴァンカンスで現れた教団の仲間を捕らえていたらしいのだが
事情を聞こうとしても怯えて何も話そうとはせず心が壊れているようだった
その事からナオマサは彼らにとっての失敗は死を意味しているのだと判断した
「そこまで徹底しているとはな・・・教団・・・一体どんな組織なんだ?」
ツガルもそれを聞いて改めて教団の闇は底知れないと恐怖していた
「私も分からん・・・友と思っていたあいつもいつから所属していたのか・・・
そして奴の裏にいる黒幕の正体は・・・本当に謎だらけだ・・・」
今まで名前すら聞いていなかったのにその勢力は国をも上回る
しかも幹部ですらリーダーの姿はおろか名前すら知らないという徹底ぶり
そして失敗を死を意味するほどの恐怖で手下を支配している非道さ
これほどのものを全く知られなかったほどの徹底した情報操作
挙げればきりがないが教団の力はおそらく全ての分野においてどの国よりも上だろう
だからこそナオマサの中では一つだけ腑に落ちない点があった
(どうして彼らは国を力づくで奪うのではなく内部から支配しようとしているんだ?
教団の力を持ってすればそちらの方が簡単なはずなのに・・・)
先ほどの言ったように教団の力はどの国よりも遥かに上にも関わらず
力づくで国を奪おうとはしておらず中からの支配を望んでいる
その理由についてナオマサは疑問に思っているようだった
そしてもう一つの疑問・・・それはララを必要とする理由だ
(確かに姫様は生まれながらに魔法を使える魔法使いだが本当にそれだけが目的か?
前に戦った疾風のヴェストは生贄にする為だと言っていたが・・・何の生贄なんだ?)
ララを生贄にするという話はシン達から聞いてはいたのだが
問題は一体何の生贄としてララを捧げようとしているのか
そもそもそんな人を生贄にするような儀式などナオマサは聞いた事がなかった
(つまり・・・表には伝わっていない何かを教団は知っているという事か・・・
本当ならばトルビリオンからもっと情報を聞いておきたかったんだが
彼らの徹底ぶりからしてみても肝心な事は知らないだろうな・・・)
本来ならばナオマサの疑問を解決してくれるはずのトルビリオンという存在がいたのだが
おそらくは彼であっても詳しい話を聞いているわけではないだろう
「何をしているのですか?早くしないとみんなに置いていかれますよ?」
そんな考え事をしているといつの間にかみんなから遅れていたようで
ララの言葉を聞いてナオマサは急いで後を付いていった
一方その頃、アルブレ王国の王都セヤギの城では
「どうやらトルビリオンが捕まったそうだ・・・あの巨人とその乗り手・・・
思っていた以上の力を持っているようだ・・・警戒する必要があるな」
フェウは改めてディパシーとその乗り手であるシンを警戒する必要があると判断していた
『フォフォフォ!確かにトルビリオン殿の策を破るほどの実力・・・
どうやらあの刺客を退けただけはあるようですな〜・・・』
前に話をしていた老人も水晶越しにその実力を改めて認めていた
「どうやら本格的に出番が回ってきそうだな・・・例の改造はどうなっている?」
フェウは自分のところまで来るのも時間の問題だと思っており
その準備がどうなっているのかを尋ねる
すると水晶の画面が変わり今度は太った男が映し出された
『後もう少しで完成って所なんだな
そいつらの進み具合から考えると十分に間に合うんだな』
どうやらその男がフェウの準備を進めている作業員のようで十分に間に合うと告げていた
「そうか・・・ならば今度こそ・・・この手で引導を渡すとしよう・・・!」
それを聞いてフェウは今度こそ逃しはしないと獰猛な笑みを浮かべていた
『その前に僕のところに来るはずだからその時に潰してやるんだな
てかそれよりも次に回ってくるのは常闇の方なんじゃないかな?』
しかし画面に映し出されていた男の話では次に出会うはずなのは常闇と呼ばれる人物らしい
「ああ・・・奴は教団の中でも随一に外道・・・果たしてどんな事になるのか・・・楽しみだ」
スフェスでの宴を終えていよいよ一行はフェルミに向かう!