疾風のヴェスト
人が死んでしまう話になるので苦手な人は気をつけてください
「キャラバンの襲撃・・・それならばここに護衛を残した方がいいかもしれませんね」
ララの予知夢を聞いてナオマサはこのキャラバンに護衛を残すべきだと考える
しかし全戦力を向かわせたとしても勝てるかどうか分からない相手なので
あまり戦力を減らしたいとは思っていなかった
「・・・姫様・・・できればその夢ではどれほどの戦力で襲撃されたのか分かりませんか?」
なのでララに予知夢の詳しい内容を聞いて襲撃はどれほどの規模なのか確認する事にした
「・・・すいません・・・詳しくは分かりませんが・・・巨人がいました・・・
見た事のない巨人が・・・一体・・・それしか見ていません・・・」
どうやらナオマサが考えている以上に最悪な襲撃になるみたいで
どうあっても戦力の半分は削らないと対抗できないみたいだ
(おまけにシンはまだこちらに帰ってこれていない・・・
巨人の相手が出来るのはあいつだけだというのに・・・!)
そして一番問題なのは巨人の唯一相手が出来るシンが未だに姿を見せていないという事だ
巨人が攻めくるというのならば尚のことここにいてほしいのだが
未だに姿を見せていない彼がそんな事を出来るとは思えない
「・・・とにかく私はこの事をヴァンカンス王に伝えてきます・・・
姫様はここでシンが帰ってきたら先ほどのお話を聞かせてください」
自分一人で考えていても仕方ないと思いナオマサは国王にこの事を聞かせる事にした
ララもどうにか出来ないかと思いながら歩いているとカライがツムジと話している姿が見えた
(そう・・・彼女はカライ王子にとってとても大切な人なのですね・・・)
その様子を一目見ただけララはどれだけカライが彼女の事を想っているのか理解できてしまった
だからこそ今のララは罪悪感でいっぱいになっていた
「・・・やはり・・・伝えないといけないですね・・・」
そして意を決したのかゆっくりとカライの元へと向かっていく
するとちょうどよくカライも彼女との会話を終えてララに気がついた
「どうしたんだ姫さん?もしかして激励にでも来てくれたのか?」
「・・・カライ王子・・・どうかこのキャラバンに残ってください・・・」
「でないと・・・彼女は死んでしまいます・・・!」
「・・・えっ?・・・」
突然の事でさすがのカライも何を言っているのか理解できなかった
いや・・・理解したくない事実だったと言った方がいいだろう
「そっそれって・・・一体どういう・・・」
しかし確認しないわけにはいかないのでゆっくりとララに先ほどの言葉の真意を聞く
「・・・おそらく今日・・・このキャラバンが襲撃を受けます・・・
相手は巨人・・・そしてその巨人が暴れて・・・彼女は巻き添えに・・・」
そう・・・ララははっきりと見てしまったのだ
彼女が死んでしまうまさにその瞬間を・・・
「・・・そんな・・・バカな・・・?!」
あまりの真実にカライは膝から崩れ落ちてしまう
そんなカライの方ににララは優しく手を置きながら先ほどの言葉の理由を告げる
「だからこそ王子にはここに残ってほしいのです・・・彼女を守るために・・・!」
ララが見た夢は間違いなく未来を予見しているものだと言っていいだろう
だが変えられない・・・確定してしまっている未来というわけではない
彼女の予知夢はあくまでもその時に起こる最悪の未来を見るというもの
それが起こってしまうかどうかはその時の状況や人々の行動で変わる事になる
だからこそララはカライにその未来を変えて欲しいと思いこの事を教えたのだ
「・・・本当に守れるのか?・・・そんな未来から・・・あいつを・・・?」
その言葉を聞いたカライは本当に自分が彼女を守る事が出来るのか疑問に思っていた
それはおそらく自分の力による限界を知っているからこその言葉だろう
「それは私にも分かりません・・・ですが変えられない未来なんてないはずです・・・
どうかご自分を信じて・・・限界を・・・越えてください・・・!」
今のララに出来る事・・・それは嘘偽りを言う事ではなく真実を話し
それでもカライならば出来るはずだと背中を押す事だった
それがおそらくカライにとって一番いい事なのだろ信じて
「・・・わかった・・・あんたの言う事を信じて必ず・・・未来を変えてみせる・・・!」
「・・・それでは我々は本隊を連れてアデムを奪還しに向かいます・・・
どうか姫様もご無理をなさらないように・・・テンテコ!マイマイ!・・・任せたぞ!」
ナオマサ達は国王とその配下達を連れてアデムの奪還に向かった
本当ならば襲撃をされるキャラバンに残りたかったのだが戦力が足りないのであれば
そんな単独行動をするわけにもいかず本来の予定通りアデムの奪還部隊に加わったのだ
それに先ほどララとナオマサは話をして
カライが必ずこの襲撃からみんなを守ってくれるはずだと話していた
その時の瞳には強い決意のような目をしておりそれを信じずにはいられなかった
(・・・シン・・・早くお前が合流して・・・姫を守ってくれ・・・!)
そしてもう一つの希望であるシンも信じてナオマサはアデムへと向かった
そんな背中を見送りながらララは人々を集める事にした
もちろん自分が見た予知夢でここが襲撃されるという事を教える為だ
ララの話を聞いた人々はもちろん驚き恐怖したがすぐにララが落ち着くように告げ
ここから離れた場所に非戦闘員を逃す事を説明する
しかし敵いつ現れるのかまでは分からないのでなるべく迅速にするように
まずはお年寄りや子供などを最優先に避難させていく事になった
(だが・・・それでもやはり一度に移動させる事が出来るのは十数人だけだ・・・
それ以上になるとこの砂漠じゃ人に見つかっちまう・・・!)
問題は時間がないにも関わらず慎重さも必要になるので
移動する人数が限られてくるというところだった
これではいくら迅速というものを掲げても時間を掛けてしまう
それでも今の状態ではこれ以上にいい作戦はなくこのまま続けるしかないのだ
(・・・どうか・・・皆さんが避難が終わるまで・・・!)
ララは避難指示を出しながら心の中でみんなの避難が終わるまで襲撃が来ないようにと祈っていた
それは他のみんなも例外ではなくおそらくここにいるすべての人間がそう祈っていただろう
・・・しかしその祈りは虚しくも通じず彼らに絶望が襲いかかった
『おやおや・・・俺の行動を予測して先に避難指示を出していたのか・・・
確かにいい判断ではあるが・・・残念・・・どうやら一歩遅かったようだな?』
「「?!!」」
謎の声が聞こえてきて上を向くと
そこには巨大な影がありそれがゆっくりとキャラバンの上に降ってきた
『やぁやぁ皆さん初めまして・・・俺の名は疾風のヴェスト・・・!
そしてこいつこそが俺の愛機でもある・・・スプリンツである!』
緑色をしたその巨人が長い槍を持っておりそれを大きく振るいながら地面に叩き付けた
『これより・・・君達の処刑を開始させてもらおう・・・!』
そう言ってスプリンツは槍を人々に向けて振り下ろそうとした
しかしその前にララが立ち塞がるとその槍は彼女の寸前で止まった
『これはこれはお姫様・・・!まさか自ら民の盾になるとは勇ましいですな〜?
それで?一体どういうおつもりで我が前に立たれたのですかな?』
まるで挑発するかの如く話してくるヴェストの対してララは悠然と立ち向かった
「・・・あなたは言っていましたね・・・私の能力が必要なのだと・・・
ですがそれはあくまでも私が生きていればの能力ではないのですか?
ではもしも・・・私が死んでしまい能力を失ってしまえば・・・どうなるのでしょうね?」
そう言ってララはどこからか取り出したナイフを自分の首に当てる
『・・・なるほど・・・ただのお姫様と侮っていましたが
・・・まさかそこまでのお覚悟があるとは・・・』
どうやらこれはヴェストにとっても予想外の行動だったようで
動きを止めて静観するしかないようだ
「もしも民を攻撃しないと約束するのならばこのナイフを下げてあなたと一緒に行きましょう
しかしあなたが民を攻撃した瞬間に・・・私は自らの命を絶ちます・・・!」
まさしく一国の王族が担う覚悟がそこにはあり
これにはヴェストといえども無視できないものがあった
『・・・いいでしょう・・・では民には絶対に手を出さない事をお約束しましょう・・・』
その言葉を聞いてララはどうにかこの場を退ける事が出来たと思っていたが
『・・・ですが・・・それ以外の方には死んでいただきましょうか!』
「っ?!しまった!!」
ヴェストはララの前から消えると避難誘導をしていたカライへと向かった
それにすぐに気がついたが巨人と人では体格差が違い追いつけるわけもなく
そしてカライもまた気づくのに少し遅かったからなのか体が動かず自分の死を覚悟すると
「え?」
いつの間にか自分の体が誰かに押されている事に気がつき
目を開けるとそこには手を逃して自分を突き飛ばしたツムジの姿があった
彼女の目から涙が流れておりこの後に何が待っているのにも気がついて手を逃すが
「・・・さようなら・・・カライ・・・」
それでも届かず・・・彼女は槍の餌食となった
「そんな・・・ツムジ・・・ツムジィィィィィ!!!」
彼女の死はカライにとって受け入れられないものであった
「そんな・・・そんな事って・・・!」
他にもその死を見ていた全ての人間にとってその死はとても辛いものだった
しかし・・・たった一人だけはその死を別の意味で捉えていた
(・・・何とか・・・見えた・・・!見る事が出来た・・・!!)
手は届かずどんなに全力疾走しても間に合わず彼女の死は避けられない事だと分かっていた
しかし・・・彼女が死ぬ瞬間を見る事は出来た
今のシンにとってはそれだけで全てを変える事が出来るのだ
「跳べ!ディパシー!!」
カライの身代わりとなって死んでしまったツムジ
しかしその瞬間を見る事が出来たシンは過去へと跳ぶ!