砂塵の中に潜みしもの
今回は人での戦闘があります
一行の会話に混じってきたのは先ほど話に出ていたカライだった
しかも先ほどとは違い今度はちゃんと護衛の人も連れていた
「えっと・・・話に混ぜてもらうって・・・もしかして王子も魔物退治に参加すると?」
一国の王子ともあろう人がそんな危険に足を突っ込むわけがないと思いながら
先ほどまで会話していた王子の印象を思い出してもしかしてと確認してみると
「ああ!どうやら俺も急いで家に戻らないといけないみたいだからな
先ほどの話を聞くに君らの国で起きた反乱と
今まさにこの国を金で動かしていると男は競合している
そうなればうちの国だって絶対に安心とは言えないんだ」
確かにカライの言う通りただでさえ内部分裂を起こしそうになっているのに
ここからさらに王国側から騎士団が攻めてきてしまったらあっという間にこの国は滅ぶだろう
「・・・お話は分かりました・・・ですがこちらも情報を集めるに魔物は大型・・・
それこそ巨人が必要になってくるはずですが・・・そちらの戦力は?」
ナオマサは冷静に状況を分析しながらカライ側の戦力がどれほどなのかを確認する
「生憎だが戦力と呼べるのは後ろにいるこの護衛の二人だけだ
こんな事になると思わずに出てきたツケってところかな?」
しかし残念ながらカライ側の戦力は護衛の二人だけでありしかも巨人は使えないそうだ
(・・・やはり魔物との戦闘はシンに任せるしかないのか?
だがあいつはこの前の敗北から体力が回復しきってない・・・
おまけに巨人を乗って間もないのに足場の悪い砂漠で戦うとなると・・・)
状況としては明らかに不利でありナオマサもこのまま攻めるべきか悩んでいた
「ですがこちらには魔物に関する詳しい情報があります
現れた魔物はなんでも巨人よりも数倍大きい体を持っているようで倒すのは無理です
ですが砂漠の下にある地下洞窟で体を休める習性があるようで
その時に体から生えている触手を全て斬り落とせばしばらく冬眠状態になるそうです」
そこへ護衛の人が魔物に関する詳しい情報を教えてくれナオマサは勝利を確信する
「ならばすぐにでもその地下洞窟へ向かう必要がありそうですね・・・
姫様はどうなされますか?ここでお待ちになっていた方が安全ですが・・・」
ナオマサはララに魔物を退治しに向かう間、どうするのか確認する
正直な話をするのならば付いてきても来なくても危険な事に変わりはなかった
一緒について来れば魔物に襲われるのは確実であり
ついて来なくてももしかしたらここに騎士団の手先が来る可能性もあった
「・・・私はここに残ります・・・この子達もいますから」
しかしララもそれは分かっており
テンテコとマイマイの二人と一緒に待っているという選択をした
「ならウチの護衛を一人だけ残していくよ!魔物の討伐には俺も行かせてもらうからな!」
するとナオマサの心配を察したのかカライは自分の護衛を一人だけ残してくれると言ってくれた
そして自分もその魔物退治に参戦するとまで宣言していた
「えっと・・・先に聞きますけど危険だって分かって言ってますか?」
シンはそれがどれほど危険な事なのか本当に分かっているのか確認すると
「もちろん分かっているさ!でも俺だって一応は国の王子として武術は学んでいる!
そこらへんの兵士よりも腕は立つと自負しているぜ?」
カライの自信満々な姿を見てシンは本当に大丈夫なのか護衛の人に視線で確認すると
苦笑いして諦めてくださいと言われているような気がした
(・・・向こうの人も苦労してるんだな〜・・・まぁいいけど・・・)
護衛の人が日頃からどれだけ苦労しているのか感じながらシン達は魔物退治の準備をする
「・・・そういえば気になっていたんだが・・・シンは誰から剣を教わったんだ?」
するとその準備をする中でナオマサがシンの剣術について聞いていた
「亡くなった祖父ちゃんから教わったんだよ・・・
なんでも昔は騎士団長を務めていたんだってさ」
シンの言葉を聞いてすぐにナオマサはその人がリンジュであると悟った
(そうか・・・こいつの剣に見覚えがあると思ったがまさか師匠の孫だったとは・・・)
一行は魔物退治の準備を整えると魔物がいる地下洞窟へと入れる場所まで来ていた
「まさかオアシスのすぐ近くにあるとは・・・よく今まで襲われなかったな?」
なんとその場所は先ほどのオアシスからかなり近い場所にあり
どうして今まで襲われなかったのかシンが不思議に思っていた
「この洞窟の中にいる魔物は太陽の光を嫌うものばかりだからな
間違って入ろうとしない限りは襲われる事なんてないのさ
まぁ・・・例の魔物は問題外だけど・・・この穴じゃ小さくて出られないしね」
確かにカライの言う通り入り口は成人男性がやっと入れるぐらいの大きさであり
噂の魔物が出入りできるほどではなくここから出てくる事はないのだろう
「ここからはしばらく一本道ですが広い広場に出るとそこからは小型の魔物も現れます
一応は近くまで来たら合図しますがいつでも戦闘できるように構えておいてください」
護衛の人の話ではどうやらこの先には小型の魔物が潜んでいるようで
それらが襲ってくる可能性もあるから常に臨戦態勢でいるように告げられた
(確かに気配からして弱いけどかなりの数がいるみたいんだ・・・
もし地上に出てきたらと思うとぞっとするな・・・)
シンもその気配は感じ取っているようで
よくもこれだけの数が人里の近くにいるなと恐怖していた
「・・・聞きたい事があるのですが・・・
どうしてここを埋めてしまおうと考えないのですか?」
ここでナオマサがどうしてこの場所が今も手付かずになっているのかを尋ねる
たとえ襲われる心配がなかったとしても魔物がこれだけいるのだから
国といては何かしらの対策をするべきではないのかと思ったようだ
「あの魔物がいて手を出しにくいというのもありますが・・・
やはり最大の理由はここが初代国王の墓だからでしょうか・・・」
すると護衛の人が二人にとって最も驚く真実を告げてきた
((ここが・・・初代国王の墓?!))
「国王の墓が魔物の巣になってるって・・・それこそ問題じゃないのか?」
シンは国王の墓がこんな状態になっている方がより問題になるのではないかと尋ねるが
「まぁな〜・・・でも見つかった時からこんな感じだったし下手に魔物退治したら
全部纏めて壊さなくちゃいけないから表向きは公表してないんだ」
どうやらここは長らく埋もれていた所為で魔物が繁殖していたようで
見つかった時からすでにこんな状態になっていたそうだ
だからこそ魔物の巣である事だけを世間に発表し
例の魔物がここを守っていると説明したそうだ
「実際問題・・・国王の墓ってのを無視してもあの魔物は想定外さ・・・
この洞窟が見つかった当初から存在し様々な巨人が相手をしたけど
完璧に倒す事は叶わずむしろこちらの被害だけが一方的に増えていく
あれと戦うなんてもはや水に油を入れるようなものなのさ」
しかしそんな嘘を抜きにしても例の魔物の存在は大きく
どうにかしようと思っていた国としても諦めるしかなかったそうだ
「・・・本当にそれでいいのかよ・・・あんたは・・・」
シンはそんな風に告げるカライの態度に対して心配したのか本当にこれでいいのか尋ねる
「俺は別に構わないぜ?確かに国を作った先祖の事を尊敬しているが
だからこそ望んでいるのは自分の中を取り戻す事じゃなく民の安全だって分かってるからな」
しかしカライは先祖の事を尊敬しているからこそ彼らの願いが
墓を取り戻す事ではなく民の安全だという事を理解していた
「・・・そうか・・・ならそれも俺達の代で終わりにしよう・・・!」
するとシンはその不毛な思いもこれで最後にしようと告げる
「どうするつもりだ?話ではあの魔物を倒すのは不可能に近いんだぞ?」
ナオマサはそんなシンにどうやってその魔物を倒すつもりなのか聞く
「さっきから聞いてて思ったんだけどさ・・・
もしかしてその魔物って本体が別であるんじゃないか?」
そしてしばらく歩きながら魔物を倒していきいよいよ巨大な魔物がいる場所までやってきた
「・・・確かに大きいな・・・街一つは飲み込んでしまいそうだ・・・」
シンは目の前で眠っている巨大なワームの姿をした魔物を見ていた
「では手筈通りに私とナオマサ殿でこちらに誘導します
その間に王子とシン殿は魔物の巣へと向かってください・・・!」
護衛の人から指示を出されてシンとカライは魔物に見つからない場所へと隠れる
それを確認するとナオマサと護衛の人はワームから生えている触手を切り裂く
その痛みでワームは起きると同時に自分の外敵である二人を発見する
「そうだ!こっちに来い魔物!!」
ナオマサはだめ押しと言わんばかりにもう一本の触手を切り裂き
ワームは完全に目の前にいる二人を敵として認識し襲いかかる
「作戦通りになったな・・・!このまま一気に逃げるぞ!」
それを確認すると二人はすぐさまワームの巣とは反対方向へと逃げていき
その姿が見えなくなると同時にシンとカライはワームの巣へと入っていく
「ここからは時間との勝負だからな・・・急がないと・・・!」
二人は急いで巣の中を駆け抜けていくと大きな広場に出て
そこの天井にはワームと繋がっている光る丸い物体を発見した
「やっぱり・・・これが本体だったってわけか・・・!」
そう・・・そしてその丸い物体こそがワームの本体であり弱点でもあったのだ
すると二人に気がついたのは丸い物体から触手が生えてきて二人を攻撃する
「くっ?!どうする?!あんなに高い場所にあっては攻撃なんて届かないぞ?!」
ここで誤算だったのがその本体がある位置だった
明らかに人の手では届かないほど高い場所にあり
カライの持っている槍を投げても届かないだろう
「だったら・・・届く位置まで上がればいいだけだ!」
何を思ったのかシンは剣をしまいカライの掴んで光る物体へと投げ飛ばした
「ちょっ?!俺王子様なんだけど?!ああもういい!!」
投げられた事に文句を言いながらもカライは空中で態勢を整えて
光る物体に向かって槍を投げた
態勢が不十分だったにも関わらず槍は見事にまっすぐ飛んでいき光る物体を貫いた
その瞬間に大きな声を上げながら魔物は消滅していきそれに繋がっていたワームも消えていった
「ハァ・・・なんとか勝った・・・」
砂漠の魔物を退治していよいよ一行はアデムへと向かう