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始祖の龍人  作者: どらっご
1章 少女と神龍
7/7

7話 龍との対峙


(早いな)


建物の屋根を飛び飛びで移動しながら呼び声の発生源と思しき闘技場エリアに向かっている雨愛。だが、龍の到着の早さを不審に思っていた。

何かがある。そう考えて間違いない。

そもそも龍が飛んでくるところを見ていない。なのに呼び声から突然現れた。


小型の龍なら見えないところから現れたのかもしれない。


とは言ってもまず呼び声が発生すること自体稀有なため彼女自身もこんな経験はほとんどないが、その稀なときでもどこかしらから龍が向かっているところは確認している。


考えていると闘技場エリアの縁にたどり着いた。崩れた中残った外壁の上に乗る。

ちょうどここからは闘技場の惨状が見渡せる。

時間軸的には喰われそうになった少年を助けた少年が風を纏った龍と対峙し、戦闘に入ったところだった。


「水の龍…?あんな目立つのが来るところも見えなかった。おかしいな」


ますますどこから来たのか分からない。

転移によっての出現を考えたのだが例え龍族でも転移能力を持ち合わせている個体はいなかった。

ましてや付与する存在など知らない。


(とりあえず状況把握だ)


再び跳躍して、さらに高所からしばらく様子をうかがうことにした。

目も当てられない有様だった。

どうやら龍相手に必死に応戦している奴がいるようだ。

少年の攻撃はまるで効いていない。傍からみればオトモダチを助けようとして命を投げ捨てようとしている馬鹿だ。

それの証拠に水龍は攻撃されている前脚を痒いものをを払うように動かしただけで少年を吹き飛ばし、壁に叩きつけた。


「か…はっ」


それでもなお少年は動こうとする。

常に1人で戦ってきた雨愛には彼の行動が理解できない。呆れて仕方がない。


「負けるわけには…やられるわけには…」


愚者か勇者か。

どう見ても前者だ。


そんなにオトモダチが大事ならわざわざ攻撃して気を引かずに息をひそめて他の何かに擦りつけて逃げればいいのに。

人の考えていることは分からない。

聞く気もない。


「死んだな、アイツ。おつ」

「雨愛ちゃん!」


高所で鼻で笑っていたらいつの間にか追いつかれていたらしい。華奈の大声が背後から飛んできて一瞬落ちそうになった。慌てて追いかけてきたのかものすごく息が荒い。


「何!?耳が痛い!」

「それはごめん!急に飛び出していくものだから何かと思ったら凄いことになってて…何をしてるの?人助けは?」

「人助け、ね…。今アイツがやってるよ」


ほら、と嘲笑いながら指さして示す。そこにはボロボロになりながらもトモダチを守るため奮闘する少年。


「まあアイツが倒れたら行くかもな。あたしはあの水龍がなんでゼロタイムでここに現れたかの理由が知りたいだけ。あ、あの龍は見た感じ殺せなくはないよ。いつも通りギリギリ討伐」

「それって…あの人は死んでもいいってこと?」

「言ってなかったか。そうだよ。あたしアイツ知らないし」

「どうして…?」

「どうしてって。逆になんであんな赤の他人を命の危険を犯して助けようと思うわけ?いちいちそんなことしてたら命が何個あっても足りる訳ないじゃん」

「そんな…薄情者!スカウトされた身なんでしょ!?」


薄情者。そう言われた時雨愛は戦場を知らない目の前の少女に対し怒りを感じた。

確かに冷たい対応だろう。だが華奈にとっても赤の他人の相手になぜそこまで必死になるのか知らないし、スカウトされたからと言ってそこまでヒーローじみたことを押しつけられる義理がない。


そして何より。


「お前さ。舐めてんのか?」


剣を抜いて華奈の胸に切っ先を突きつける。

さっきと異なり、雨愛の眉間に大きなシワが出来ていた。


「何にも知らないくせに!自分じゃ何も出来ないからって人を動かそうってときの口だけは達者だな!華奈!お前がここにいるのが不思議なくらいだ!!現実舐めすぎなんだよ、殺してやろうか!?」


グッと力を強めて押し付けると少し反発する感覚とともに華奈の服が少し赤く滲む。同時に華奈の顔がゆがむ。恐怖によるものだろう。


「龍族は強いんだよ!人間が蟻をゴミみたいに殺せるみたいに奴らは人をそう扱う!好きなときに荒らし回って!好きなときに殺して!好きなときに何もかも奪って!いくら龍を殺せるからってスカウトされた身だろうが余裕で勝てるわけじゃない!こっちもギリギリなんだよ!たまたま勝ち続けて生き延びてこれただけで運が良かっただけだ!」


あの時。全てを奪われた時、空耳かも知れなかったが龍の一頭がこう言っていた。「雑魚を虐げ蹂躙することほどの娯楽はねぇな」と。

それから彼女の心の奥底は憎しみで埋まった。憎くて仕方がない。誰とも知らない奴の娯楽のために自分達は殺され奪われたのか、と。

その憎しみを糧に自身の死の危険を顧みず過剰に鍛えた結果1人で龍を殺す力を手に入れた人間。それが雨愛という女だ。


ちなみに尽きぬ憎悪を原動力にして龍を殺すため、彼女が殺したほとんどの龍の死骸は、四肢をもがれ、翼を切り落とされ、頭に何箇所かの刺し傷があったりなど様々である。



「それでもお願い…助けて……」


しばらく待って華奈が絞り出した声は非常に弱弱しかった。


「そんなに強いんだったら救える命だってあるでしょう…?確かに私は弱いよ…龍と戦うどころか剣を振るのですら手が震える…。常に恐怖を抑え込んで一人前の戦士になるために頑張ってる…!けどやっぱり弱い」

「やっぱり舐めてんだろ…!」


見限って剣を貫通させようとした刹那。


「でも私と違ってあなたは力がある!」


手が止まった。

華奈の頬を涙が濡らしていた。


「恐怖を知って、奪われた気持ちも分かって、それを覆せる力があるあなたなら!それで何かを守ることだって出来るはずなの!」


震えた声で華奈が叫んでいる。これはきっと心からの叫び。


何が違ったんだろう。

憎悪に支配されて生きて、殺すために力を得て、それは人なのか。

いや、お前は人じゃない。悪魔だ。


華奈は自分に突き立てられた剣を掴んだ。力んでいるせいか血が滴っている。


「私が気に入らないなら、一思いに貫いて!この奥の心臓を壊して私を殺してから進んで!そうじゃなきゃ私は退かない!」


何が華奈を必死にさせる。

何が雨愛の手を前に進めるのを止めている。


邪魔。消えるか、死ね。

そう切り捨ててこなければ生き残れなかったじゃないか。

だが何かが違う。ここで切り捨てる選択をすれば一生後悔するかもしれない。

雨愛が柄から手を離すと華奈も手を離し、剣が地面に落ちた。

信じられないという顔の華奈の頬を雨愛は叩いた。


「情けない。本ッッ当に情けない。お前、戦士に向いてねぇよ」

「好きなだけ言って。だからお願い。あの人を、ここを救って…」


華奈は頭を下げた。


「はあ…」


雨愛は首を横に振った。

華奈の胸からツーっと血が流れている。思ったより突き立て過ぎたようだ。少し申し訳ないことをしたかもしれない。


「ああもう。寝てるときのお守りもしてくれてるみたいだし、借りがあるんだった」

「え」

「負け。水龍の相手はあたしがする。怪我人の運びはお前がやれ。それくらいやってみせろ」

「え、え?」

「あたしは龍の相手は出来る。だけど人は救えない。だから救出はお前に任せるって言ったんだ。やれ。それすら出来ないならもう消えろ」

「あ、うん、了解…!」


了解の「い」が終わるや否や雨愛はその場から飛び出していった。


「あと早いとこ胸止血しとけよ!」


と残して。


「……あなたにつけられた傷なんだけど」


傷を押さえながら華奈は呟いた。





蟻が人を噛むような微弱な攻撃を続けていた少年に対し遂に水龍が敵意を示しその顎でかみ砕こうとしたとき、物凄い重い音と共に水龍の顔面を横から蹴り飛ばした影が突然現れた。


「!?」


見たこともない少女だった。

女の子なのに、少年が全力で攻撃してもびくともしなかった相手を吹っ飛ばした。


着地した少女は少年を見るや、


「チッおい!立てボケ!お前のせいであたしは今超絶不快なんだよ!さっさとどっか行け!」

「なっ…でもその龍は…!」

「消えろ!」

「え」


何か言い返そうとしたが、すぐにまた新たな少女とその他数人が現れて少年をささっと回収していった。


それを見送った少女、雨愛は起き上がった水龍に視線を戻す。

龍を見上げた雨愛は本当に不快そうな顔をしていた。


「なあお前。どっから来た?その顔ほんと腹立つんだよ」


剣に手をかけ消えるように駆け出した雨愛は手始めに水龍の死角に入り1枚翼を切り落とした。


ギェッと呻き声をたて、慌てて視線を合わせた水龍は彼女の異変に気がつく。

雨愛の両眼が尾を引くように赤く発光していたのだ。


それから雨愛は神速で水龍を圧倒していった。

前脚を切りつけ、尻尾を切り落とし、翼を切り裂いていった。

その間水龍も能力を駆使して抵抗していたが雨愛はそのほとんどを避け、避けきれない部分を強引に剣で切り裂いて、それでも防げない部分は受けて肉薄し続けて水龍への斬り傷を増やしていった。


そのせいで雨愛の体の各所に少しずつ傷が増えて血が滲み出すがまるで痛覚がないかのように彼女はひたすらに水龍への攻撃を続けた。狂気の域に達していた。


さすがに命の危険を感じたのか咆哮を轟かせ、目を見開いていたが、その目に剣が突き刺さった。


水龍は痛々しい悲鳴をあげ、地面に倒れ込んだ。


「痛いよなぁ!!分かるか?!これがお前たちに全部を奪われた女の恨みだぁ!!」


剣で斬りながら目から引き抜き、返り血を少し浴びた。

赤く発光していた目は炎が燃え上がるかの如くその光を強くしていた。


死んでたまるかと言わんばかりに立ち上がった水龍だが、すでに受けていた傷と片方の視界の喪失が響いているせいで最初ほどの動きのキレは完全に失われていた。

その状態の龍など、彼女にとってはただの的。

とりあえず一本の脚を切断した後、首の横に立ち剣を構える。


「憎い、憎い!お前たちの全てが憎い!殺してやる!!滅ぼしてやる!!」


それはまるで憎しみという糸で動く操り人形のような異様さだった。


一閃。

振り払われた剣は吸い込まれるように水龍の首の鱗を砕き、皮を切り裂き…。


目が合った。水龍は泣いていた。

悪魔を見るような、恐怖の目だった。


(なんでそんな目であたしを見る。あたしは人間だ。悪魔な訳…。)


なぜ心が自壊するまでに我々を憎むのだ。我々はお前のことを知らない。


声がした気がした。

突如空から現れた水流によって雨愛の体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「はっ!?」


衝撃で雨愛は意識が覚醒したかのような感覚と、全身の痛みを感じた。

何か意識が混濁していた気がする。


雨愛は空を見て、新たな存在に気付いた。

そこには水龍をも超える体長の龍が浮いていた。


初めて見る骨格だった。いや、水龍も翼が8枚あるという点では初めて見る骨格だったが、新たな存在はどこの部位もこれまで見たことのないものだった。


まず地を掴むための脚がない。全ての脚がまるでシーラカンスの胸ビレのようなものであり、印象としては空を泳ぐ龍だ。

そして背中には大量の帆のような背ビレがあった。


「なんだアレ…?」


その空を泳ぐ龍はじっと雨愛を見つめると口を開いた。


「そこの人間、いや悪魔の子。お前はなぜそこまで壊れた?」


…え。

()()()()()()()()()()


「お前が我々を憎む理由を知らないのにそこの龍を殺されるわけにはいかない。ここは1つ話をしてみようか?余の使命の足しになるかもしれぬ」


空を泳ぐ龍がヒレにも見える前脚を振るとぐったりとした様子の水龍が突然水に覆われ、圧縮されたと思うと姿を消した。

もう一度振ると今度は雨愛を覆うように水が現れた。


「何の水!?」


反射で水から逃れる。こんな得体の知れないものに飲み込まれるのはだめだ。

だが水から逃げるといった行為は空を泳ぐ龍が許さず、新たに召喚した水で彼女を抑え込んだ。


「何!?なんだこれ…!?」


振りほどこうとするが、どうやらゲル状の水らしくなかなか離れない。

その間に初めからあった水が雨愛を飲み込んでいく。


「うぅっ!く……!」

「雨愛ちゃん!!」


声のする方を見ると戻ってきていた華奈が走り寄って手を伸ばしていた。

藁にもすがる様子でそれに対して懸命に手を伸ばすが、2人の間に巨大な壁が突き刺さった。正確には空を泳ぐ龍の前脚だった。


「邪魔をするな人間。殺しはしない。黙って見ていろ」


ついに彼女の頭のてっぺんまで水に覆われてしまった。

呼吸ができない。溺れる。


殺しはしない?どう見ても殺す気しか感じない。このままでは溺死する。

ゲル状の水によって動きを封じられているため暴れることも出来ないまま息も出来ず、ついに雨愛の意識は暗転した。


ちょっと長めです、どらっごです。


特に後書きで残すことが浮かばないですね()

ではまた次回で。

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