表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始祖の龍人  作者: どらっご
1章 少女と神龍
3/7

3話 無法地帯で生きる


この世界はほとんど法など機能していない。辛うじて倫理が虫の息だけ存在している、そんなだけだ。


だから赤ん坊や幼児でない限り自分達の身は自分達で守らなければならない。身に危険を及ぼしかねないもの相手には力を持って対抗するか殺さねばならない。


特に女はそうでなければ格好の玩具にされる。無理矢理遊ばれ、無理矢理身篭らされ、捨てられる。

故に雨愛は常日頃から「殺すぞ」オーラを出しながら居場所を固定しないよう街を転々としている。


…なので。


「キミ、ちょっと話があるんだけど」


と街を出たあたりで腕を掴まれた。

雨愛は『ちっまだケイサツカンがいたか』と内心で舌打ちをした。


「話すことはないから離せよ」

「いや、あるね」


掴む腕の力が強くなった。

ケイサツカンの視線は雨愛の腰の剣…。

ではなく少し大きめに実った雨愛の胸だ。


やっぱり、と確信した。

コイツは別に貼り紙の犯人をとっ捕まえて正義を成そうとしているのではない。

その正義の盾に隠れて自分の欲を満たしたいだけだ。

ならば尚更ここで従ってはいけない。危険な存在だ。


(けが)れるから離せ。じゃないと殺す」

「公務執行妨害になりますが?」

「お前にレイプされるよりはマシだ!!」


言うや否やケイサツカンの腕を足で蹴り飛ばし、勢いを殺さずに剣を抜いてケイサツカンを袈裟斬りにして殺した。


当然周りに人がいるわけで、騒ぎになる。

その騒ぎから逃げるように雨愛は、血糊を払いながら疾走した。


法がほぼ死んだこの世界では警察という組織もほとんど死んでいる。そのため街でよく見る警察の服を着た人間のその正体は実際の警察官ではなく、その服の効力に目をつけて本物から殺して奪い去ったような悪党が大半なのだ。

あるいは元々警察官だった者が転じたケースもある。

実際彼らのような悪党の見た目に騙されてホイホイついていった人達の消息はほぼ断たれているという話を小耳に挟んだこともある。

だから「ケイサツカン」。

紛い物の、正義の味方の皮を被った悪者の蔑称なのだ。





「はい!質問いいですか!」

「ん?なんだ?」


時は現代。瑠蘭がアクニリディアに声をかけた。


「当時は女性は生き辛かったと言うことですか?」

「聞いててわかると思うんだがその通りだ。さらには“自由に”生き辛かったな」


信じられないという目をしていた。純粋なのだなとアクニリディアは思った。


「今お前が気楽に生きていけるのは“法”が機能しているからだ。だが当時滅びが近づきつつあった世界ではそんなものは効果をほとんど失っている。そんなものを遵守している余裕などないからな。で、多くの人間や隣の者が死んで滅んでいく中、“力”のみが生きる術であり、自由のために必要なものだった」


目を伏せながらアクニリディアは語る。


「当然力では女性は男性に劣る。そして負けた時のリスクが非常に大きい。だから女性の中では、殺しを迷わない程自己防衛に過剰な者が自分の好きなように生きれたのだ」

「リスク…とは?」

「それもさっき言ったが、知らないなら知らないで良いだろう」

「あ…はい」

「続けるぞ」

「…はい!」





いくら龍を屠るほどの力を手に入れた雨愛であっても所詮はただの1人の少女だ。

何人もの人間に追いかけ回されてしまえばいつかは限界がくる。


追いついてきた人間を何人も斬り伏せていた雨愛の足に一筋の矢が深々と突き刺さった。


「い゛ッ!!」


一瞬動きが揺らいだその時さらに2本目の矢が剣を持つ右腕に突き刺さり、疲労も相まって雨愛は剣を落としてしまった。


やらかした、と思った瞬間背中から誰かがぶつかり地面に倒され動けなくなった。


「クソッ…!」


もがくにも矢が刺さった足と腕に上手く力が入らず、そのまま空いた方の足と腕をがっちりと押さえつけられてしまった。


「よくやった。あとは僕が処理しとくから皆は帰ってくれ」


と男の声が聞こえた。

ブー、と声が聞こえていた気がしたが圧が強かったのかだんだんと人の気配が去っていった。

どうやら手柄を少数で堪能したいらしい。余程自分のことは魅力的なのか。

『何人だろうか』。そう考え、人生の終わりを覚悟したその時。


「さて!君だね。この間龍を狩って回った人間というのは」


男は雨愛の顎を持ち上げ顔と、少し視線を下げ鎖骨の下の膨らみを見た。


「へえ、女の子なんだ。凄い意外だ。龍を屠るってくらいだから男かと思ったよ」

「だからなんだよ。殺す他の選択肢が増えてラッキーって?」


と口答えした時、雨愛を押さえつけていた別の男が雨愛の頭を掴んで地面に打ちつけ…


「こら、やめるんだ。綺麗なのが台無しだろう」


なかった。

やはり体目当てか。


「やればいいじゃんか。それとも少しでも綺麗なまま使いたいのかよ…?」

「うーん、まあ勘違いするのも仕方がないか」


まるで“なんでこんなにも過剰に警戒されてるのかよくわからなかったけどなんかわかった”ような感じで首を傾げていた男は言った。


「確かに君に用はある。君は女性としてとても良い体つきをしている。だけど僕が君に用があるのは君の力のほうだね。君の龍を屠るほどの力に魅入られて僕たちはここにきた」

「…え?」


力に用がある…?


「単刀直入に言おう。ウチの学園に来て戦士になってほしい」

「は?」


まさかのスカウト。いやそれよりも。


「誰か知らない奴の招待なんか受けてたまるかよ!そんなくらいなら死んでやる!」


まあこうなる。いきなり目の前に座られて言われた言葉が「ウチに来ないか?」だ。正直困惑してたまらない。

しかも忌避すべき男性からの申し出だ。簡単に呑んではいけない。


「ああ、すまない。私は日本国防衛員養成学園、略して国防学園の学長をしている或部田(あるべだ)というものだ」

「…学園?学長?」


学園の類にほとんど縁のない雨愛の頭にはとても沢山の「?」が溢れかえっていた。


「どうする?ここで僕の提案を受け入れて学園に来てくれれば君の罪を揉み消してあげよう。それくらいの権力はあるよ、僕。あるいはこの提案を蹴ってケイサツに差し出されて、そのあと死ぬまで辱めを受け、体を弄ばれるか」

「う…」

「君は君が自覚している通り魅力的な体をしているよ。そんな君がこんな無法地帯ですんなり殺してもらえると思ったら大間違いだ。3分あげるよ。しっかり考えるんだ」


僕は、君の力に用がある。


目に見えて人生終了なルートよりは…マシか。


「くそがよ……わかった」

「よし来た!」


パチンと指を鳴らし、心底喜んだ様子の或部田。


「じゃあ安全のためにも、ちょっと失礼」


スッと取り出したスタンガンでビジッと電流を与えて感電させられた雨愛は声もなく気絶した。


「運ぶにあたって暴れそうだからね。ちょっと荒いけどごめんよ。体に手を出すつもりはないからさ」


手を出すことがないように或部田は手下の者に言いつけ、力の抜けてだらりとした雨愛の体を運んでいった。


3話です。どらっごです。


なかなかキツ目に感じる方にはキツく感じる女性の扱いな世界観ですが作者の無法地帯に対するイメージはこんなものです。大体。


裏話ですがやっぱり名詞を考えるのは難しいので割と直感で閃いたものを付けてるというのはほぼ変わりません。言い訳すると一応考えてはいるんですけどね、一応。


では、また。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ