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始祖の龍人  作者: どらっご
1章 少女と神龍
2/7

2話 地獄の世界で生きる


街が異形のモノに蹂躙されていた。夕方の、雨が降るときだったか。


まあ街が襲われた、などと声を大にする必要は全くなかった。なぜならこの戦争の最中の時代だからザラにあることで、いちいち声に出していたら数日で喉が潰れるだろうからだ。


強い(モノ)が弱い(モノ)を襲い、喰らい、血肉とする。

そして今の強い種は龍族で、弱い種は人類だった。

そう、人間は本来脆く弱くて、コソコソ隠れて何か守られていないと生きられない物なのだ。


「嫌だ!来るなぁぁぁぁ!!」

「死にたくない!!食われたくない!!」


それでいて自分が弱い生き物と自覚ができない理由はただ一つ。自らが奇跡的に作り出せた道具のお陰で偶然自らを守れたお陰だ。それによって自分が強い生き物だと勘違いしてしまったからだ。

だから道具がない時、あるいはあっても太刀打ち出来ない時に人間は赤ん坊のように泣き喚き、無様に死んでゆく。


どっかの英雄だってそうだ。

何かしら道具があったから戦えた。活躍できた。

けれどもそれがなければ?

考えなくても分かる。ただの人だ。仮に体術が優れていてもたかが知れている。英雄になどなれない。

道具が有れば強者。なければ弱者。それが人間。


あちこち絶望の悲鳴と捕食音が響いていた。

“この地獄の戦争を引き起こした種”である人間が、逃げ惑っていた。実に愚かなことだ。


この世界は…。


「ホント、ゴミだ」


今まさに人を喰らおうとしていた龍の首が落ち、通るはずの道を失った血液が噴水の如く噴き上がる。


偶然にも助けられて尻餅をついた女性は首が切断された龍の上に乗る者を視認すると…。


「女の…子?」

「なんだ。生きてたんだ」


血の雨の中少女は龍の死体から飛び降り、女性に近づく。

女性はすっかり腰を抜かしてしまっており、動けない状態だっただけに少女のことを救世主のように見ていた。


「ありがとう…ありがとう…!」


すぐ傍まで来たその少女はまるで安心させるかのように女性を片手で抱擁した。


「怖かった?」

「当たり前でしょ…?でも…死ぬ覚悟までしたけど…貴女が助けてくれたから…」

「良かった、本当に。……ねぇ、お腹すいた」

「お腹すいた…?そ、それならお礼をさせてほしいわ!今からでも!」

「優しいね…じゃあ」


とすっ。

女性は自らの腹に冷たく鋭い異物が通り抜ける感覚がし、下を見た。

少女が空いた方の手に持っていた剣で女性の腹を刺し貫いていた。


「え……?」


流血と共に体から力が抜けていく。刺された剣と少女の抱擁が離れると女性は重力に引っ張られるまま倒れた。


「どう…して……?」

「ちょうどお腹が空いててさ。そしたら目の前にちょうどいいご飯が。だから食事の時間ってわけだよ。恩返ししてくれるって言ったよね?いいでしょ?」


そしてそのまま少女は顔を女性の腹の傷口に近づけて喰らい付いた。


「あ゛あ゛!?あ゛あ゛あ゛い゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁあッ?!!!!!」


鋭利なもので付けられた深い傷が歯によって荒く傷ついたことにより痛みが倍増し、女性は涙ながらに叫んだ。しかしすぐに少女の手によって口を抑えられ、声を封じられる。

その手の力はかなり強く、女性が両手を使っても剥がすことが敵わない。


意識が遠のき、死を迎える女性が最期に見たのは自分の腹から口を離した少女の赤く発光する瞳だった。

ぱたりと力尽きた女性を見下ろし、手を合わせて少女は呟く。


「…ごちそうさまでした。ったく暴れんなよ。飲みづらすぎてイライラした」


はは、と軽く笑っていた。

静かに狂ってしまった少女がそこにいた。


その少女が生きていた時代、それは後に滅星獄戦と呼ばれる当事者たちの立つ星そのものを存続の危機にまで追い込んだ地獄の戦争が続いている真っ最中だった。


現在の世界人口、約7億人。戦争開始からと比べ10分の1以下まで人口が減っていた。

だがこれも昔に知った、それも推定の数字のためもっと死んで減っていることだろう。


地上に人工物はほとんど残らず、人類のほとんど全てが地下での生活を強いられている。

ただ例外として地上に上がることを許されたり、強制されたりする者たちもいる。


だが強情に地上で暮らす者もいて、少なくも残った街に住んでいるのもいる。そういう奴らが真っ先に腹を空かした龍の餌になりあるいは極々稀に、気紛れで龍とは別に血を求める者に狩られたりもする。


なお、地下に暮らしているからといって龍族の脅威から逃げられたわけではない。彼らも地下にやってくる事がある。


人類に完全な安息の地はないのだ。


結局この世界は弱肉強食にならざるを得なかったためにわかりやすいくらいに弱肉強食になっていた。





カーンカーンカーン


陽の登らぬ地下の朝を告げる鐘の音が聞こえ、太陽の代わりの明かりが灯り、眠っていた人々が動き出す。

しかし皆がそうとは限らない。


「うるっさ…」


イライラしながら布団の中でもぞもぞしている少女がとある部屋にいた。


その少女の名は氷川雨愛(ひかわあまめ)と言った。年は20だが、後述の理由によりわずかに幼げの残る容姿をしている。


髪は黒で肩ほどまでのショートヘア、瞳も黒の日本人という出で立ちでD〜Eほどの程よく膨らんだ胸を持っている。身長は155cmほど。


夜を明かすためテキトーに選んだ宿の部屋で大の字でベッドに寝転がっていた雨愛は空腹感に襲われていた。


「お腹すいた…ご飯…」


ふとギシっと痛みを感じて顔をしかめ、右の二の腕を抑える。寝相の悪さが出たか。


彼女は1人だ。身寄りなんてものはない。あるときから己の体術と剣術のみで生きてきた、所謂孤児である。


地獄の戦争の最中だ。そういうのはよくあることだった。

ある日突然集落や街が消えたとか。

昨日まで馬鹿話で盛り上がっていた相手が死んだとか。

あるいはある日突然恋人や家族が死んだとか。

はたまた突然自分が死んだりとか。


こういうことはザラにある。


この少女もこういうザラな出来事の被害者で、地上から地下に追いやられた人類の1人だ。

16歳の時のとある夜に地上にあった雨愛の故郷は龍族に襲撃された。

奇襲、そして種族間の圧倒的に力の差によって周りの人たちが次々と倒れ、食われていった惨状は雨愛自身の悲鳴と共に目に焼き付いている。

そして何より彼女の記憶に深く深く刻み込まれているものがあり、右の二の腕に遺された痕がそれを色濃く物語っている。


苦しくも襲撃者に反撃し、仕留めたと思って油断していたところを死にかけの龍族に不意打ちされ、腕に深く喰らい付かれたのだ。

腕が千切れ燃え上がっているのではと思うほど想像を絶する痛みだった。


しかしそれだけではなかったのだ。その龍族は雨愛の体内に侵入させた牙から体液を流し込んだ。

毒か何か分からなかったが、それが更なる激痛をもたらした。今では体に慣れたのか痛みは無いが、当時しばらくは死んだ方がマシと思えるほどずっと続く痛みと高熱だった。

そしてその体液が体中に巡り切ってしまったせいか、体はその一件以降何故か成長が止まってしまい、4年が経って今に至る。


もしかしたら本当に毒だったのかもしれない。


そこまでの経歴で果てしない龍族への恨みで頭がどうにかなりそうな日々を今日まで過ごしてきた。


とはいっても、いつまでも変な感覚で寝られないのもまずい。明日も明後日も憎んでも憎みきれない龍族を殺し続けなければならない。


そんな彼女の屠った龍の数、961頭。

いつか気分が晴れるか、自分が死ぬその日まで雨愛は龍を殺し続けることにしていた。


「……あ」


気づけば二度寝していた。時間にして9時。


「なんだ、健康的じゃんあたし。起きるか」


起きた雨愛は軽くシャワーを浴び、服装を整えて宿の食堂で朝食をとっていた。


「…味は悪くない」


小声で呟きながら食事を済ませ、宿を出る。

ひとまず血よりは美味しい食事だった。


「長い間食事していないと共喰いも平気でするんだな、あたし」


自分のことながら引いていた。

ちなみに、宿を取ったり食事をする時に使ったお金の出どころは…。


そんなことより早くこの街を出なければならない。

なぜなら見てしまったのだ。


【警戒!腹を食われた遺体が発見。】

【確認した者によるとこれは人為的なものであることが発覚。】

【犯行に及んだ者の早期発見求む】


といった貼り紙を。


街に長居していればいるほど見つかるリスクが大きくなる。

逆に言えばさっさとここからいなくなれば大丈夫なのだ。

地獄の戦争の最中でかつてあったテクノロジーの殆どが喪失した今の世界では取り締まりの力も弱くなっているから尚更早く距離を取ってしまわなければならない。


頑張ってポーカーフェイスを作ってすたすた歩き、慌てていることを悟られることもなく、そのまま雨愛は街を後にした。



2話です。どらっごです。


主人公ちゃんの登場です。早い目に出しておかないと“主人公どこ?ここ?”現象になりかねないので載せておきます!


では、また。

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