35話 ユズの森歩き2
怪しい小屋を見つけたユズ。
本来なら警戒するであろう場面だが、精霊契約で気が緩んでいたユズはそのまま小屋の中に入ってしまった。
「さ〜て中は何でしょう〜♪」
だが当然光の届きにくい古ぼけた小屋の中に照明器具がある訳でもなく真っ暗だったため本来なら光魔法か照明道具を使うべきところだが―――
「【精霊箱】召喚:無属の精霊」
普段から輝いている精霊を照明器具の代用として召喚した。
あっという間に明るくなった部屋を見渡すと案の定埃を被り床の抜け落ちたザ・廃墟と言った風貌であった。
「明るくなったのは良いけど……これ何が収穫あるかなぁ……」
そう呟きつつ周りを見て回ると、一箇所だけ綺麗に整った部屋を奥に進んでいる途中に見つけた。
「うん……ここが一番怪しいね念の為【魔導眼】」
流石に興奮から落ち着いたユズは警戒して魔導眼を使用した。
そしてその眼が捉えた情報はかなり大きな物だった。
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鑑定結果
外部:認識阻害の陣・改
内部:組替式転移術陣、
インスタント・ダンジョン・コア
認識阻害の陣・改:鑑定Lv8以上、精霊契約済みの条件を満たした者のみ突破できる認識阻害術式。
組替式転移術陣:特定の術式がいくつか複合された転移陣。MPを流すための通路が複数あり定められた道順にMPを流すとその地点に転移できる。
インスタント・ダンジョン・コア:高度な技術によって再現された簡易的なダンジョン・コア。周囲に漂う生命を利用し防衛のための生物を作り出す。
また人工的に作られたダンジョン・コアのためボスモンスターは無く、拠点防衛の為に使用されている。
ダンジョン・コア:世界に度々現れる迷宮の核。ダンジョン・コアに最も近くにいた生物がダンジョンマスターとなる。
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「へぇ……取り敢えず危険があるなら壊すとして、ちょっと見てみようっと」
鑑定結果からみてかなり興味を引かれたユズは扉を開け中の二つの仕掛けを凝視しながら考察していく。
「鑑定結果のとおりだと……この転移陣は何処に繋がるんだろう……【魔導眼】」
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鑑定結果
転移地点1:神聖国家ホリマーズ
転移地点2:閉鎖中
転移地点3:閉鎖中
転移地点4:閉鎖中
転移地点5:閉鎖中
閉鎖中:術式が一部欠落しており、鍵となる術式を手に入れなければ起動できない。
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「結果一箇所しか行けないんだね……」
少し落胆しつつも、恐らく未だ誰も辿り着いていない場所へ行けるのだ、興奮のほうが大きいだろう。
式の回路を確認して、MPを流し込むと魔法陣が強い光を放ちユズを消し去った。
※
人気の無い通路に強い光が一瞬だけ発生しユズは神聖国家ホリマーズに降り立った。
やけに小綺麗な住宅の並ぶこの街は、首都メスティベル。日常のいたる所まで染み込んだ宗教と根深い都市である。
《プレイヤーの一人が「神聖国家ホリマーズ」の出身者になりました。これにより全プレイヤーのホリマーズへの入国が可能になりました。》
説明しよう、この国は新規登録プレイヤーとサナやシズ達の様に後から出身国を決められた者しか出身者になることはできない。
後者のユズはこの国の「仮」出身者で、自力で先程の条件を達成してようやく出身者になれるのだ。実はまだ他に5人程居るのだがまだたどり着くものはいないようだ。
「ははっ……無神論者の私の出身国がここなんて……皮肉だねぇ……」
そう言っているが神はともかく、天使、悪魔、精霊の存在は図書館にも記されていて実際にその身で体験している。
だがいくらゲームとはいえ神が存在するなら確かめないと信じない。
それがユズの基本方針だった。ゲームの運営が神の存在を仄めかしているのだ確かめるのも本人の自由だろう。
「まぁ……精々ここで生き延びてみますか」
ユズはそう残して街の喧騒に溶けていった。
結城 蓮です。
寒いです……いや本当に。
最近はカフェラテが好きになったので温かいのを美味しく頂いています。
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また次回合いましょう。