未定
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独狼の放ったサーブ。
言ったセリフもここまで勝ち上がってきた実力もある、夜夢は最大限の警戒をした。
しかし、それは無駄に終わる。
「……『消炭色の下回転』……」
一回目の接地点はネット手前、二回目の接地点はネットをぎりぎり超える点。
そしてその球には技名の通り、尋常ならざる下回転が掛けられていた。
回転エネルギーの生み出した風が夜夢の髪を揺らす。
ピン球はネットに触れ、一瞬にして三度目の接地を迎えた。
打ち返す事が許されるタイミングを極限まで減らしたサーブ、TSの効果で筋力の落ちた体では到底対応できない。
二回目のサーブも同じ結果を辿り、大型モニターには2-2の数字が映し出されていた。
「……へえ、独狼ちゃんもやるじゃん……」
そう言う笑顔は引きつっている。
それもそのはず、夜夢のサーブは見破るか慣れてしまえば対応されてしまうのに対し、独狼のサーブは原理は分かるが対応できない。
(大丈夫、見破られないし対応されない。頑張って練習したんだから。それに僕にはまだ他にも技がある……。それにあんな凄いサーブなんだからきっとミスもするはず。大丈夫……僕は勝つ……っ! )
「……さあ、君のサーブだよ……」
……。
息を落ち着かせ、詠唱を始める。
「……迷えよさ迷え子羊達……」
一回目のサーブは成功、二回目のサーブはラケットが当たってボールが割れた。
「……原理は良く分からない……。……でも君のサーブには慣れてきた……。……次は返すよ……。……君には返せない『消炭色の下回転』で……」
続いての二回のサーブも返すタイミングを与えずに独狼の点になる。
(僕は勝つ。勝てる。負けるわけがない。絶対に。ケーキを買って祝うんだ。『夢魔』の名の通り、惑わし迷わせ混乱させる……)
スポーツにおいても、何においても緊張は何よりも重い枷となりうる。
それを落ち着かせるためにあるのがルーティン、彼女の場合それは詠唱なのだ。
「……迷えよさ迷え子羊達……」
冷静に、的確に言葉を紡ぐ。
「……惑いの霧が魅せるは悪夢……。……我無き夢中の白昼夢……」
フォームは普通のナックルサーブ。
存在せぬ魔力を込められたそれは再び得点を生むのか。
「……『消炭色の下回転』……」
コマ落としの様なラケットを振る速度。
その全てを回転エネルギーに変え、ピン球は相手コートに接地する。
0.数秒の内にネットに当たって落ちる、必殺の返し。
多くの者が独狼の得点を確信した。
しかし夜夢が中指と人差し指でラケットを挟み込んで全力で伸ばし、ピン球をすくい上げる。
そして球はネットに触れ、独狼のコートに落ちようとする。
ネットのすれすれである。
独狼が手を伸ばすが、彼女の低い身長では届かない。
それならばと、思い切りラケットを振る。
「うわっ!? 」
凄まじい暴風に夜夢が台の下に隠れるが、その凄まじさは大型モニターが揺れたことから容易に想像がつくだろう。
球がコートに落ちるまでに風で押し出して夜夢のコートに落とそうと言う考えだ。
「……でも、僕の勝ち~♪ 」
風が吹き止んだのを確認して夜夢がひょこりと顔を出す。
「……神風嵐……。……あの状況じゃ良くなかったかな……」
独狼の放った風、『神風嵐』は圧倒的爆風であった。
だが、それに問題があった。
ピン球は夜夢の背後数10mに落下した。
力が強ければ良いと言う物でもない。
独狼の悪癖だ。
「……それにしても、君ってそんなに運動神経良く無かったよね……。……俺みたいに音速を超えて動ける訳じゃなかった……。……何らかの方法で俺に追いついてきてる……。……でも俺に分かるのはここまで……。……どうせ考えても分からないから、分かってる範囲での相手の行動に慣れる……。……そうしろって顧問の先生とか友達とかにも言われるからね……」
「……俺は考えない……。……考える前に動く……」
彼女がまだここまでの実力を持たなかったころの話である。
試合相手が何をしているのか分からなかった。
どういう作戦で戦っているのか分からなかった。
そして頭脳戦をしたいと思ってもできないので、そのうち彼女は考えるのを止めた。
馬鹿なりの最も正しい答えだ。
下手に思考を巡らせて行動を遅らせるより、出来るだけ早く動く。
独狼の必勝法である。
「……油断や出し惜しみはしない……。……全力で叩き潰す……。……この枉神 独狼容赦せん……」
こほん、と一つ咳払い。
「……能力制限用拘束具、第壱號より第陸號までを解錠……」
雰囲気が変わった。
試合ではなく、殺し合いをする者の雰囲気に。
「……それが君の全力……かな……? 」
しかし彼女の言葉はさらに続く。
「……最終拘束具の解錠を要請……」
施術師が仕方なさそうな表情で〈許可します〉と言う。
何かが外れ落ちた。
「……能力の解放を確認……。……解放率100%……。……刻限を五分後とし、能力を行使する……」
変化はすぐに起こった。
目は深紅に染まり、乱杭歯は銀に光る。
尖った獣の耳が生え、ズボンを破って白銀の尾が現れる。
「……死の香りを嗅ぎ取るための嗅覚、断末魔を聞き取るための聴覚、自らの手によって惨殺される者の絶望を見届けるための視覚、敵の死肉を貪るための味覚、それらを実現するための力……。……戦争を住処とする化け物……。……『戦狼』……。……俺は人間を止めたぞー……」
今、世界観がぶっ壊れた。
「……洗練されすぎた技術・進化しすぎた解剖学に基づき練習を重ねた結果、人類の肉体では限界を迎える事になる。その時、何が起こるのか。選手たちの肉体によって導き出されたのは人間ではなくなると言う結論……。テレビとか世界大会では見たことあったけど、生で見るのは初めてだなぁ……」
人類と言うくくりを打ち破り、本来の姿から変わる事から『石破る仮面』と呼ばれるこれの能力は、前例が少ないため、使用は控えるように言われているが、施術師が許可を出せば一日一時間程度の使用を許されている。
「『石破る仮面』を使える君に僕の力がどれくらい通じるのか……。試させてもらうよ! 」
夜夢の二度目のサーブ。
いつも通りナックルサーブだ。
一度バウンドし、独狼のコートで二回目のバウンドをする。
観客達の目からピン球が消えた。
あまりにも凄まじい弾速のカウンターを独狼が放ったためである。
しかしそれは返される。
「……へえ、結構早い……。……でもスピードとパワーは俺の領域だよ……」
独狼の手がコマ落としの様に動き、爆風が吹き荒れた。
本来スマッシュで返せるはずも無い球は強烈な上回転と共に飛び、台の角に少し擦って地面に激突した。
「……まあ、そりゃあ専門外で戦っちゃ僕に勝ち目は無いかぁ……」
「……最強の生物も言ってたよ……。……〈持ち味をイカせ〉……って……」
「君ってホント刃〇とジョ〇ョ好きだよね……。技名がジョ〇ョ意識してる」
「……ベルセ〇クとか異世界〇〇モノ全般も好き……」
「へ、へえ。異世界〇〇モノとベルセ〇クって正反対な感じするけど。多趣味なんだね」
「……そうかも知れない……。…………それはそうと、どうする……? ……もう俺に勝つ手立ては無さそうだけど、棄権する……? 」
「ううん。諦めるまで望みはある。僕にも『石破る仮面』が使えるようになるかもだしね」
「……良いね……。……そういうの好き……。……前言撤回するよ……。……数分後に君はぼろ負けするけど、泣いてる事は無いんじゃないかな……」
-5-
一試合目は11:3、二試合目と三試合目は11:0という圧倒的点差で終わっった。
「ねーねー♪ ハイスピードカメラとか観客席の安全とか色々で次の試合無くなったらしいよー。それでさ、折角だしさ、一緒にどこか遊びに行こうよー独狼ちゃーん♪ 」
「……泣く事は無いだろうって言ったけど、ハイテンションで絡んでくるとは思わなかった……」
「ゲーセンとかカラオケとか行こうよねーねー♪ 」
「……五月蠅い……」
「カフェとかタピオカとか行こうよー♪ 」
「……やかましい、うっとうしいぞこのアマぁ……! (承り声真似)」
「あ、ちょっと似てるかも」
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〈 To be continued |
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ー次回予告ー
独狼「……今回もジョ〇ョネタ増し増しだったね……」
夜夢「ねー。でもたまに作者オリジナル入ってくるから分かりにくいよねー」
独狼「……俺の技は基本ジョ〇ョ……。……君の魔術の詠唱みたいなのはオリジナルだったよね」
夜夢「そだよー僕のは全部オリジナル~♪ 」
独狼「……まあ本編では全部オリジナルだし、技も武器も一番多いから良いもんね……」
夜夢「次回! 『ゲーセン回ってラノベで多いけど実際にゲーセンに友達と行く人っているの? どうなんだろ』来週もよろしくぅ~! 」
独狼「……題名が質問……」
夜夢「良ければ答えてね♪ 」