夢魔
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205X年、スポーツは限界を迎えた。
洗練されすぎた技術・進化しすぎた解剖学に基づいて練習を重ねた者達の危険性を鑑みた結果である。
剣道を極めた者は、竹刀ですら金剛石を断ち切った。
野球を極めた者の投じたボールは光速に達し、相対性理論を利用して本当に消える魔球と化した。
高跳びを極めた者の跳躍は、ブラックホールの引力からすら脱した。
周辺被害等、色々考えた結果、スポーツ何とか委員会はこう結論する。
TS技術で選手を女の子にして運動能力を下げたら良いんじゃね?
と。
……これは|性転換
超人卓球《TSTTT》を極めんとする少年(いや、この場合少女かな? まあいいか)達の数話完結の物語である。
でも人気出たら味占めて続き書く。
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会場はサウナをちょっとマシにした程の熱気に包まれていた。
それもそのはず、この国最高の中学生選手が決まる大会、それもいよいよ準決勝だからである。
「枉神さん、そろそろTS薬を飲んでくださいね」
この物語の主人公、枉神 独狼にTS施術師が声をかける。
「……分かった……」
独狼はキリの良いところで五感総導入型VRゲーム機のヘッドギアを外す。
ぼそぼそとした口調で目の下に《《くま》》が出来ているが、中性的で整った容姿をしている、身長は中学生にしては小さい150cm台前半程の少年だ。
「……じゃあ水をちょうだい……」
……。
数秒後にそこにいたのは、銀の髪に蒼い瞳を持つ少女であった。
目の下のくまはそのまま受け継がれ、身長は更に縮んで130cm程度だ。
「……準備運動がしたいんだけど……。……、機関銃ってどこ? 」
「!? ……いくら貴方様でも少々危険です! おやめくださ……。」
凶悪な乱杭歯を見せて独狼が嗤ったのを見て、技師は彼女がいかなる存在か思い出した。
「……じゃあ、試合行ってくる……」
ひん曲がり、ぺしゃりと潰れた数万発の弾丸が転がる部屋を後にする。
壮絶な技術を目にした施術師は思った。
(ラケット何で出来てるんだよ……)
-3-
「さあ! ついにこの国の最強を決める大会! その! 準決勝が始まらんと! 今! そう今! しております!! 」
会場を包み込む熱気がサウナを超えた(何ともセンスの無い表現である)。
「その速度! まさに神速! その試合スタイル! まさに死神! 作者が新キャラを考えるの面倒だったから『もし、ヴァン(以下略)』から無理やり登場させた死神が今! 戦場に立つ! 身長131cm! 体重24kg! 偏差値28!『死神』枉神 独狼!! 」
作者がケンガン〇シュラのアニメを見て影響されたセリフと共に彼女は入場する。
絶対卓球のノリではない。
「……偏差値って要った……? 」
小学校で勉強をやめた低学歴である事は一生彼女をいじるネタとして使われ続けるのだ。
「……まあ偏差値ってのが何かわからないし、俺がどれくらい低いのかも分からないけど……」
卓球の台から少し離れたところにポ〇リスエットと書いてある黒い炭酸飲料を置く。
応援に来た施術師が中身まで本物のポ〇リスエットに置き換える。
「……俺のコ〇ラ……」
「試合会場へのジュースの持ち込みはお控えください」
「それは幻聴か、幻覚か、それとも脳の錯覚か……?奇妙な技で放たれる球はまさに変幻自在! 身長154cm! 体重46kg! 『夢魔』夕霧 夜夢!! 」
「試合するたびに体重とか言われるの、ちょっとどうなのかな? 」
声援と共に現れたのはピンクや水色等の目に悪そうな色をしたユニフォームの少女であった。
そして独狼のポ〇リスエットを野菜ジュースに置き換える。
「……俺の飲む物を皆は何で勝手に置き換えるの……? 」
「野菜ジュースの方が健康に良いんだよー、独狼ちゃん~」
独狼の苦手な絡み方だ。
「よろしくー」
「……よろしく……」
先攻後攻を決め、試合の火ぶたが切って落とされた。
「迷えよさ迷え子羊達、惑いの霧が魅せるは悪夢、我無き夢中の白昼夢……」
夜夢が魔術の詠唱の様な物を始める。
念の為だが、この世界に魔術は存在しない。
存在しないはずの魔力を込め、サーブは放たれた。
フォーム、一回目の接地音から独狼は普通のナックルサーブと判断する。
キュッと夜夢のシューズの音。
カツンッ
(……二度目の接地音、今……! )
「……『黄金色の上回転』……」
ラケットがコマ落としの様に振り終わった位置に移動する。
そして、《《三度目の接地音が聞こえた》》。
「白日の悪夢はいかがかな? 独狼ちゃん」
大画面のモニターに0-1と点数が表示される。
(……俺は接地音を聞いて打つタイミングを測った……。……つまり……)
夜夢が再びサーブを放つ。
(……全く分からない……)
独狼のラケットが切り裂いたのはまたもや虚空だった。
その様子を観客としてではなく、選手として見つめるものがいた。
「施術師、おまえはどちらが勝つと思う? 」
……。
「私めには分かりかねます。ですが、夕霧 夜夢の技を見破る事は枉神 独狼にはまず不可能。この大会の準決勝ともなれば技術力だけで勝てる領域ではないでしょう。……あなた様の決勝での相手は夕霧 夜夢と見て間違いないかと」
……。
「そうか、お前はそう見るか。……だが忘れちゃあならねえぜ。別に勝つために相手の技を理解する必要はねえって事を。恐らく、あいつは理解しないままボロ勝ちする。そうでもなきゃあここまで来てねえ。まあ見てろ」
「無駄無駄無駄。君には僕の技は見破れないよ。偏差値28じゃあね~」
余程の自信があるのか、はたまた独狼の圧倒的低偏差値に対するいじりか、夜夢が浮かべるのは余裕の表情である。
「……見破れるかどうかと勝てるかどうかは別の問題だよ……。……君のやってる事は分からない、でも数分後にぼろ負けして泣いてるのは君さ……」
台の上でピン球を弾ませ、静止した姿勢から高く放り上げる。
「……君は今から成すすべもなく二点取られるよ……」
コマ落としの様な速度で振るわれたラケット。
それは今度こそピン球を打った。
ー次回予告ー
独狼「……『もし、ヴァン・ヘルシングが負けていたら』を読んでくれてる人居たら凄くありがとう……」
夜夢「『TSTTT』はあっちと違ってグロとかシリアスとか入れてかないよ~。安心してね~」
独狼「……プロローグみたいな所で竹刀でダイヤ切ったり、高跳びでブラックホールから出たりしてたけど、あれって物理的に出来るの……? 」
夜夢「え~? そんな事聞いちゃう? 」
独狼「……やっぱり別にいい……」
夜夢「そ、そう」
独狼「……どうせ最終学歴幼稚園卒業の俺には分から無いし……」
夜夢「……、……。……」
夜夢「バーカバーカ♪ バーカバーカ♪ バーカバーカ♪ 」
独狼「……カバティーカバティーカバティーカバティー……」
夜夢「次回! 題名未定! よろしくー」
独狼「……次回予告の意味とは……」