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【第三回】誰の文章だゲーム  作者: 誰文企画
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よにんめ

 ハイリレン共和国とフレスベルク王国が友好条約を結んで二年が経った。それを記念して両国の代表者がフレスベルク王国の闘技場で戦うこととなった。

 ハインリレン共和国の代表者であるアルバートの元に書類が届いた。見ると、そこには見慣れない文字が並んでおり、めくっていくとハイリレン共和国の言葉に通訳された言葉が載っていた。

「何々……あぁ、今度の異文化交流武闘会のことか」

 それは今度行われる武闘会の脚本だった。

 武闘会と聞くとただ戦うのを見世物にしているだけのものだろうと他国は思うかもしれない。だが、ハイリレン共和国の武闘会は見世物であり、娯楽に近かった。客席が舞台に近く、魅せる技をくり広げたり、一人が倒されると急に客席からちょっと待った! と真の本命である第三者が乱入したりなど、観客が見ていて楽しめるショーになっているのだ。今まで七十八戦七十八勝を勝ち取ってきたアルバートも魅せる戦いをしており、どうすれば観客を楽しませて美しく勝てるかを考えて戦っている。

 だが、今回は異文化交流だ。向こうの文化がいまいち把握できない。なのでフレスベルク王国の天才脚本家と言われているらしいオレガ・オリナシに今回頼んだのだが、ざっと目を通してアルバートはぎょっとした。

「え……? これフレスベルクの人が書いたんだよな?」

 何度も見直した、翻訳の人が間違っていないかとも疑えた。

「文化の違いってやつか? フレスベルク王国で開催されるから、俺が完全アウェーなのに、この対戦相手の覇王って完全にヒール扱いじゃないか」

 最初にマイクパフォーマンスをするらしく、そこに注意書きでひたすら煽って盛り上げてほしいと書いてあった。

「え……覇王って、女なのか?」

 煽るための相手の個人情報やコンプレックスなどが一枚の紙にびっしり書き込まれている。似顔絵も書いてあって、色の白い銀髪の美少女だった。

「リリアナ・フレスベルク。第三王女で覇王。よく言えばスレンダー美人だが、ぺちゃぱい。だが身長もメリハリボディもあるので幼女ではない。第三王女と己の実力でお見合いをけりまくっている。本人はそれを誇っているのだが、ただの嫁の貰い手がないだけである。三才の時、国宝を壊してしまい罰として白の間に入れられてから真っ白の光が苦手。同じく三才の時、おねしょで世界地図を描き、罰として布団を国営美術館に展示されたことがある……えらくかわいい情報ばっかりだな」

 思わずぷっと噴き出して、アルバートはいかんいかんと首を振る。仮にも第三王女、しかも今回の異文化交流試合には友好関係も含まれている。

「失礼のないようにしたいけど、煽れって書いてあるしなぁ。そういう文化なのか?」

 だが、資料を見ると覇王とはフレスベルク王国一強い人という意味らしく、かわいいなと思っても油断はできない。

「で、その国一強い人と戦って、毒霧くらって、大魔術暗黒崩壊破(デスペラート)を直撃で受け止め、最後に俺が聖光天滅を放ってフィニッシュ……無理だろ、確実に俺死ぬだろ」

 暗黒崩壊破(デスペラード)が暗黒太陽、強い、しか書いていないのでわからないがとにかく強そうなのは伝わった。

「向こうの文化がよくわからんな……仕方ない、資料を基に煽るか」

 フレスベルク王国の実況煽るなどを参考にして、なんとかアルバートは脚本を完成させていった。




 白は嫌い、あの日を思い出すから。

 そう言い放った日から、彼女の部屋の壁は黒く塗りつぶされた。


自分の部屋の戻ると、机の上に必ず目を通すこと、重要書類と書かれたものが置いてあった。

「何よこれ」

「今回の武闘会の脚本だそうです」

「ふぅん」

 ぺらっとめくってフレスベルク王国最強の王女、リリアナはふんと鼻で笑った。

「何これ、この脚本家は死人を出したいの?」

 お付きのマリアに書類を渡した。マリアはざっと目を通してまぁと驚いた声をあげる。

「姫様の必殺技を受けて立っていられる人なんですね、アルバート様って」

「そんな人間いるのかしら」

「でもプロフィールによると、このアルバート様って負けたことがないみたいですよ」

「だから選ばれたのね」

 この国、フレスベルクでは国王より偉い覇王という役職がある。強さを求めるこの国では時々、為政者に向かない強さとカリスマを持った者が生まれる。そのため、その王族をコントロールしつつ役職につけるために覇王というものを四百年前に制定した。リリアナは第五代目覇王である。

「覇王であるこのリリアナ様をひょろっちいハイリレンの人間が倒したら……会場は盛り上がるでしょうね、そりゃ」

 覇王が各地から集まった英雄に倒され平和が訪れる話は美談としてよく好まれる。国民は負ける側の覇王も好み、この国では負けの美学というものが貴ばれている。

「見てよこれ、私が大技を出した後に、相手が聖光天滅を出し私が倒されるって。大技を最後に出して、それを破られて覇王が負けるってセオリーすぎるわ」

「我が国らしくていいのでは?」

 ぷっと二人で噴き出し、クスクスと笑う。

「こんな脚本なんか出さずに、私の技で一撃! とかにすればいいのに」

「姫様、それだと親善試合になりませんわ」

「面倒くさいわね」

「でも姫様、このアルバートって強いだけでなくなかなかイケメンですわよ?」

 そういわれて初めて似顔絵が書かれていることに気づく。

 そこにはやわらかい少しウェーブかかったショートの金髪の髪に優し気な面差しの青年が描かれていた。

「へぇ、どうせあれでしょ。似顔絵だから三割増しにイケメンに描かれているのよ」

「かもしれませんわね。姫様、試合の前日に記者会見があるみたいですわ。その会見の言葉と試合でのマイクパフォーマンスをちゃんと考えてくることって赤字で書かれてます、たぶんこれ左大臣の字ですね」

「私の性格、よくわかってるわね。めんどくさーい! マリア、代わりに考えてよ」

「思いつきません」

「あなた趣味で小説とか書いてるじゃない」

「んーでもこういうのは本人が書いたほうが迫力が出ますよ」

「はいはい、わかったわよ」

 ため息を吐きながら、リリアナはアルバートの個人情報の紙に目を通す。

「……混血を極めし者って何よ、今時珍しいことじゃないでしょうに」

「ハイリレンはいろんな民族が集まった国ですものね」

 他にも顔はいいのに女気がない、物腰が柔らかでしゃべっていると楽しい、イケメン、などまったく煽りに使えないことばかり書いてある。

「誰よこのアルバートの情報調べたやつ……私この情報見て煽ったら愛の告白みたいになるじゃない、やめてよ」

「素敵じゃありませんか、強い方好きでしょう?」

「お父様ぐらい強かったらね、最低でも私より強くないといやよ」

 アルバートはどれくらい強いのだろう。脚本ありの戦いとはいえ、真剣にぶつかり合うのだ。

「……確かに、イケメンね」

 似顔絵を見て、リリアナはふっと微笑んだ。




 大会前夜、アルバートはフレスベルク王国の応接広間にいた。そこでは記者達が大勢集まり、今か今かと記者会見を待ち望んでいた。

「リリアナ様が来たぞ!」

 がちゃっとドアを開け、腰まである銀髪をなびかせながら美しい足取りで、リリアナが入ってくる。

(似顔絵なんかより数百倍美人だ……なのに覇王か。たぶんスレンダー美人だが、筋肉とかすごいんだろうな)

 そんな事を考えながら隣の席に座るリリアナをちらっと見た。

「……ふぅん、あなたがアルバート」

「はい、この度はよろしくお願いします。似顔絵よりもお美しいですね」

「よく言われるわ、あなたも似顔絵よりもきれいな顔立ちね」

「お褒めいただき光栄です」

 にこやかに挨拶を交わすと、記者達が一斉にフラッシュをたいた。

「えーそれでは、ハイリレン共和国とフレスベルク王国の親善試合の記者会見を始めます」

(とうとう始まった)

 どくんどくんと心臓が耳元でなっているようだ。今からこの美しい女性を煽らねばならない。良心は痛むが、それが脚本なのだから仕方ない。相手もわかっているはず。

「では、両者意気込みを語ってもらいましょう」

 そう言って司会者がリリアナにマイクを渡す。

「リリアナよ、親善試合とは言え全力で相手をぶちのめす、それだけよ」

 そう言ってぽいっとマイクをアルバートに投げた。ごくりと唾を飲み込んで、アルバートはマイクを握る。

「アルバートです。リリアナ様は豪傑なお方ですね、意気込みも短くていらっしゃる。そんなあなたを負かして泣きっ面をさせるのかと思うと今から楽しみでなりません」

「はぁ!? 今何って言った!?」

 ガタンと音を立ててリリアナが立ち上がる。だがアルバートはにこりと笑顔を顔に張り付けたまま続ける。

「お耳が遠いようだ、こんなに近い距離で言ったというのに。それとも、理解力が遅いのかな? お胸もぺったんこだし、もしかして幼女だったりします?」

「な、なんですって!?」

 今まで彼女に対してこんなことを言った人などいなかったのだろう。リリアナは顔を真っ赤にして怒っている。

「幼女を泣かして完全勝利を決めるのは心が痛みますね、一応俺も紳士なもので」

「どこが紳士よ! この顔がいいからって何言っても許されると思わないことよ!!」

「おやおや、俺の顔はお好みでしたか? 聞けばお見合いをその最強の武力でけり散らかしているとか」

「当り前よ! 自分より弱い男に嫁ぐ気なんてないわ!!」

「なら、あなたに勝てば俺はお見合い相手になれるんですね、試合後、楽しみにしております。あ、幼女じゃ無理でしたね」

「な、な、だ、誰があんたなんかとお見合いなんかするもんですか!! 第一私は幼女じゃない!! れっきとした十八歳よ!! あんたより十歳若いけどれっきとしたレディよ!!」

「そうでしたか、ではそのレディに敬意を払って試合では全力で勝たせていただきます。勝つのはハイリレン共和国のアルバートです」

「いいえ!! フレスベルクのリリアナよ!!」

 バチバチと両者火花を散らせながら記者会見は終了した。


 記者会見を終え、宿に戻りアルバートはふぅとようやく生きた心地がした。

「ちょっと言い過ぎたか? しかし十八歳か、見た目はすごく大人びてたな」

 煽るために幼女と言ったが、その言葉はまったく彼女には不似合いだったなと思った。スレンダーな美しく無駄のない体躯。スリットの入ったスカートから延びる白く長い足、すらりと長い指をしていたが、その手は修業を積んだ固いものだった。

「この国特有なのか? すっぴん美人が多いのか、はたまたすっぴんにしか見えないメイクが流行ってるのか」

 フレスベルク入りをしてから、見る女性のほとんどがノーメイクに近い状態に見えた。皆メイクなどしなくても内面から溢れる活力や美しさ、そして造形や所作の美しさによりメイクなど必要なかった。

「美人だったな、リリアナ様。よし、明日はがんばるぞ」

 さらりとした銀髪の美少女を思い返す。おそらくあの怒りようは演技ではないだろう。もしかすると彼女の地雷を踏みぬいたのかもしれない。ならば手加減をしてくれない可能性もある。自分も強いという自覚はあるが、それはハイリレン共和国内で、というもの。彼らはパフォーマンスに重きを置いて闘技場で常に戦っている。フレスベルクのような実力主義ではない。ましてやリリアナは覇王だ、どんなに強いかもわからない。

「……全力を尽くすまでだ」

 あくまでパフォーマーとして、アルバートは明日を全力でやりきるぞと気合をいれたのだった。


 大会が始まった。客席はほぼフレスベルクの者だった。ハイリレンの一部の富裕層が客席に少し見えた。

(しかし広いな、ここ)

 ハイリレンの闘技場があまりに大きく、そして闘技者と客席の間が遠いことにアルバートは驚いていた。

 ハイリレンの闘技場は客席と闘技者の距離が近い。そのため試合が間近で見れるしワクワク感が増す。その代わり闘技者はその限られた場所で全力を出さなければいけない。だがフレスベルクの闘技場は重厚な石造りで、客席も闘技場自体も広い。音響施設も簡単なものしか設置されておらず、まさに戦うためだけの場所である。

(というか、落ちたら死ぬだろこの高さ)

 試合のフィールドまで結構の高さの階段を上がって登場することになっている。当然落ちたらその高さを落ちることになる。打ち所が悪かったら最悪死ぬだろう。

「レディースアンドジェントルメーン!! さぁ、いよいよハイリレン共和国とフレスベルク王国の親善試合が始まりまーす! 司会はこの私、シンザルです!!」

 司会者がマイクで声を張り上げると、観客からうをぉぉっという声が上がる。

「では、両者フィールドに上がってきてくださいませー!」

 ドルルルルルと太鼓の音が鳴り響く。アルバートはどくんどくんと主張する心臓を押さえつけて、きっと階段の上を見据えた。

(落ち着け、今まで幾多の試合を乗り越えてきたじゃないか。やるんだ、やるしかないんだ)

 すぅぅと深呼吸をして、階段を上っていく。フィールドに上がると観客の熱気にやられそうだった。

「ハイリレン共和国の超者、アルバート!!」

 ジャーンとシンバルが鳴り響く。

「対するは我がフレスベルク王国の覇王、リリアナ・フレスベルク様だぁぁぁぁぁあ!!!」

 ジャーンというシンバルの音と共に客席から何者かが飛び出してくる。

(嘘だろ、あの高さと距離だぞ!?)

 だが飛び出してきた者はくるくると回転しながら華麗にフィールドに着地した。スラリとした体躯に美しい、白いチャイナ服を着て華麗の躍り出たのはリリアナだった。銀の長い髪をお団子にし、目じりに赤い花を咲かせている。太ももまであるスリットから出た生足がなまめかしく輝いている。彼女はきっとアルバートを睨むと司会者からマイクを奪い取った。

「何よ、せっかくの親善試合だっていうのにおしゃれ一つもしてこないのね、ハイリレンの男って。やぼったくて、女性にもてないでしょーね! 僕が言い過ぎました、すみませんでしたっていうまでぶちのめしてあげるわ!」

 ふんと鼻息を荒くして、マイクをアルバートに投げつけた。

(綺麗だ、だが心を鬼にしてやるぞ……!!)

 きゅっと一瞬目をつむって、すっとにこやかな笑顔を浮かべる。

「えぇ、フレスベルクの人は美しいですね。これから拳と技で語り合うのに綺麗に着飾ってくるとは。泣いてそのメイクがぐちゃぐちゃになっても知りませんよ? それとも、昨日お見合いの話を出したから、その気になって美しく着飾ってきてくれたのでしょうか? いい心がけですね。しかるところそれは花嫁衣裳と思っていいのでしょうか?」

「は? はぁぁぁぁ!? ふざけんじゃないわよ!! どんな思考回路してんの!?」

 かぁぁと白い肌を真っ赤にして、マイクなしでもよく通る声でリリアナは怒鳴った。

「このままじゃ姫様がお嫁にいっちゃうぅぅ」

「もうあのぺちゃぱいを見れなくなるのか……」

「寂しいな……きっと人妻になれば大きくなるな」

「惜しいぺちゃぱいをなくした……」

「黙れ観客!!」

 観客をリリアナが睨むときゃぁっという声が客席から漏れた。仲がいいなと思いつつもアルバートは言葉を続ける。

「聞くところによると、昔とある衣装が気に入ってこの衣装を着ないのなら舞踏会に出ないと言い張り、周りの反対を押し切ってその衣装を着たものの、胸のサイズが圧倒的に足りなくてタオルを大量に詰めたそうですね。ですが、ダンスを踊った男性に後で口説かれてカチンと来た際、回し蹴りをして胸の詰め物が吹っ飛んだらしいですね。以来舞踏会には参加しなくなったそうで。フレスベルクの貴族の間では伝説だとか」

「な、なんであんたがその話知ってんのよ……!?」

 リリアナが眼光するどく王室が座っている客席あたりを睨んだ。だが彼らはがんばれーとにこやかに言い返すだけだった。慣れているのだろう。

「また聞くところによると、十五歳の時お父様のお気に入りの絵画を破ってしまい、尻が腫れ上がるまでお尻ぺんぺんされたそうですね」

「あ、あれはあっちが悪いのよ! あんなに普通においてるから、いらないのかと思って……」

「十五歳にもなって父親にお尻ぺんぺんされた感想は?」

「バカじゃないの!? そんなの試合と何の関係もないわよ!!」

「どうやら姫は強い男性に泣かされるのがお好きのようだ」

「ふっざけんな!! この!! イケメンが!!」

「姫様―それだとただの誉め言葉ですー!!」

 観客から届いた声に会場の皆がどっと笑った。

「この! ぐぅ! コロス!! もう!! いいわ、今から叩きのめしてやる!!」

「望むところです、姫様のその美しい化粧を涙でぐちゃぐちゃにしてさしあげましょう。それとも、それが望みですか?」

「コロス!! 絶対コロス!!」

 アルバートがにこやかな顔のまま内面冷や汗でダラダなのを知らず、リリアナが構えだした。アルバートはマイクを司会者に投げて同じく構える。

「えーでは試合!! 開始!!」

 カーンと鐘がなる。リリアナが銀髪を揺らして高速に舞うと風が生じ、それが鋭い刃となってアルバートへとむけられる。

「疾風槍破!!」

 鋭い風がアルバートに向かって次々と槍のように降り注ぐ。アルバートはそれを何とか避けつつ、剣で地面に円を描くように高速に回転し、摩擦で炎を生み出す。

「はぁぁ!! 炎舞壁破!!」

 炎が壁のようにリリアナに向かって繰り出される。リリアナはそれを強く息を吸い込むと、とてつもなく大きな息でかき消してしまった。

「おおっと!! リリアナ様の風の槍はアルバート氏によって避けられる!! だがアルバート氏も負けてない! 炎の壁を作り出し、ぶつけたーーー!! だがさすがリリアナ様!! 気力によって気が混ざり合った呼吸で火を消し飛ばしたぁぁぁあl!!」

 司会者の解説に観客がうをぉぉっと盛り上がり、リリアナ! リリアナ! と声が飛ぶ。

「こんなものなの? そのお得意の剣でかかってきなさいな。それとも、素手の小娘は怖い?」

「いいえ? その柔肌を傷つけるのは怖いですが」

「うるさい!! さっさとかかってきなさいよ!!」

 すると姫様―と王室席から声がして、大きなハルバートがひゅぅぅぅんっと投げ込まれてきた。

(あんな小柄な少女がハルバートをあの距離で投げたのか)

 マリアありがとうーと言いながらリリアナはハルバートを受け取る。そしてバトンのようにクルクルとまわしてアルバートを挑発した。

「まだ小手調べよ、さぁかかってきなさい!」

「ではお言葉に甘えて」

 アルバートの顔から笑みが消える。両者武器を持ってぶつかり合った。アルバートの高速の剣技にリリアナは多少押されつつハルバートで応戦した。

「おおっとぉ!? 姫様押されてますねーちなみにハルバートを投げてくださったマリア様はリリアナ様お付きの貴族の子女様で、その愛らしさと強さにファンクラブがあります。そのファンクラブの勢いはリリアナ様ファンクラブを凌ぐ勢いだとか」

「リリアナ様も美しいのですが、お胸が、ね」

「マリア様はお強いだけでなく、その柔らかなプロポーションが最高です」

「マシュマロおっぱい万歳」

「客席うるさいわよ!!」

 リリアナが一瞬客席に気を取られた瞬間、アルバートが距離を詰め剣を大きく振りハルバートをリリアナの手からたたき飛ばした。

「「しまった……!!」」

 脚本ならリリアナが武器を捨てて素手の徒手空拳なるはずだった。だが、武器を飛ばされてカチンときたのもあり、あせったリリアナはぶぅぅと緑の毒霧をアルバートの顔面目掛けて繰り出してしまった。

「ぐあっ!?」

 想定していなかった毒霧をモロに顔面に食らってしまい、目に直接毒霧が入る。

(ぐ、ぐらぐらする。視界が定まらない……!!)

 リリアナの毒霧には本当の毒がある。それはプロフィールで知っていた。だが何の毒かまでは載っておらず、それ対策にアルバートは大会まで何種類もの毒を少しずつ服用し続けた。毒になれるためだ。

(それでもなおこの苦しみ……!! あの苦痛の期間がなければ一瞬で死んでいただろうな……!!)

 もはや視界は霞み、リリアナの姿も定まらない。銀色の何かにしか見えない。

「わ、私の毒霧を受けて立っているですって……!?」

 その声は揺らいでいた。アルバートは決してきいていることを悟られないように、なるべくにこやかな表情を浮かべて口を開いた。

「おやおや、この程度で毒というのですか? さすが姫様、お上品ですね」

「強がりはよしなさい。私の毒霧を受けたものは大抵三秒で気絶よ」

「では、きっと手加減なさってくださったんですね。いやぁ姫様はお優しい。それとも、俺に負けたくてわざとそうしたのでしょうか? そうですね、姫様だってもう十八歳、王族で言えばお嫁の行き遅れですもんね」

 ぷちんと何かがキレる音がした。見えないが、おそらく青筋を浮かべてブチぎれているのだろう。

「お父様でも遠慮して言わなくなった言葉を、よくも言ったわね……!! コロス!! お前は絶対コロス!!」

「姫様気にしてたんだ……」

「俺、永遠に独身貫く気なんだって勝手に思ってた」

「たぶん、白馬に乗った王子様が、なんじゃないか以意外と」

 すると声にならないびりりりぃぃぃと空気音が会場全体に響いた。がやがやしていた観客は押し黙り、緊張感が会場を重く支配する。

「さっきからぺちゃぱいだの婚期が遅れてるだの好き放題いいやがって……覚悟はできてるでしょうね……!!」

(姫の気合か、すごい効き目だな)

 さすが覇王と呼ばれることはある、とアルバートはびりびりといまだにリリアナの放った気合で痺れる手をぎゅっと握る。

「望むところです」

「再起不能にしてあげるわ!!」

 はぁぁぁとリリアナが拳を振り上げてとびかかる。拳に気を込めてアルバートを粉骨するつもりだ。

(やりすぎたな、それとも脚本通りに演じていらっしゃるのか?)

 アルバートは霊力を駆使して会場の石床を浮き上がらせ壁を作る。するとそれを拳連打でリリアナはすべて粉々にしてしまった。

「はぁぁぁ、粉骨雷神!!」

 チカっと黄色い早い光を感じ、アルバートは風で防御壁を作り出し、攻撃を避ける。

「でたぁぁぁぁ!! 姫様の粉骨雷神!! 雷力を纏わせ、重く速い蹴りによって粉骨する技だ!! だがアルバート氏も負けてない!! 風で応戦し、見事に避けた!!」

(雷力だって? ナマズ族しか使えないんじゃなかったのか?)

 やばいな、とアルバートはフラフラする意識の中生命の危機を感じ始めた。姫がどれだけ技を持っているかわからない。この毒にやられた状態でどれだけ戦えるか。

(くっ、しっかりしろ。俺はパフォーマーだ。アドリブも大事だけど、脚本通りに観客に魅せなければ意味がない……!!)

 己の矜持にかけて、アルバートはキレたリリアナの魔法と攻撃を受け身や風の防御壁でしのぐ。

(呼吸を整えるんだ、理力と気を掛け合わせて最強の防御と作り出すんだ……!!)

 毒でやられたからもあるが、リリアナの攻撃はどれも一級品だった。蹴りが来たかと思えば拳が飛び、凪返せば空中で舞ってかかと落とした頭上から振り落とされる。

「おおっと、アルバート氏、押されつつあるように見えるがさすが超者と呼ばれるだけある!! あのリリアナ様の攻撃をすべて受けてまだ立っている!!」

「ふふ、全然痛くもかゆくもないですね。リリアナ様が最強だなんて、フレスベルクの国は弱いですね」

 その言葉に観客たちがなんだとっといきり立つ。そしてリリアナ様やっちまえーーー!! と会場が一致団結してリリアナを応援しだす。

(これじゃ俺がヒールだな、すまん脚本家)

 カチンときたのは観客だけではないようで。リリアナはばっと飛びずさり攻撃をやめた。

「もういいわ、国民までも愚弄するなんて。次で決めてやる……!!!」

 はぁぁぁぁとリリアナの低い声がどこか遠く聞こえる。

(何かするぞ、暗黒崩壊破(デスペラード)じゃない。何か絶対想定外の大技だ)

 もはや理力と気力で乗り切るしかない。なぜなら脚本で次のアルバートの行動は大技を受ける、だからだ。

(俺はプロだ、やりきってみせる……!!)

 それは向こうだってきっと同じなはずだ。多少の文化の違いはあれど、これは親善試合。殺し合いではないのだ。

「出るか姫様の超魔法暗黒崩壊破(デスペラード)!! おおっと、ファンクラブの皆さま用意がいいですね、サングラスをもう着用なさってる!!」

「別名黒い太陽ですからね」

「その代わり裾が浮かび上がってお尻が丸出しになるのがいいんですよね、そのギャップが」

「姫様、スタイルいいですからね。美尻です」

 もはや観客たちの声すら彼女の耳には届かないらしい。リリアナは手と手の間にバチバチと黒い電撃に似た光を作り出す。彼女の気と魔法によって髪の毛と裾が浮かび上がり、白く形のよいヒップが丸出しになる。黒レースのパンツが白い肌に似合っていた。

「おやおや、かわいらしいクマのパンツでも履いていると思いきや、意外と黒レースなんですね」

「そこがギャップ萌えです」

「さて、どうするアルバート氏!!」

 皆その暗黒崩壊破が出ると思っている。だがリリアナはにやっと笑ってさらに息を吸い込み、黒い光の玉を大きくしていく。

「おや? 姫様の様子がおかしいですよ?」

「あれはもしや新しい魔法では?」

「姫様の新しい魔法ですと?」

 がやがやと観客がざわめきだす。それは不安と恐怖によるものだった。

「おおっと! 見ると王族の席だけにバリアーが張られております!! ズルイです!!」

「いいえ、ズルくありません。いやならバリアーの張れる護衛をつけてください」

「そんな力も金もありません!!」

「それに皆さま姫様のファンなのでしょう? それなら姫様の魔法のとばっちりを食らっても本望でしょう」

「おおっと! マリア様笑顔でひどいことを言っておられます!! ちなみにバリアはマリア様が張られております!! 私も避難したいと思います!!」

 そう言って、茶化していた司会者の声がしなくなった。真剣にヤバイらしい。

(だが、受けるしかない!!)

 最大の防御をもってアルバートは構えた。

「食らい尽くせ!! 終焉連鎖(カタストロフィ)!!」

 巨大な黒い太陽が連続で何発もアルバートに向かって放たれた。




 リリアナの新魔法、終焉連鎖(カタストロフィ)は会場をも巻き込んでひどいことになった。この大会終了後、この闘技場は壊されて城外の城壁にされると聞いている。なら、ちょうどいいではないかとリリアナは高揚する気分で思っていた。

 黒い太陽を一発食らわせる暗黒崩壊破(デスペラード)ですら大抵のものは死に至る。だが、この終焉連鎖は何発も黒い太陽を相手にぶつける。頑丈に作られているのか、フィールドはボロボロにはなったが、崩れ落ちたりはしなかった。

(ふ、ふふ、我ながらやりすぎたわ。体中が痛い)

 強い魔法にはそれなりの反動が来る。リリアナはフィールドのギリギリまで吹き飛ばされてしまった。体中も軋んで痛い。

(さすがに死んでるでしょ)

 もはや親善試合であることなど、リリアナの頭になかった。もしかすると友好関係さえ危ぶまれるかもしれない。だがざまぁみろ、私をバカにしすぎたわねと思ってアルバートのほうを見て愕然とした。

「え、え、うそでしょ」

 もうもうと土ぼこりが立つ中、剣を支えに立っている姿が見える。目をつむって立っているところを見ると、毒霧のせいで目が開けられないのだろう。

(あれを直撃で食らって、なぜ立っていられるの?)

 リリアナの自信とプライドにヒビが入る。どうして? なぜなの? そんな言葉が頭に響く。

「……この程度ですか?」

 遠く離れているはずなのに、なぜか耳元で囁かれたように聞こえた。

「今度はこちらからです……はぁぁぁぁ!! 奥義、聖光天滅!!」

 剣を振り上げ、まばゆい白い光の剣破を投げつけてきた。それは徐々にスピードを上げ、光の強さをあげていく。リリアナの目の前に来たときは真っ白な光の壁になっていた。

「あ、いや、あぁ!」

 リリアナの脳裏に、幼い頃おいたをして閉じ込められた真っ白な部屋を思い出す。窓もドアもない、真っ白なだけの部屋。錯覚の魔法がかけられていて、歩けどもあるけども壁にすら触れない。あまりに広くゴールのない、壁を壊して脱出することもできない。そしてその白は自分を責め、迫ってくるように感じた。その時の恐怖とトラウマが蘇り、リリアナは構えることを忘れた。

「しまっ」

 受けた時には風圧で飛ばされ、場外の空中にいた。

(え? どういうこと? 痛くない?)

 真っ白な光は受けてもまったく痛くなく、それどころかリリアナを包み込むようだった。

 落ちる瞬間、アルバートを見ると金髪が煌めき、ふっと天使のような優しい笑みを浮かべているのが見えた。

(どうして? なぜ最後に痛みのない技を出したの?)

 脚本には一応目を通したが、だいたいあっていればいいでしょという考えでしっかりとは見ていない。だからアルバートの最後の決め技がどんなものかも知らない。

(そういえば、言ってたわ。あなたの柔肌を傷つけるのは怖いって)

 ドキンと胸が高鳴った。心臓が痛いほどうるさい。大技を放つ時も、父に怒られた時もこんなにも緊張したことはなかった。あんな言葉、試合を盛り上げる煽り文句だとわかっている。わかっていても、胸の高鳴りは止まらない。

(何これ……完璧に負けじゃないの)

 落ちる時、フィールドでやわらかい金髪が崩れ落ちたのが見えたような気がした。


 試合はリリアナが負け、勝者はアルバートとなった。

 リリアナは静かに場外で起き上がると、びしっと指を指し「次は負けないわ! もっと大技を見せてあげるから覚悟なさい!」

 と言って会場からツンデレ乙~という姫の技のとばっちりを食らっても元気なファンクラブから歓声が上がった。

二国間の勝者ベルトを受け取ると、アルバートはぴくりとも動かなくなり担架で運ばれた。リリアナの攻撃を受けても立ち続け、最後には覇王を吹き飛ばしたとして会場からは惜しみない拍手が送られた。


「アルバート様、あれから目を覚ましていないらしいです」

「ふぅん、そりゃ私の技を避けずに受けたんだもの」

 熱心に書を読みふけるリリアナにマリアはふっと微笑む。

「アルバート様のお見舞いには、いつ行かれるんですか?」

「な、なんで私が行くのよ」

「だって、気の書を熱心にお読みになってるから」

 ふふっと笑うマリアにもうとリリアナは頬を膨らませた。

「まぁ、試合相手とはいえあそこまで全力出しちゃったし。確か気を相手に送ることで回復力を増進させる方法があったはずだなぁって」

「リリアナ様の愛の力で治すんですね、わかります」

「だから! 違うってば! あんなの好みじゃないし! ……確かにイケメンだけど」

「そうですね、イケメンでしたね」

 リリアナはアルバートを会場を盛り上げるため自分を煽ってきた彼しか知らない。だが白いものを見る度にアルバートのあの天使のような笑みを思い出すのだ。

「……恋なんかじゃないもん」

「でも、アルバート様姫様よりお強いですよ?」

「で、でも……たぶん相手にしてもらえない」

 十も離れている、それに親善試合でいかにリリアナが強いが目の当たりにしたのだ。恐怖感しか抱かれないだろう。するとマリアはあれあれ~と横から顔を覗き込んでくる。

「姫様らしくないですね、落ちない男は落として見せる! っていうかと思いました」

「だ、だから! 違うの!」

 あの日見た白い光。それはあの人の優しい笑みに変わった。

「……でも、あの日から白い壁が怖くなくなったわね。そのお礼を言いたいだけよ! ……それだけよ」

それだけだからね! と言って恥ずかしそうに笑うリリアナにマリアははいはいと微笑み返すのだった。

最後はよにんめ。

こちらを書いたのはPUYO2さんでした。

まさかこんな綺麗な仕上がりの恋愛に発展するとは……

同じプロットなのかと疑わしいほどに温度差がすごいです。物書きってすごいなぁ。

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