第九九回 本当の気持ち
「……」
ピラミッドの中は驚くほど静まり返っていた。
ただ静かなだけでなく、無に近いと思えるほどの静寂を感じて、不気味さのあまり身が震えるレベルだった。これは……あのときの感覚と似ている。洞窟で魔女と遭遇したあのときと……。
だが、今の俺はそのときよりずっと色んなことを経験して強くなっているはずなんだ。それなのに、あのときと同じような……いや、それ以上の恐怖を感じているということは……。
「コーゾー様……」
「兄貴……」
「……大丈夫だ」
そうは言ったものの、正直怖い。もし暴走していたなら、自分一人でさえ守れるかどうかはわからないだろう。だが、俺は反魔師でありリュカの仲間だ。魔女の桁違いの魔術にさえも抗い、必ずやその奥にある寂しさに触れてみせるつもりだ……。
「……コーゾー様、リュカのことを考えていらしたんですか?」
「……え?」
「……ご、ごめんなさい。何か、コーゾー様の心が遠くに行っちゃったみたいで、怖くて……」
「……」
俺は確かに、アトリの言う通りリュカのことばかり考えていた。でも、それは彼女が心配だからだ。……妙だな。なのに心が痛む。何故アトリに罪悪感みたいなものを覚える必要がある……。
「兄貴、もしかしてリュカちゃんにホの字なんじゃ……?」
「……ソースケ、何を……」
「じょ、冗談っすよお!」
「笑えない冗談だ……」
「そうっすよねえ!」
「コーゾー様、行きましょうか」
「アトリ……?」
アトリが足早に先頭を歩き出した。《マインドウォーク》を使ってるはずだから魔女の怖さを存分に感じてるはずなのに、まるでもっと怖い何かから逃げるかのようだった……。
薬草はピラミッドの中、それも最奥にある空間――王の間――に生えているそうで、リュカもそこに向かった可能性が高いため、俺たちは慎重に奥へと進んでいく。
「――……あ……」
「……ど、どうした、アトリ?」
「……来ます」
「えっ……まさか、リュカが……?」
「あ、兄貴いっ……」
ソースケがさっと俺の背後に隠れる。最早弟分じゃなくて妹分だな……。
「……いえ、リュカじゃありません。よく知っている人たちです……」
振り返ることなく語るアトリ。ってことは、まさか……。
「――マスター!」
「ご主人様……!」
「コーゾー!」
「コーゾーどのぉ!」
シャイルたちだ。ラズエルも来たのか……。
ターニャだけいないと思ってたら、普通にラズエルの背中にいた。しかもまだ寝てるし……。バリアがあるとはいえ、ここで寝てたら危険だし起こしてやるか。
「――ぶはっ!」
「……あ、すまん。つい……」
妙に力が入って、素魔法とはいえレベル5の水魔法をかけてしまった。なのでターニャはびしょぬれだ。それで笑い声が起こるもんだからますます申し訳なくなるが、彼女は欠伸するだけで平気そうだった。
「ん……みなさん、おはようございます!」
「おはようではない、ターニャ。ここはピラミッドであるぞ……」
「あ、はい。ピラミッドですね。頑張りますです!」
ターニャの天然ぶりにみんな笑う中、アトリだけ一切言葉を発しない。《マインドウォーク》を使ってるせいだろうが、それ以上に壁みたいなのを感じた。
……きっと俺のせいだ。ここまで来たらもう見ない振りはできない。そのうちはっきりさせたほうがよさそうだな。そのほうがアトリのためにもなるはずだ。ただ、自分でもはっきりとわかってるわけじゃないから、今はまだ何とも言えない。偽りの気持ちを伝えてしまえば、もっと傷つけてしまうことにもなりかねないしな……。
「兄貴、モテモテで羨ましいっす。余ったらあっしに一人くらい分けてくれねえっすか?」
「ソースケじゃ無理よっ」
「ですわ……」
「カタツムリなのだー」
「……こ、これ地味に効くっすけど……」
「……」
ソースケが胸を押さえて苦しむ姿に笑い声が上がるも、やっぱりアトリは一切反応しなかった……。




