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第九八回 運命共同体


 宿を出た俺たちは、まず冒険者ギルドを目指すことにした。


 もしかしたら、リュカは呪いによる痛みがぶり返して薬草を取りに行った可能性があるからな。ギルドで依頼の種類を探れば何かわかるはずだ。


 砂漠の町ラヒフはヤシの木のような特徴的な木々があっちこっちに立っていて、朝からカラッとした肌を刺すような陽射しが降り注いできた。


「ギルドはこちらですっ」


 アトリの背中を追っていく。この町には遠征の途中で何度か訪れたことがあるらしい。それにしても、彼女に対して罪悪感みたいなものが俺の中に芽生えてるのはなんでだろうな……。


「兄貴も憎いっすねぇ……」


「え?」


 並んで走るソースケの言葉に、単純に俺は驚いていた。


「あの恐ろしい魔女も女の子っすよ。兄貴とアトリちゃんの関係に嫉妬して、怒って出て行ったんじゃ?」


「……いや、それはない」


「そ、そうなんすか?」


「ああ……」


 大体、嫉妬するようなことはアトリとしてないし、仮にそうだとしてもリュカはそんな性格じゃない。ただ、自分のことは放っておいてほしいと思って飛び出した可能性はある。とにかく早く探し出して、一緒に王都を目指すつもりだ。


「――着きましたっ」


「……ここがギルドか……」


 海の家のような、大きく開かれた空間に冒険者たちが集まっているのがわかる。


「……ひっく……おい、あんたここは初めてか?」


 いきなり強面の大男が近付いてきたかと思うと、肩を掴まれた。酒臭いな……。


「えっ、そうだけど……」


「だったら、ピラミッドには絶対に行くなよ。無差別に殺し回ってる危ねえやつがいるって話だ……」


「……え……」


「ピラミッド最奥の王の間で貴重な薬草が採れるから、それを独占しようって魂胆だろう。どこのどいつか知らねえが、汚ねえやつだ……」


「貴重な薬草?」


「精神異常に効く薬草だ……。全てってわけじゃねえが、酩酊状態にいるやつでさえすっかり回復する……」


「精神異常……」


「……あ、兄貴、まさか、リュカちゃんが呪いで狂い始めてて、それを採りにいったとか……」


「……そ、それは……」


 耳打ちしてきたソースケの言葉を俺は否定することができなかった。リュカが実は精神異常の呪いも受けていて、それを治すために薬草を採りに行ったものの、途中で完全に狂ってしまったという可能性はあるように思えたんだ。


「ま、気をつけろよお前たち。ここで一番の腕前だった魔術師もやつに殺されてる。ありゃー、どう考えても只者じゃねえ。もしかしたら……魔女かもな……」


 大男が青い顔でよたよたと戻っていく。浴びるように酒を飲んでたんだろう。


「……コーゾー様、どうされますか?」


「……」


 アトリの声が何故か冷たく感じる。普通に喋ってるはずなのに、変だな……。


「……大丈夫だ。行こう」


「うっす」


「はい」


 そうは言ったが、不安がまったくないわけじゃなかった。リュカは今頃、精神異常の呪いによって近寄ってくる者全てが敵に見えてる可能性だってあるんだ。もう既に狂ってて暴れてる最中なのかもしれない……。


 もしそうなら、確実にまずいことになる。だが、そんなのは俺の不安から生じた推測に過ぎない。一人も欠けることなく、みんなで王都を目指すんだ……。




 あれからしばらく休むことなく走って、ようやくピラミッドがすぐそこまで迫ってきた。


「……アトリ、あそこにリュカはいるか?」


「……」


「アトリ?」


「……います」


 ……やはり、リュカもいるのか。でも、彼女がやっているとは思いたくない。なんだろうな。この気持ちは……。仲間になった途端、今までよりもずっと強くそう思うようになった。多分、それだけ彼女に放っておけない何かがあるということだろうが……。


「コーゾー様、お待ちください」


「アトリ……?」


 アトリの鋭い声で、ピラミッドを目前にして立ち止まることになった。ソースケも驚いた様子でまばたきを繰り返している。


「……リュカからいつもよりずっと強い気配を感じます。暴走しているかのような物凄い魔力です。……それでも行かれますか……?」


「……」


 暴走、だと……? やはり、彼女の身に何かあったのだ……。


「……あ、兄貴、さすがにヤバいんじゃないっすか、これ……」


「……ソースケ、俺は一人でも行く。リュカを早く止めないといけない……」


「いや、ここまで来たらあっしも行くっすよ!」


「……さすがは俺の弟分だ」


「調子いいんですから! 兄貴らしいっすけど……」


「……私もそう仰るだろうと思ってました、コーゾー様」


「……アトリ?」


 アトリが俺の手を握って笑いかけてきた。


「私も行きます。ずっと一緒ですから、死ぬときも……」


「……ああ。ずっと一緒だ、アトリ……」


「……嬉しいです」


「……」


 ……って、あれ。よく考えたら俺のこの台詞って、思いっ切り気があるような言い方でもあるような。アトリが勘違いしないといいが……。


「あー、ラブラブでいいっすねえ……。あっしも青春したい……いたっ。兄貴……?」


 俺はソースケの頭を小突いていた。戒める意味もあるが、95%物理・魔法攻撃回避という固有能力を持つソースケに当たるかどうか試したくなったんだ。まさか、一発目で当たるとは……。


「やっぱり、意外と当たるんだな……」


「ご覧の通りっす……」


 俺は勇気を貰った気がした。こうして5%の壁だって簡単に破れるんだ。たとえ相手が暴走した魔女だとしても、止めることはできるはずだ……。

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