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第九十回 命懸け


 ルド神父の話を聞いたことで、俺はリュカが何故、人間、それも勇者を憎むようになったかようやくわかった気がした。


 彼女は呪術によって痛みや視力障害を背負わされた挙句、相手の姿形や声を忘れさせられ、憎悪の記憶だけが残る最悪の状態にされてしまってるんだ……。


 だから、見つけ出して殺したくても、相手が勇者であることしかわからない。しかも相手がジョブチェンジしてしまっている可能性さえあるわけで、現在は呪術師であるとも限らない。


 ただ、勇者であることは間違いないわけで、彼女が今後目指している場所は勇者の選定の儀式が行われる王都グラッセルなのかもしれない。となると、魔王の復活が近い今、彼女を止めないと大変なことになってしまいそうだ。


「ルド神父、リュカは今どこに?」


「……ん、も、もしや、行くのか? 妹の部屋に……。命を捨ててもいいなら構わんぞ……」


「え……」


 見る見る顔面が青ざめていくルド神父。たかだか妹の部屋に行くってだけの話なのに、どれだけ命懸けなんだか……。


「兄から過去を聞いたことを伝えようと思って……」


「……う、ゲホッ、ゴホッ……あ、兄貴、それを伝えたところでどうなるって言うんすか……」


 喉に食べ物が詰まったのか、ソースケが苦い顔を向けてくる。


「勝手に過去を聞いたことを黙ってるわけにはいかないだろう? それを伝えた上で、彼女が今後どうしたいか聞こうと思ってな」


 真の勇者を目指す立場としても最悪な状況は避けたいし、場合によっては対立することもあるかもしれないが、それは仕方ない。私的な感情としては、仲間に加えることで彼女が抱いてた苦しさや寂しさを少しでも共有できたらいいと思ってる。それに、そのことが俺たちにとってもいい方向につながりそうな気がするんだ。


「それなら私も行きます、コーゾー様」


「アトリ……」


 立ち上がったアトリは少しやつれてる感じではあったものの、吹っ切れたのかすっきりした表情にも見えた。


「お互い様なのはわかってるのに、私は自分の気持ちを抑え切れず、相手の思いを踏みにじってしまいました。それを謝罪したいんです」


「……ああ、行こう。リュカもわかってくれるはずだ」


「はい……」


「……よ、よくわからないけど、あっしも行くんすか? 兄貴……」


「俺の弟分なんだから当然だろう?」


「……うう。わかったっすよ……」


 俺が笑いかけると、ソースケは観念したようにがっくりと項垂れた。


「……その、なんだ。コーゾーと仲間たちよ、私の妹を頼む。誰か死んだら、すまん……」


「……」


 怖いことを言う兄だ。そのせいでソースケの体が硬直してしまってる……。


「あ、兄貴ぃ……あっしはまだ死にたくねえっす……」


「ソースケ……大丈夫だって。リュカに攻撃されたとしても、たった5%しか当たる確率なんてないんだから」


「それが、余計怖いっす……」


「……」


 納得してしまった。こうなったら仕方ない。


「よし、それなら全員で行こうか。みんなで行けば怖さもなくなるはず」


「マスターの言う通りよっ、人形とヤファは当然として、みんなあたちについてきなさいっ」


 シャイル……俺の足元の影に隠れつつ言っても説得力が……。


「陰気な妖精が卑劣にも隠れるつもりなら、わたくしだって素直に人形の振りをしてますわ……!」


「あたいはただの狐の振りなのだあ! こんこんっ!」


「……みんな、堂々としてなきゃ気持ちは伝わらないぞ」


「「「はーい……」」」


「……ぐー……ぷはっ!」


 いつの間にか眠っていたターニャも水魔法で起こす。これで全員か……? いや、誰か忘れてる気が……。


「あ……! 兄貴、見つけたっす!」


「ひ、ひいぃっ!」


「お……」


 ソースケが、食卓の下に隠れていたラズエルを引き摺り出した。みんなそれなりに覚悟を決めてるってのに、一人だけ難を逃れようだなんて実にけしからんやつだな。


「……コーゾーどのぉ、どうか見逃していただきたい。魔女相手では、我はなんの役にも立てぬ……」


「ラズエルは青で統一されてるから、リュカが頭を冷やしてくれるかもしれないだろう?」


「……な、なるほど……?」


 しかも今は青ざめてるから全身ブルーだ。少しでもリュカの気持ちを落ち着かせる要素が欲しいところだからな。


 さて、ラズエルも首を傾げつつではあるが納得してくれた様子だし、準備は整ったから戦地に赴くか……。

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