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第八五回 すれ違い


 古都ゲフェルはなんとも寂れた町で少し肌寒かったが、とても広々としていた。大きな樹が中央に立っているのが特徴で、古来からここを中心として栄えてきたのだそうだ。


 ――勇者たちと手を振り合って別れたあと、大樹の側にあるという駐屯地に向かい、誘拐犯のパルとローガンを憲兵たちに引き渡す。


「では、頼んだぞ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 ラズエルに対し、憲兵たちはみんな一様に緊張した表情で敬礼している。結界術師の中で五本の指に入るだけあって、ブルーオーガはここでも有名なんだな。


「ヒカリちゃんも自首したらどうなんすかね」


「もー、ソースケ君のバカッ。あれは事故だってぇ……」


 頬を膨らませるヒカリ。絶対故意だな……。


「コーゾー、あたいご飯が欲しいのだ……」


「……」


 ヤファが涙目で俺の足にしがみついてきた。そうだな、飯にするか……。


「ちょっとヤファ、まさかヒカリのご馳走を狙ってるの? やめるべきよっ。お金がないわけじゃないんだし、フツーのレストランでいいじゃないっ」


「そ、そうですわ。シャイルに同意するのは癪ですけれど、毒が入っていたらと思うと……」


「もう毒でもいいのだ……食べたいのだ!」


「あはは……」


 ヤファは食欲旺盛だな。


「ヒカリ、そういうわけだから案内してもらえるか?」


「うん!」


「「えー!」」


「大丈夫ですよ、シャイル、リーゼ。コーゾー様には何かお考えがあるんですよ」


「そうですよ! 毒入りは嫌ですが、自分も正直食べてみたいです……じゅるりっ」


「……わ、我も、ほかの者が毒見したあとなら食してやってもいい気がする……」


 まーたラズエルがバリアを出してキンキン言わせてる……。


「「うー……」」


 どうやら反対派はシャイルとリーゼのみのようだ。


「……こうなったら、わたくしも寝返りますわっ」


「あー!」


 とうとうリーゼがこっちの党に入ってきた。これで野党はシャイル一人だけになってしまったな……。


「そんなに嫌ならシャイルだけここに残るか?」


「一人ぼっちはやだもんっ。あたちも行くっ」


「よしよし、みんなで行こうか。ヒカリ、案内してくれ」


 ヒカリも一緒なら安全なはずだ。


「……あ、僕はやめておく! ちょっと用事があるから……」


「……え?」


 この子は本当に行動が読めない……。


「その代わりー、はいコーゾー君っ。これあげる!」


「……これは……?」


 ヒカリが渡してきたのは、簡易な地図らしきものだった。みんなも一斉に覗き込んでくるのがわかる。


「この丸印のすぐ後ろのところに僕を召喚してくれた人が住んでて、そこに行ってこの地図を渡せば、盛大にもてなしてくれるよ。コーゾー君たちが助けてくれたって裏にメモだってしてるしねっ。多分、三十分くらいで着くと思う」


「……」


 そういや、ヒカリの人質らしき者は見当たらなかった。腹黒な彼女のことだから、わざと誘拐犯に捕まってライバルごとまとめて殺そうとしてた可能性さえある。そんな彼女がくれた怪しすぎる地図だが、本当に行ったらヤバイかどうかはすぐにわかる。


「シャイル、ここから西側みたいだが、吉凶を占ってみてくれ」


「うんっ……」


 シャイルに耳打ちする。さて、どんな結果が出ることやら……。




 ◆ ◆ ◆




「――へっくしょん!」


「ひっ……」


 セリアが側でくしゃみをしたので、青い顔で飛び退く潔癖症の雄士。


「……さみいな」


「……ですねえ」


 ロエルとミリムも立ち止まって震える。ゲフェル周辺は肌寒い気候だが、夕方から夜にかけては特に冷え込むことで知られていた。


「……もう大体探したよな?」


「……探しましたねえ」


「……探したはずよ」


「……もういいよ。充分探したよ……」


 セリアたちは光蔵とアトリを探すべく、広いゲフェルの町を隈なく歩き回ったのだが、夕方になっても一向に見つからずにいた。


「……ちっくしょう。必ずいるはずなのに、なんでだよ……」


「なんででしょうねえ……」


「知るわけないでしょ。てかロエル、あんたいっつも偉そうに提案してくるけど、ぜんっぜん頼りにならないわよね」


「……おいセリア、お前だって同意しただろうが」


「二人とも、喧嘩はよくないですう。あうあう……」


「……そ、そうだよ。喧嘩はよくないよ……」


「「あ?」」


「ひいいぃ!」


 鬼の形相のロエルとセリアを前にして雄士は飛び上がり、いずこへと逃げ出した。


「あ、待って、ごめん! 今のは興奮してただけ! どこにも行かないで、あたしの王子様ああぁっ!」


「もう嫌あああっ!」


「「はあ……」」


 ロエルとミリムの溜息はとうとう白く濁り始めた……。

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