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第八二回 的


「はー、えげつねえ。さすがにやりすぎっすよ、ヒカリちゃんは……」


「えっ、そうなの? 僕、なんか悪いことしちゃったみたいで、ごめんねっ。シャドウは食欲旺盛だから……」


「……」


 シャイルが怯えていた理由が今ならよくわかる。彼女は多分、魔女のリュカ以上に殺すことを躊躇しないタイプだ。殺すことが悪いことだという認識すらないのを窺わせる台詞だったからだ。


「あれっすね。危なっかしいからヒカリちゃんじゃなくて、これからヤミちゃんで……」


「えええっ。それじゃ、ソースケ君は優しいから呪術師じゃなくて法術師になろうねっ」


「いや、それはちょっと勘弁っす……」


「あははー」


 彼女を見て、悪意のない泥棒という言葉を思い出した。悪い子じゃないのはわかるが、それが余計に怖いんだ。


「コーゾー様、この方々は……」


「ああ、俺の弟分のソースケと、知り合いのヒカリだ」


「よろしっくす」


「よろしくぅー」


「よ、よろしくです。私はアトリといいます……」


 アトリ、笑顔で挨拶してるが声に力がないな。彼女のことだから、自分のせいでこうなったとか思って無駄に神経をすり減らしてそうだ……。


 ……思わぬ被害が出たが、とにかく人質を助けることはできたわけだし、あとは首謀者のパルとローガンを探し出して叩きのめすだけだ。今まで通り、俺がシャイルのサポートをする形になるだろう。


「あにょ……ちょっと質問してもいいかな?」


「ん?」


 勇者の輪の中から、黒いローブ姿の太った禿げ頭の男が出てきた。


「ボキュの仲間が人質の中にいないんだけども……」


「……え……」


「あの、俺も……」


「私も……」


「それがしも……」


 どんどん人質がいないと主張する勇者が名乗り出てきた。まさか、やつらに殺された? いや、まだ取引は成立してないわけで、そんなはずは……。


「――誰かをお探しかな?」


「アハハッ……」


「……あ……」


 松明の光が近付いてくる。それに照らされているのは、結界術師の男ローガンに呪術師の女パル、それにロープで縛られた人質らしき者たちだった。やつら、人質を二手に分けていたのか……。


「どうやってここまで来たのか知らないが……さすがはこちらが見込んだ勇者様だ。おそらく呪術のかかってない鼠の力でも借りたんだろうが、ここまでだ……」


「そいういうことさ。鼠がどこにいるのか知らないけどさ、そいつを使ってあたしらに少しでも抵抗してみなっ。ここにいる人質、一人一人ナイフで丁寧にぶち殺してやる」


「そういうことだ。鼠には慎重に行動させたほうがいい。何かしてきた時点で、パルかこの私が人質を始末することになる……」


「むう……」


 やつら、シャイルの存在を察知している様子。どうしようか……。《ダークフォレスト》を使い、混乱させてからシャイルに奇襲させたとして、用心している相手を立て続けに倒せるだろうか。もし長引けば《ダークフォレスト》が解けたあと、人質のうち何人かは殺される可能性がある……。


「コーゾー様、私が囮に……」


「……いや、大丈夫だ、アトリ。俺がなんとかする」


 囮なら体力面でずば抜けてそうなヒカリに頼むという手はあるが、下手したら人質にも被害が出かねない。あと、警戒されている以上、シャイルに行かせるのも危ない目に遭わせてしまいそうだからダメだ。


 何か、何か手はあるはずだ。考えろ。俺は前代未聞のジョブ、反魔師なわけで、こういう最悪な状況を覆せるだけの力はあるはずなんだ……。


 ……ん、待てよ……。反魔師のところで妙に何か引っかかった。反魔師っていえば、魔法に反する。すなわち反撃、カウンター……。


「……あっ」


「コーゾー様……?」


 思わず俺は身震いした。ついにわかった。やつらを倒せる上に一切の被害が出ずにみんなを救う方法が……。


「《スペルレイン》――《ダークフォレスト》」


 立て続けに小声で詠唱し、周囲を雨の降る漆黒の森へと変える。


「くっ、なんだこれは。一体何をした……」


「チックショウ、なんなのさ、この薄気味悪い森は! 人質をどこにやりやがったんだい! ぶっ殺してやる!」


 向こうの人質も巻き添えになってるから、怒号だけじゃなく悲鳴があっちこっちから上がってる。だが、解ける前に倒せば大丈夫だ……。


「そこの勇者、俺に魔法をかけてくれ」


「え、ボキュ?」


「そうだ。早く!」


「任せてちょんまげ! イオナ――じゃなくてっ、《ブラストエッジ》!」


「《カウンターボール》」


 輝く手で風の術を受け止め、素魔法に変換するとやつら目がけて飛ばした。


「ぎっ!」


「パルウゥ!?」


 暴れていた呪術師の女が倒れたが、アトリたちに変化は見られない。よし、思った通りだ……。カウンター、すなわち攻撃を跳ね返すという行動は相手に対する俺の攻撃とは認識されず、あくまでも俺に対する攻撃として《忠心の刻印》の制約を受けないようになってるんだ……。


 とはいえ、呪術師の女は一発で倒せたが、ローガンとかいうやつは風魔法じゃ無理そうだ。半透明な緑色のバリアが張られてることから、レベルはわからないが《オートマティックバリア》を覚えてるんだろう。


「もういっちょ頼む!」


「で、でもボキュ、風魔法しかないんだけどっ……」


「それでいい!」


「オ、オッケー大佐ぁ!《ブラストエッジ》――」


「――《エレメンタルチェンジ》――《カウンターボール》」


 属性を地に変えてから《カウンターボール》で跳ね返す。ちょうど精神に限界が来て《ダークフォレスト》が解けた瞬間だった。


「うぬっ……? ぐああっ!」


 ローガンが俺の跳ね返した地魔法を腹に受けて仰向けに倒れる。


「……お、終わった……」


 視界が霞んでいく。俺も無理をしすぎてしまったらしい。アトリに説教できる立場じゃないな。交錯する歓声と悲鳴が徐々に遠くなっていくのがわかった……。

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