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第八一回 闇討ち


「……頼む」


「うん……」


 シャイルが影になり、交代したばかりの見張りの背中を駆けあがっていく。再び姿を現わしたとき、その小さな両手には俺が地魔法で出した大きめの石があった。


「ごふっ……」


 見張りが白目を剥いて倒れる。よし、上手くいった。俺は振り返り、勇者たちに合図を送る。


「なるほどっす、シャイルちゃんを利用するとは、さすがは兄貴っ」


「シャイルさん、すっごーい」


「もうこの手段しかないしな。シャイル、人質のいる方角は大丈夫か?」


「うんっ。吉も凶も出てないよ」


「よし、見張りが交代に来てバレるまでにみんな急ごう……っと、この男を連れて行かないと……」


 俺は気絶した見張りの男を背負った。


「あ、兄貴、なんでそんなやつを……」


「なんでぇ?」


「《忠心の刻印》だけじゃなく、《束縛の刻印》も《因縁の刻印》でこの見張りと関連付けられてるから、このまま放置してたら逃げられない」


「な、なるほど……」


「……んー、それなら殺しちゃえば? 僕ならそうするよ?」


「「えっ……」」


 ヒカリの衝撃的発言で俺とソースケの素っ頓狂な声が被る。しかも彼女は笑顔のままという……。


「……ほら、あたちの言った通りでしょっ……」


「……」


 シャイルが耳打ちしてくる。いや、冗談で言ったかもしれないしな。とにかくこれ以上考えてる場合じゃない。急ごう。




「――マスター、あそこっ」


「あれか……!」


 家の影に隠れながら見る先には、篝火に照らされる眠そうな三人の見張りと納屋があった。


 あそこにアトリたちがいるわけだ……。だが、さっきやったように石で一人を殴ってたらほかの見張りに気付かれてしまうだろう。なので三人同時にやっつけるしかないが、それは不可能だ。だから……一か八か、アレを使うしかない。


 っと、その前に……。


「《スペルレイン》」


 俺を含め、勇者たちに呪文の雨を降らせる。


「あ、雨? これ兄貴の術すか……?」


「コーゾー君の術―?」


「ああ、みんな走るぞ!」


「「「――あっ……」」」


 見張りたちが俺たちに対して仰天した顔を見せるも、もう遅い。


「《ダークフォレスト》」


「「「ひぇっ……?」」」


 一瞬で周囲が暗い森に変化する。もうこの時点でやつらは迷子だし、声もそう遠くまでは届くまい。


「がふっ」


「ぐへっ」


「ぶぎっ」


 立て続けに鈍い音が響いて男たちが倒れるのがわかる。シャイルがやってくれたんだ。やつらの無様な姿がクリアになってるし、今までと比べると楽になってる気がするから、もしかしたら《ダークフォレスト》のレベルが一つ上がったのかもしれない。もちろん、精神鏡を覗いてる暇はないのですぐに術を解除し、納屋の中に飛び込んだ。


「――アトリ!」


「コーゾー様! 無事でよかったです。信じてました……」


「ああ……みんなも無事か?」


「はい。私以外は寝ちゃってますが……」


「……」


 みんな随分気持ちよさそうに寝ちゃってるなあ……っと、それどころじゃなかった。人質全員を外に出し、目立たないところまで運ぼうとしたものの、何故かついてこないと思ったら……そうだ、《束縛の刻印》を食らってるんだった。見張りが気絶してるだけじゃ術は解除されないからな。


「一緒に連れて行こう」


「……えー、面倒だよぉ。僕がなんとかするっ……」


「……ヒカリ?」


「《精霊召喚サモン・シャドウ》」


 ヒカリが詠唱を始めてまもなく、魔法陣が現れた。


「……あ、わーい。一発で成功したー!」


 ……ま、まさか……。


 勇者たちからどよめきが上がる中、魔法陣が完成して中から人の子サイズの黒い影が出現したかと思うと、立ち上がって俺たちをきょろきょろと見回し始めた。あれが闇の精霊シャドウなのか……。


「シャドウ、あの倒れた三人を食べていいよっ」


「……なっ……」


 あっという間だった。召喚主のヒカリの命令で、待ってましたとばかりシャドウが倒れた三人に飛び掛かり、食べ始める。血が出るわけでもなく、食われた部分が影になってシャドウに吸収されているようだった。実際、食べるたびにどんどん大きくなっていく……。


「あ、あぁう……」


 ヒカリがしゃがみ込み、首を押さえて悶え苦しみ始める。気絶した相手でも《忠心の刻印》が効果を発揮している証拠だ。俺は目を背けた。高レベルの呪術だから、死ぬのは避けられないだろう……。


「……んんっ……」


「……え……」


 よがり声がしてヒカリのほうに視線をやると、依然として赤い顔で苦しそうではあるが、それだけじゃなくて喜びも入り混じっているように見えた。なんてタフなんだ……。まさか、体力が凄くあるタイプなんだろうか? その間に、闇の精霊シャドウは見張りの三人を全員食べてしまって三メートルほどの巨人になっていた。


「……あー、危なかったあ。僕、もうちょっとで死ぬところだった……てへっ」


「――ひ、ひい!」


「あ、ダメだよ、今逃げたらっ」


「ぎゃああああっ!」


 逃げ出した一人の勇者をシャドウが追いかけて捕縛すると、同じように黙々と食べ始めた。


「そ、そんな……」


「うげげっ……」


 アトリが呆然とするのも、ソースケが苦い顔で口を押さえるのもわかる。なんとも胸糞悪い……。


「あーあ、言わんこっちゃない。一度食べ始めたら狂暴化して、逃げる人に反応しちゃうの。はーい、残さず食べたね。お疲れ様、シャドウッ」


 ヒカリの発言で満足したかのように消えていくシャドウ。末恐ろしい。終始笑顔の召喚師も含めて……。

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